抗菌薬にかけるSHIONOGIの想い。産官学連携で感染症に立ち向かう理想をめざして
2024年2月28日公開
2023年11月、塩野義製薬が創製した薬剤耐性感染症の抗菌薬が、厚生労働省の新制度「抗菌薬確保支援事業」で初の対象薬剤として採択されました[i]。この裏で重要な役割を担ったのが渉外部です。社内にとどまらず、製薬業界、政府や行政、海外の専門機関との対話に尽力しました。
そんな渉外部が、歩んできた道のり、いま立つ地点、そして目指す場所とは?「“SHIONOGI人”として、思い入れのある抗菌薬を通じて社会貢献をしたい」と語る渉外部の有吉祐亮さんに、その真意をお伺いしました。
[i] 新規シデロフォアセファロスポリン系抗生物質製剤 「フェトロージャⓇ点滴静注用1g」の国内における製造販売承認取得について
https://www.shionogi.com/jp/ja/news/2023/11/20231130.html
抗菌薬開発のジレンマ。新たな可能性を切り拓くために
新しい抗菌薬[ii]の開発には、多くの時間と費用がかかり、成功も確約されていません。さらに、やっとの思いで販売までこぎつけても、使いすぎると効かなくなることもあるため、適正に使用する必要があります。実は、耐性菌を生じさせないためには、抗菌薬を使わないほうがいいのです。抗菌薬は必要不可欠な医療資源でありながら、ビジネスとして成り立たせるのは非常に難しい。製薬会社にとって、これは大きなジレンマです。
[ii] 細菌の増殖を抑制したり、殺菌したりする感染症の治療薬
このジレンマを解消するために導入されたのが「抗菌薬確保支援事業」です。薬剤耐性菌による感染症に対する抗菌薬を開発し、耐性菌の出現を抑制するためにそれを適正に使用することに協力する企業に、国が収益の一定額を保証してくれる仕組みになっています。
また、抗菌薬確保支援事業のような制度設計は、日本製薬工業協会(製薬協)などを通じた社外との連携も必要ですので、政府・省庁に抗菌薬の現状を理解いただいたうえで取り組む必要があります。その際は、SHIONOGIおよび製薬協の窓口としての役割を担いました。
組織の枠を超えた産官学連携で、「個」の限界を突破する
──今ある抗菌薬が効かなくなるAMR[iii]問題についても、産官学が連携して対処しているのでしょうか?
[iii] 薬剤耐性。抗菌薬が効きにくくなる、または効かなくなること
特にAMRに関しては、海外の耐性株が日本に入ってきている状況を踏まえ、産官学が連携して迅速に対処していく必要があります。
海外事業部にいたとき、私は東南アジアで感受性検査やサーベイランスに係る取り組みを行いました。大事な取り組みでしたが、いわゆる「点」の取組みであり、全体に影響を及ぼすには別のアプローチも必要であることを思い知り不完全燃焼の感があったことを今でも覚えています。この経験から、その国の政府が引っ張ることで、より大きなインパクトを生み出すことの重要性を実感しました。
しかし、耐性菌が増加し、抗菌薬が効かなくなると、感染症治療だけでなく、抗がん剤治療や手術にも支障をきたすようになります。日常生活に直接影響を及ぼす可能性があり、非常に身近で怖い問題なのです。だからこそ、AMR問題に対する理解と対策が急務となっています。
そうですね。少し昔の話をすると、1980年代後半にMRSA[iv]感染症が日本で流行し、大きな社会問題になりました。当時、抗菌薬の使い過ぎという問題もありました。その後抗菌薬適正使用の推進だけでなく、感染制御に対する取り組みが強化され、耐性菌の発生・拡大を抑制し、今も日本の耐性菌が少ないという状況に貢献していると考えられます。その背景には、医療従事者のたゆまぬ努力と政府(厚労省)による診療報酬上の加算など日本独自の取組みがあったと思います。
[iv] メチシリン耐性黄色ブドウ球菌
そしてその先に描く光景は、必要とされる抗菌薬が持続的に開発され、それらがグローバルで適正に使用されて、多くの命が救われること。ここにどれだけ近づけるかだと思います。
AMR問題と対峙した、その先に見えたもの
──仕事を通じて達成感や誇りを感じた瞬間はありますか?
国内だけではなく、AMRへの課題意識を有する日米欧のグループ会社の社員、製薬協やIFPMAを通じた他の製薬企業の方々、各国政府や国際機関の関係者の方々と思いを一つにしてアドボカシー活動ができることに誇りを感じています。
また、みんなと協力して世界共通の社会問題に取り組み、少しずつではありますがプル型インセンティブが実用化されていく様を見たときは、感慨深いものがありました。
残念ながら、この取り組みは現時点では一部の国と地域に限られていることや、試行的な面があるので、予算面でも新しい抗菌薬を開発するための支援として十分であると一概には言えません。とはいえ、抗菌薬におけるプル型インセンティブはまだ始まったばかりであり、将来的には抗菌薬開発を促進する重要な仕組みになる可能性を秘めています。