米国バイオテックベンチャーQpex社との経営統合。「価値最大化」を目指した統合プロセス奮闘記

2024年3月29日公開

2023年6月、SHIONOGIグループは、薬剤耐性(AMR)を持つ細菌による感染症治療薬の開発を手がけるアメリカ・サンディエゴの製薬会社「Qpex Biopharma」と経営統合しました。塩野義製薬、アメリカのグループ会社であるShionogi Inc.、Qpexからなる統合事務局を主導し統合プロセスの推進に尽力したのが、経営企画部に所属する横山怜示さんと西島尚吾さんです。

今回の統合の意義と、約半年間にわたる統合プロセス推進の道のりを振り返っていただきます。

横山怜示 2010年入社(写真右側) 製剤研究所で、最適な医薬品の処方や製造法を研究する研究職を経て、2021年に経営企画部に参画。
西島尚吾 2011年入社(写真左側) 製薬研究所で、活性成分を安価に安全に大量に製造するという、原薬製造法の研究・管理に携わる。全社的な取り組みに関わりたいとの想いから、2022年に経営企画部に参画。
横山怜示 2010年入社(写真右側) 製剤研究所で、最適な医薬品の処方や製造法を研究する研究職を経て、2021年に経営企画部に参画。   西島尚吾 2011年入社(写真左側) 製薬研究所で、活性成分を安価に安全に大量に製造するという、原薬製造法の研究・管理に携わる。全社的な取り組みに関わりたいとの想いから、2022年に経営企画部に参画。

経営企画部として、経営統合による塩野義製薬とのシナジーを最大化する

――研究職から経営企画部に参画されたおふたりですが、どんなお仕事をされているのですか。

横山:経営企画部は、会社の戦略や進む方向性を定め、それを実現するために必要な活動をプロジェクトの旗振り役となって推進する部署です。例えば、中期経営計画の策定や経営基盤の強化を目的としたM&Aや業務提携、コーポレートブランディング活動といったプロジェクトを、社内外の様々なステークホルダーと連携して前進させることが主な業務です。

 

今回の経営統合に伴い、Shionogi Inc.およびQpexのメンバーも統合事務局に参加してもらい、経営統合に向けた方針策定や実行プランの検討をグローバルメンバーと共に主導しました。経営統合を開始してから、研究開発や経理財務、人事、法務、ITなど関係部署との連携を図り、価値最大化に向けて必要な様々なタスクを完了させました。

――これまでの文化が異なる2社の業務や意識を統合させる難しい仕事ですね。

西島:経営上は統合しても、両社の業務システムやカルチャーまでが自然と統合されるわけではありません。両社のカルチャーを尊重して、目標に向けて協力できる環境と信頼関係を構築することは非常に重要です。経営企画部は、両社統合の効果を最大化させるために尽力してきました。

 

横山:塩野義製薬とQpexはともに感染症領域に強みを持つ製薬会社ですが、今回の経営統合はお互いの強みを伸ばし合うコラボレーションです。Qpexとは良好な関係を築き、「こんな薬も開発できるのでは?」と活発に議論を行いながら、統合プロセスを共に進めています。

Qpexとの経営統合はお互いにとってwin-win

――今回、塩野義製薬がQpexを経営統合した意図はどのようなものだったのでしょうか。

西島:抗菌薬の研究開発において、深刻化するAMR対策は重要な課題です。その点、Qpexは同領域での研究開発をとてもスムーズに行っている会社であり、これまでにも数多くの有益な化合物を創出してきました。塩野義製薬が持つ感染症研究の強みと掛け合わせることで、より価値の高い医薬品をスピード感をもって創薬することが期待されます。

 

また、抗菌薬は必要不可欠な存在でありながら、AMRの観点から多用しないほうがいいというジレンマを内包しており、利益を生み出しにくいビジネスです。すべて自社でまかなうのではなく、各規制当局、学術的なパートナーなど外部ネットワークと連携することは非常に重要です。

横山:Qpexは、外部機関とのネットワークにも強みを持つ会社です。例えば、アメリカでの感染症危機に備えてワクチンや医薬品、治療法などの開発支援を行うBARDA(アメリカ生物医学先端研究開発局)とも強固なネットワークを構築していることから、グローバルで価値ある抗菌薬を開発する上で大きな助けとなります。また、学術的パートナーとしてサンディエゴ周辺のバイオテックベンチャーや、感染症領域のオピニオンリーダーとの繋がりも貴重なものです。

――SHIONOGIグループは、「治療薬にとどまらない感染症のトータルケア」「持続可能なビジネスモデルのグローバル展開」をグローバルに展開しながら、 マテリアリティ(重要課題)である「感染症の脅威からの解放」の解決に向けた取り組みを進めることを、STS2030 Revision(中期経営計画)で 掲げています。Qpexとは相性のよい巡り合わせだったのですね。

横山:そのとおりです。感染症という今後ますます重要になる領域で、価値ある医薬品を患者さまに届けるために、両社が力を合わせることは通常の経営統合以上の大きな価値があります。

――研究面での統合メリットは具体的にどのようなものでしょうか。

西島:Qpexには「ボロン酸誘導体」のスペシャリストがいます。ボロンケミストリー※1はQpexの強みの1つであり、今後塩野義製薬との相乗効果が見込まれる研究領域です。

 

※1:ホウ素が有する特異な性質を理解し、新たな応用や技術の開発につなげることを目指す化学関連の研究分野

 

 

また、Qpexが有する「新規βラクタマーゼ阻害剤」は、幅広いβラクタマーゼ※2に対する効果を期待して開発が進められています。抗菌薬の有効成分の分解を阻害し、耐性をつきにくくするうえに、すでに薬剤耐性を持っている耐性菌に対しても効果を発揮する可能性があります。

 

 

※2:細菌が産生するβラクタム系抗生物質の抗菌活性を失わせる加水分解酵素

 

――Qpexも「新規βラクタマーゼ阻害剤」に適した抗菌薬の組み合わせを模索しているのですね。塩野義製薬の抗菌剤との組み合わせで期待できる見込みが出たことも、統合理由のひとつでしょうか。

横山:病原菌は常に変異を繰り返して耐性を獲得します。そのため、感染症の変異と治療薬の開発はいたちごっこです。感染症治療薬のリーディングカンパニーである我々は、耐性菌に対する次のソリューションを社会に提供し続けないといけません。AMR対策という終わりのない戦いにおいて、Qpexという、ともに同じベクトルを向いて前進できる素晴らしいパートナーを得られたことは、SHIONOGIグループにとって重要な一歩になりました。

真摯に向き合い議論を重ねた統合プロセス

――Qpexとの統合プロセスの中で印象的なエピソードを教えて下さい。

西島:思い出深いのは、初めての顔合わせである「Kick-offミーティング」です。こちらがサンディエゴを訪れて、統合後のビジョンをお互いにプレゼンテーションし合いました。実際に全員が顔を合わせて打ち解けた瞬間が本当の始まりだった気がします。

横山:私たちはQpexと可能な限り本音で包み隠さず語り合うことを心がけています。変にオブラートに包んでしまうと、お互いに都合の良い解釈をしてしまい、認識にズレが生じてしまいます。相手の意見を真摯に聴き、議論を重ねることを心がけました。

 

経営統合は多くの決めることがありますが、それらを親会社の決定事項として買収された会社に通達するやり方も中にはあるかもしれません。しかし、それだと買収された側の会社は混乱し、従業員のモチベーションも下がるでしょう。最悪の場合、キーパーソンの離職も考えられます。QpexはSHIONOGIと同じベクトルで感染症に挑むかけがえのないパートナーであり、強い結束力で結ばれた14名の専門家集団です。私たちは、彼らとSHIONOGIグループが継続して価値を出し続けられるように、統合方針や目指す姿についてQpexの経営層と対話を重ねました。

 

ですから、統合プロセスの半年間はオンラインミーティングを毎週、対面でのオフラインミーティングも4回行いました。コミュニケーションを通じて、「これから塩野義製薬とともに手を取り合って前進していきましょう、Qpexのスタイルをできる限り尊重します」という「心からの歓迎の姿勢」へのアンサーが、Qpexサイドの協力的で意欲的なスタンスに繋がったのだと嬉しく思っています。

「統合プロセスを楽しめた」ねぎらいの言葉に安堵

――人と人を繋ぐ統合プロセス、やりがいを感じた場面はありましたか。

横山:Qpexのメンバーからも「よくやってくれた」という言葉をもらったときは達成感を感じました。「覚悟」や「挑戦」と言うと大げさかもしれませんが、実際のところ自分なりに一生懸命やりぬけたと思います。正直に言うと、心が折れそうになる困難もありましたが、プロジェクトにかける熱意が、挑戦や粘り強さの源になるのだと感じました。

 

西島:両社の統合方針の大枠が定まり、統合事務局の役割を他のメンバーへ引き継ぐタイミングで再度Qpexを訪れました。その際にQpexのメンバーから「よくやってくれた」、「経営統合のプロセスを楽しみながらできてよかった」と言ってもらえました。彼らの納得のうえでプロセスを進められたと分かって、心底安堵しました。結局、何事もやると決めてとりかかったら、やりきるしかないですよね。もちろん皆さんの協力があってのことですが、自分達ならできると信じて走りきりました。

 

今回の記事制作にあたっても、Qpexのメンバーから力強く温かいコメントが届いています。下記に紹介します。

Qpexメンバーからのメッセージ

Qpex team menber

Qpex and Shionogi have been working closely since the close of our merger last July. We have completed crucial phases of integration, including our IT, finance, and HR functions. Our development teams have worked together to advance new research programs with Shionogi teams in Osaka.

 

Qpex team members are enthusiastic about being a Shionogi Group Company that will discover and develop critically needed, durable, and sustainable medicines for the treatment of infectious diseases, particularly those diseases that have been impacted by antimicrobial resistance. The Qpex team embraces the values of trustworthiness, boldness, innovation, and to respect diversity. Together we will contribute to Society--and we will also play to win! We believe our US-based team will contribute meaningfully to Shionogi’s business goals as articulated in STS2030, and excited to be part of the journey together.

 

「Qpexと塩野義製薬は昨年7月の合併を機に、密接な協力関係を築いてきました。IT、財務、人事などの統合における重要な段階を完了し、私たちの開発チームは塩野義製薬のチームと新たな研究プログラムに積極的に着手しています」

 

「Qpexのチームは、SHIONOGIグループの一員として、耐性菌の問題を持つ感染症の治療薬を見つけて開発していくことに大きな熱意を感じています。私たちは塩野義製薬が掲げる「コンプライアンスの徹底」「既成概念の打破による進化」「不屈の精神による貫徹」「多様性の尊重」という価値観を共有し、社会に貢献し、成功を収めることを目指しています。STS2030(中期経営計画)で掲げられたSHIONOGIグループのビジネス目標に対して、私たち米国チームが意義深い貢献をすることを信じており、この共同の旅路にわくわくしています」

――これから統合プロセスを完了していく中で、経営企画部としてどんな貢献をしていきたいですか。

横山:1億ドルの投資をきちんと社会への価値提供や自社の価値創出に繋げることが大切だと考えています。投資した金額以上の価値を社会へ還元できるよう、シナジーを最大限に高めていきたいです。

 

特に今回のQpexとの統合は、塩野義製薬の感染症領域におけるグローバル化に向けてのフラッグシップモデルとなるでしょう。アメリカに確固とした研究開発拠点をもつのは、グローバル展開の足がかりであり、SHIONOGIグループにとって大きな一歩です。

 

西島:これからは、感染症研究のグローバル展開が一層重要になると考えています。Qpexとともにさらなるスピード感をもって研究開発を進め、感染症の脅威からの解放に向かって社会貢献を重ねることで、塩野義製薬の存在感が高まっていくでしょう。新しい仲間とともに未来へのバトンを繋ぐこと、それがこれからの私たちの使命です。

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