Externally published papers
Scientific Reports 2018 8:9633
Characterization of influenza virus variants induced by treatment with the endonuclease inhibitor baloxavir marboxil
Shinya Omoto, Valentina Speranzini, Takashi Hashimoto, Takeshi Noshi, Hiroto Yamaguchi,
Makoto Kawai, Keiko Kawaguchi, Takeki Uehara, Takao Shishido, Akira Naito, and Stephen Cusack
ゾフルーザ®として知られるバロキサビル マルボキシル(BXM)はプロドラッグであり,体内で小腸,血液,肝臓中のエステラーゼによって速やかに加水分解され,バロキサビル マルボキシル活性体 (BXA) に変換されます.BXAは,A型及びB型インフルエンザウイルスのPAタンパク質が有するキャップ依存性エンドヌクレアーゼ (CEN) 活性を選択的に阻害します.CENは,キャップ構造を有する宿主細胞のmRNA前駆体を特異的に切断し,ウイルスのmRNA合成に必要なプライマーとなるRNA断片を生成する際に必要な酵素です.従って,CEN阻害活性を有するBXAはウイルスのmRNA合成を阻害することができる為,ウイルス増殖を細胞内で抑制することが可能です.
臨床試験において,PAタンパク質の38番目のアミノ酸がイソロイシンからスレオニンに置換した (PA/I38T) BXAに対し低感受性を示すウイルスがBXM投与後に一部被験者において検出されました.そこで本研究ではPA/I38Tウイルスの性状についてウイルス学的及び構造生物学的な側面から解析を行いました.薬剤感受性試験の結果, A型ウイルスでは約30-50倍,B型ウイルスでは約7倍,PA/I38T置換によりBXAに対する感受性が低下することが明らかとなりました.他方,野生型ウイルスと比較して,A型のPA/I38Tウイルスの増殖性は低下していました.さらにX線結晶構造解析により,A型及びB型ウイルスのPAタンパク質とBXAの複合体構造を解明することに成功しました.BXAのPAタンパク質に対する結合様式は,A型及びB型ウイルスにおいて同様であること,またPA/I38T置換が起きた場合,野生型と比較してBXAの結合様式はほとんど変化しないが,BXA結合部位におけるファンデルワールス力による相互作用の低下が薬剤感受性低下につながることが示唆されました.
本研究では,BXAのPAタンパク質との相互作用を原子レベルで解明すると共に,PA/I38T置換のウイルス増殖性への影響及びBXAに対する感受性低下の詳細を明らかにしました.特にBXAとPAタンパク質との複合体構造解析は,フランスのEuropean Molecular Biology Laboratory (EMBL) Grenoble Outstationとの共同研究を通じ,世界有数のシンクロトロン施設を用いて実施した研究です.今後もシオノギは,外部研究機関との共同研究を積極的に行いながら最先端の科学技術を駆使した研究を推進し,ゾフルーザの適正使用のための情報提供に努めます.
Journal of pharmaceutical science 2019 108, 2718-2727
Successful prediction of human pharmacokinetics by improving calculation processes of physiologically based pharmacokinetic approach
Kei Mayumi, Shuichi Ohnishi, and Hiroshi Hasegawa
創薬の探索研究段階におけるヒト血漿中濃度推移 (PK) の予測は,臨床投与量の推定,安全性マージンの算定及び薬物間相互作用リスクを把握する上で極めて重要な情報となります.しかし,これまで汎用されてきたヒトPKの経験的な予測手法では,ヒトと動物間で体内動態特性に種差が認められる場合,ヒトPKの予測が困難でした.そこで,本研究では,体内動態特性の種差に依らず,確度高くヒトPKの予測が可能となる手法を確立するために,生理学的速度論解析 (PBPK)の有用性を検証しています.PBPK法は,生体由来試料を用いたin vitro試験結果や生理学的素因 (生体組織構成成分,組織容積,血流速度) などから構成される数理モデルを基にヒトPKを予測する方法です.従来から汎用されるPBPK法では,特定の化合物特性を示す化合物において予測性が低い場合があり,創薬の探索研究で活用できるレベルではありませんでした.この原因は,化合物の組織分布及び代謝について,ヒトの生体環境を模倣した計算ができていないためと考えられています.本研究では,ヒトの組織移行性予測において,組織構成成分と化合物の物性値等に基づく組織分布の理論値をラットの分布容積により補正する新規手法を適応しました.また,肝臓におけるタンパク非結合型化合物の肝固有クリアランスを算出するあたり,従来からのfree理論に基づいた予測方法ではなく,化合物の生体内挙動をより緻密に再現可能なpH分配仮説及びアルブミン介在性の肝移行を考慮しました.これらの知見を含むPBPK法を用いて静脈内投与後のヒトPKを予測した結果,ヒトPKパラメータの予測結果は平均して実測比2倍以内と極めて高い予測確度を得ることができました.したがって,本手法は,探索研究段階においてヒトPK予測手法の新機軸として活用可能であり,ヒト体内動態の予測結果を基にした化合物選抜や構造最適化といった究極の創薬手法の実現に繋がると考えています.
Journal of Medicinal Chemistry 2019 62, 5080-5095
Structure-Based Design of Selective β-Site Amyloid Precursor Protein Cleaving Enzyme 1 (BACE1) Inhibitors: Targeting the Flap to Gain Selectivity over BACE2.
Kazuki Fujimoto, Eriko Matsuoka, Naoya Asada, Genta Tadano, Takahiko Yamamoto, Kenji Nakahara,
Kouki Fuchino, Hisanori Ito, Naoki Kanegawa, Diederik Moechars, Harrie J. M. Gijsen, and Ken-ichi Kusakabe
アミロイドβ(Aβ)の脳内蓄積は、アルツハイマー病の発症要因の一つと考えられており、その産生の律速酵素であるBACE1の阻害剤は、有望な予防・疾患修飾療法剤として期待されています。BACE2はBACE1のホモログであり、その阻害により毛の脱色等の副作用が報告されています。したがってBACE1選択的阻害剤の開発は、潜在的な毒性回避の観点から重要です。BACE2に対する選択性の獲得を目指して、両酵素でアミノ酸残基の異なるFlap領域を狙って各種化合物を合成した結果、高いBACE1選択性(550倍)を有するスピロチアジン型化合物22を見出しました。本化合物と両酵素の複合体結晶構造を取得し、それぞれのアポ体構造と比較した結果、BACE2複合体のFlap領域はBACE1複合体構造と比べて溶媒露出方向に向かって大きく移動しており、これによるエネルギー的不利が選択性発現に寄与したものと考察しました。