医薬品の適正使用の推進
医療へのアクセス改善に向けてSHIONOGIが取り組むべき重要なポイントは、医学的知識を正しく伝え、疾患認知・診断率・医薬品の適正使用を向上させることです。
感染症薬の適正使用に向けた取り組み
既存の抗菌薬が効果を示さない細菌(耐性菌)が増加している現状はSHIONOGIにとっても重大な懸念事項であり、それを解決するべく、SHIONOGIは世界中の医療従事者に対して感染症薬の適正使用を推進・教育することに尽力しています。
適正使用・管理
感染症薬を扱う企業の責任として、薬剤耐性(Antimicrobial Resistance、以下「AMR」)の発生抑制に向けた適正使用の推進は必須です。SHIONOGIはAMR感染症治療薬セフィデロコルを2020年2月に米国で「FETROJA」の名前で販売を開始しました。さらに欧州では、2020年4月以降「FETCROJA」の製品名で順次承認を受けて発売していますが、SHIONOGIでは自社で抗菌薬を販売する地域においては、医療情報担当者の抗菌薬の販売量と人事評価を切り離しています。評価との切り離しは、長期にわたる適正使用を支え、患者さまのよりよい治療効果を導き、必要な抗菌薬の持続性にもつながると考えています。
セフィデロコルのグローバルでのアクセス拡大にあたりAMR感染症が深刻な地域ほど公衆衛生・貧困の影響で医療環境が整っていないことも多く、感染症薬の適正使用に課題があります。
2022年6月に締結したセフィデロコルのアクセス拡大を目的とした、塩野義製薬、 Global Antibiotic Research and Development Partnership (GARDP)、Clinton Health Access Initiative (CHAI)との提携契約*には、抗菌薬の適正使用を確実なものとするために必要な、医療機関でのスチュワードシッププログラムの強化を目的とした各国の保健省や専門家との協力・支援に関する規定が含まれています。この規定は、セフィデロコルの適正使用を促し、新たな耐性菌の出現を回避するために非常に重要なアクションとなります。SHIONOGIはこれからも、感染症薬の適正使用を推進し、新たな耐性菌・耐性ウイルスの発生を防ぎ、患者さまが現在のみならず未来も治療を受け続けられるように、継続的に取り組んでいきます。
また、製造活動においては、第三者サプライヤーを含め、どの工場が排水中の抗菌薬濃度の基準を満たしているかの詳細な情報を公開しており、製造工程の透明性が最も高い企業でもあり、抗菌薬の環境への排出を軽減できるように取り組んでいます。この取り組みはAntimicrobial Resistance Benchmark 2021*の調査において高い評価を受け、Manufacturing(製造)の項目では、トップスコアである93を獲得しました。
*オランダを拠点とする NGO「Access to Medicine Foundation」が薬剤耐性(AMR)に関する取り組み状況を分析、評価した世界初のレポート
適切な抗菌薬使用を推進することに加えて、SHIONOGIは耐性菌感染症に関する経年的で精度の高いサーベイランス活動を実施する各国のアクションプランを支援しています。サーベイランスによる正確な疫学情報の把握、各種ガイドライン文献の精査など、感染症薬の適正使用・管理に必要な情報を引き続き提供していきます。
さらには、抗インフルエンザウイルス薬「ゾフルーザ」の適正使用に向けて、ウイルス変異株や安全性に関する追加解析等にも鋭意取り組み、それらの情報を正確に提供していきます。
普及啓発・教育
感染症薬の適正使用にあたっては、疾患や感染予防・制御等の正しい知識の普及啓発・教育が必要不可欠であり、そのための取り組みも積極的に進めています。
2021年度には、一般市民対象の啓発セミナーや実践教室、ホームページ啓発を中心に活動しています。啓発セミナー・実践教室では、ワールド・ビジョン・ジャパンとの取り組みとして小学生向けサマースクール、東京保健所長会共催の産官学連携「高齢者施設における感染症研修会」、一般社団法人 女性の健康とメノポーズ協会との「女性の健康」に関する取り組み(共催セミナー)を実施しました。さらに、ホームページ啓発では女性特有の感染症対策として「女性感染症ナビ」、高齢者の方々の健康維持・感染症対策として「高齢者感染症ナビ」、HIV感染症に関する正しい情報の普及啓発として「マンガで学ぶHIV/エイズ」を公開致しました。
また、最近ではSHIONOGI公式Twitterアカウントを通じて、上記活動の発信も行っています。
疼痛薬の適正使用に向けた取り組み
がん患者さん・一般市民への啓発
SHIONOGIは、がん疼痛に苦しむ患者さんが、医療用麻薬をより安心して使用できる社会創りを目指しています。
WHO方式がん疼痛治療法が発表された1980年代後半、日本でがん疼痛薬としての医療用麻薬がほとんど普及していない中、当時の厚生省からがん疼痛薬としての医療用麻薬の開発要請があり、持続性がん疼痛治療薬である「MSコンチン錠」の開発を引き受け、1989年に発売しました。以後、行政や学会、医療従事者の方々とともに、30年にわたりがん患者さんにとってのよりよい鎮痛を実現する活動を行って参りました。
昨今、米国でのオピオイドクライシスをはじめとする薬物乱用問題は全世界的な広がりを見せ、人類が抱える最も深刻な社会問題の1つとなっています。
日本での医療麻薬を提供する企業の責任としてこのような社会問題を引き起こすことがないように、SDGs 3.5に掲げられた「麻薬乱用やアルコールの有害な摂取を含む、薬物乱用の防止・治療を強化する」に寄与する活動を様々なステークホルダーの対話を通じて行い、医療用麻薬をはじめとする薬物乱用を起こすことのない社会の実現に貢献していきます。同時に、痛みに苦しむがん患者さんのよりよい鎮痛達成に向けた活動も行って参ります。
愛知県と連携し、薬物乱用防止活動を推進
2018年5月に愛知県と締結した「愛知県の薬物乱用防止協力に関する協定」に基づく活動を毎年行っています。
2021年11月には、愛知県に拠点を置き医薬品の適正使用に関する啓発活動を行っている特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(J-DO)との共催にて愛知県民公開講座「-身近にある鎮痛剤としての医療用麻薬を正しく知る-」(WEB講演)を開催いたしました。
本講座では、J-DOの理事長と副理事長より、今もなお多くの方々が有する医療用麻薬に対する誤解(最後の手段、一度使い始めたらやめられない)や、その取扱いに関する注意点(他人に譲渡しない、子供やペットの手の届かない所で保管すること、使わなくなった医療用麻薬は処方を受けた病院・薬局にて処分してもらうこと)、そして、痛みは我慢しないで医療者に訴えることの重要性について解説いただきました。
上記の活動以外にも、プレスセミナー「痛みを我慢せず自分らしい生活を送っていただくために~みんなで医療用麻薬を正しく知る~」を開催して、3名の登壇者を通じて一般の方々に対して医療用麻薬への誤解を解消し、正しく理解をすることが、痛みを伴うがん患者さんのQOL向上にもつながることを解説いただきました。
また、Webサイト「がんのつらさ~つらさ聴いてつたえて~」の他、がん経験者運営企業キャンサー・ソリューションズ株式会社とともに作成した啓発動画「がん患者さんと医療関係者間の痛みを通じたコミュニケーションのコツ」をYouTube上で発信し、ひとりでも多くのがん患者さんが望む鎮痛目標の達成に貢献すべく活動を行っております。
スポーツにおけるドーピング防止に向けた取り組み
SHIONOGIは、スポーツにおける医薬品の誤用や乱用によるドーピングの防止へ向けて世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の取り組みに協力しています。
スポーツにおけるドーピングは商業流通している医薬品以外にも、まだ広く認知されていない、あるいは検出手法が確立されていない開発段階の化合物が誤用・乱用されることも少なくありません。ドーピングに該当する医薬品や化合物の誤用・乱用はスポーツ界におけるアスリートの健康や公平な競争精神に被害を与える可能性があります。
SHIONOGIはアスリートが健康を保ち、公平な条件の下で競技が行われることを望み、これに貢献するため、自社開発品に関するWADAとの情報共有を通じて製薬企業としての社会的責任を果たしてまいります。
聴覚・視覚障がい者の服薬バリア解消を目指す取り組み
-「最もよい薬」に必要な「情報」をすべての患者さまに-
医薬品は健康や生命に関わるものであるため、薬が持つ効果を最大限に引き出し、かつ副作用を最小限に抑えるために、医療従事者による服薬指導等を通じて情報提供が行われています。 SHIONOGIは服薬に必要な情報がすべての患者さまへ正しく伝わることが非常に重要だと考え、障がい者と健常者の区別なく万人がその情報を得られることを目指しています。
SHIONOGIでは、「情報の伝え方を改善し、障がいのある患者さまが服薬指導を受ける際のコミュニケーションの壁(バリア)をなくす」活動を展開しています。 障がい者、とりわけ聴覚や視覚に障がいのある患者さまの場合、薬についての説明を十分に受けられず、誤った方法で服用してしまうことがあります。この問題は障がいのある方が情報を受け取りにくいことだけで生じるのではなく、情報の伝え方によっても生じます。そうした服薬に関するコミュニケーションバリアの存在を広く正しく知ってもらうため、様々な関係者に対して啓発を行っています。
発達障がいへの理解を促進する取り組み
発達障がいは、脳の働きの特性に起因して特有の症状が発現するもので、
症状の発現型は多様であり、困りごとを抱える方がいる一方で、個性として尊重されている方も多くいます。
SHIONOGIは、こうした症状の発現型の多様さが、発達障がいを持つ方々への理解や支援を妨げている側面もあると考えており、
症状を改善する医薬品の提供だけでなく、周囲の理解や支援の輪を広げる取り組みを行うことで、ご本人やそのご家族が健やかな生活を送れるような環境づくりを目指しています。
SHIONOGIでは、2017年度より「こどもの未来支援室」を設置し、自治体等と連携を図りながら様々な取り組みを行っています。