知的財産戦略
SHIONOGIグループの経営理念と知財・無形資産戦略
SHIONOGIグループは、Heritage(SHIONOGIの基本方針)において、「常に人々の健康を守るために 必要な最もよい薬を提供する。」という企業活動の目的を掲げ、「そのために、SHIONOGIの人々のあらゆる技術が日々休むことなく 向上せねばならない。SHIONOGIの人々が、人間として日々休むことなく 向上しなければならない。」と明記しています。
このように、SHIONOGIグループは、技術・知財価値の向上および人材・無形資産価値の向上が、顧客価値の実現およびヘルスケアニーズへの対処につながる、と考えています。
SHIONOGIグループの経営戦略と知財・無形資産戦略
SHIONOGIグループは、HaaS企業に進化するSHIONOGIグループの経営戦略を支える2つの中核的な要素として、無形資産投資戦略と知的財産戦略とを有機的に連携させることで2030年Vision(新たなプラットフォームでヘルスケアの未来を創り出す)の実現を目指しています。
知財・無形資産は、特許権、商標権、意匠権、著作権といった知財権に限られず、技術、ブランド、 デザイン、コンテンツ、データ、ノウハウ、顧客ネットワーク、信頼・レピュテーション、バリューチェーン、サプライチェーン、これらを生み出す組織能力・プロセスなど、幅広い資産を含んでいます。
無形資産投資戦略および知的財産戦略の実践
1.知財ガバナンス体制と研究開発投資
SHIONOGIグループでは、研究開発戦略、事業戦略および知財戦略を密接に連携させており、研究開発投資と注力領域の選択と集中に基づく知財・無形資産投資を適切に遂行しています。
また、グローバルな知財資産への全社的な投資配分の観点から、研究開発および事業の各投資にかかわる特許や商標への投資方針を決定するための「特許マネジメントガイドライン」、「商標マネジメントガイドライン」を設定し、グローバルの各バリューチェーンの責任者と調整し、適切な出願と維持管理を実現しています。
2.研究活動を促進する風土醸成
Shionogiでは研究分野においても、ダイバーシティやエンゲージメントが、研究から創出される発明の数と価値に大きく貢献するものと考え、これらを基盤とするShionogi独自の発明報償制度を設計しています。
1) Shionogiの研究開発の各技術分野における高い専門性とそれらをつなぐ組織力が、新薬創出に大きく貢献することを鑑み、発明者だけではなく、発明創出に必要不可欠な重要な知見を見出した者にも適切なバランスで報償しています。
2) 一定の段階に到達した開発品に貢献した発明者に対し早期に一定の報償を行なうことで、与えられた研究テーマにより研究者毎に注力する疾患領域毎の市場規模の相違から生じる不公平感や、戦略上の理由等での開発中止や上市時の市場環境のような発明者の努力や成果とは無関係な要因による不公平感を解消しています。
このように、Shionogi独自の発明報償制度は、ヘルスケア製品の研究開発力を最大限に刺激し、イノベーションの基盤を促進するように設計されています。
3.産学連携などのパートナリングによる、オープンイノベーションの推進
現在、SHIONOGIグループの主な提携先は、SHIONOGIホームページ内の「イノベーション」・「パートナリング」記載の通り、50機関以上に達しています。(パートナリング 参照)
研究初期段階の連携では、パートナリングへの知財面の支援を推進しています。
Shionogiでは、例えばHaaS/デジタルヘルス分野の新規事業を開始・推進する観点でも、個人や社会のヘルスケアニーズ等の把握に努め、異分野のアカデミアや、さまざまな業種の企業との提携を進めるために、IPランドスケープの分析技術を活用しています。
※ IPランドスケープ:知財情報・非知財情報の統合的分析に基づいたR&D戦略や事業戦略策定に資する情報
4.知財情報の積極的な利活用
SHIONOGIグループでは、IPランドスケープを用いたR&D対象分野の全体俯瞰とイノベーション戦略の立案、R&D関連部署と連携しながら特許情報検索スキルを基盤としたアライアンスパートナー探索、ドラッグリポジショニング探索などを行うことにより、知財情報をR&D戦略やビジネス戦略の立案と展開に活用しています。
ShionogiにおけるIPランドスケープの目標:
強化・参入(する/すべき)分野のビジネス俯瞰情報を提供し、事業のアクションプランにつなげる。
そのために、Shionogiでは、以下の3要素を重視しています。
1) ヘルスケアニーズ、マーケティング等と知財/技術情報を結びつける
2) 研究分野と市場の将来を予測する
3) 戦略的意思決定と実施について、より良い情報を提供する
ShionogiのIPランドスケープの取組みについては、特許庁長官と社長が意見交換を行い、「『知財は製薬会社の経営の根幹』という理念のもと、アライアンスパートナーの選定にIPランドスケープを活用する等、知的財産部が経営戦略に沿った社内コンサル業務を担っている」ことを確認しました、と特許庁長官からお言葉をいただいています。
また、特許庁の「経営戦略に資する知財情報分析・活用に関する調査研究報告書」(p302-304)において、ShionogiのIPランドスケープへの取組みが紹介されています(chizai-jobobunseki-report.pdf (jpo.go.jp) 参照)。
左図は、CNS領域のデジタル診断関連技術に関するランドスケープマップ(Derwent Innovationのイメージ図について許諾を得て編集・転載)を示したもので、この分野における最近の研究開発の傾向を分析する手がかりとして活用しています。
5.特許戦略の基本的な考え方
新薬の研究開発は、成功確率の低さ、長期の研究開発期間、膨大な研究開発費など、多数の困難に直面する極めてチャレンジングな活動です。このような状況の下で、画期的な新薬を継続して提供することによって社会に貢献しながら企業として成長するためには、研究開発投資を確実に回収し、さらなる研究開発に投資することが重要です。このことからSHIONOGIグループは、イノベーションを特許により適切に保護する必要があると考えています(SHIONOGIグループ 知的財産ポリシー参照)。
6.適切な特許権の確保
医薬・バイオ分野は、電気・機械分野のような数百から数千件以上の特許で製品が保護されている技術分野と異なり、ごく少数の特許で製品が保護されているのが通常です。したがって、1件1件の特許の価値が新薬保護に果たす重要性は極めて大きいと考えています。
そこで、SHIONOGIグループでは、競合他社の出願状況の調査および研究者との緊密な連携に基づき、自らのイノベーションを適切に反映した保護範囲を有する質の高い特許取得を進めており、また、医薬品特許における世界各国の特許期間延長制度を活用して、適切な保護期間の延長を行っています。
さらに、その後の研究開発の過程で生まれた種々のイノベーション(用途・結晶形・製法・製剤特許など)も知的財産として適切に保護されています。
このような知的財産権取得の結果、研究開発の注力領域における「感染症」、「精神・神経」、「新たな成長領域」の保有特許(出願)件数の割合は、右のグラフのようになっています。
また、質の高い発明を厳選して出願していることから、全体のグローバル出願比率*1 は90.7%であり、各発明が外国出願された割合*2 は77.8%と高くなっています。
※いずれも、2024年3月末時点。提携先名義のみでの出願は含めていません。
*1:(1-日本の維持特許件数/全世界の維持特許件数)×100(%)
*2:(2022年度の第1国出願のうち、後日PCT出願した件数/2022年度に出願した第1国出願件数)×100(%)
7.パテントポートフォリオの維持管理と侵害予防、権利行使
事業戦略に対応して、パテントポートフォリオの構成を随時見直す一方、他社品が特許に包含されていないかを定期的に調査し、実施許諾や警告を含めた適切な権利行使方法を検討しています。これらの方法を通じて、知財ポートフォリオの効果的な活用を試みています。
また、第三者の知的財産を尊重して侵害予防活動には万全を期しています。
知財関連のロイヤリティ収入は、左のグラフのような推移になっています。
8.ブランド&デザイン戦略
SHIONOGIグループは、これまで医師・医療機関はもちろん、より広く顧客や社会との信頼関係を築きながら、患者さまに対して医薬品をお届けすることを目指しています。また、 STS2030に基づくHaaS企業への変革というビジョンのもとで、健康上の問題が発生した時点で対処するだけでは無く、未然に防ぐというトータルヘルスケアソリューションの提供を目指しています。
ヘルスケアビジネスが個々の製品ではなく包括的なサービス提供に向けてますます進化するにつれて、ブランド&デザイン戦略は、これまでにも増して重要な要素となるため、以下の考え方に基づき、適切な商標マネジメントを行っています。
1) デジタル環境下における「認知」と「想起」の向上
2) UX(ユーザーエクスペリエンス)やUI(ユーザーインターフェイス)を考慮した製品・サービス開発
3) 幅広いステークホルダーにおける多様な価値観への配慮
既にブランディング活動の一環として、SHIONOGIグループグループブランド商標規程を定め、ブランディングとグローバル化に対応した商標管理に取り組んでいます。
9.知財教育
SHIONOGIグループでは、2000年代から、研究開発戦略及び事業戦略と密接に連携したグローバルな知財戦略を効果的かつ的確に実践するため、研究開発部門、管理部門を含む全社的な知的財産教育に力を入れてきました。
これらの取組みは、特許法に基づいた一般論に終始した教育ではなく、医薬品の研究開発の全てのステージをカバーする製薬業界の事例を豊富に盛込んだ実践的な教育に重点を置いています。幅広い技術分野(化合物・製法・用途・結晶・製剤等)と、社員の経験レベル(入社時・入社2~3年目・中堅層等)の双方を考慮した教育講座を企画・実施しています。
さらに、日本以外のグローバル市場における知的財産制度と要件について教育するための専門講座も開設しています。
なお、最近のデジタルヘルスの進展を踏まえ、デジタルヘルス関連活動の新たな知財教育を開始しており、DX領域での活動の増加を想定した意匠、商標、著作権(コンテンツ)、営業秘密(データ、ノウハウ等を含む)の教育講座も充実させています。
10.医薬品アクセス改善
SHIONOGIグループは、感染症疾患が数え切れないほどの命を失う世界的な惨事につながることを防ぐため、世界中の患者さまと医療従事者がこれらの疾患に対する医薬品を確実に入手できるようにすることの重要性を理解しています。このようなアクセスに対する障壁としては、経済的理由や知財関連の理由だけではなく、サプライチェーン、インフラ、教育およびその他の要因も存在しています。
そこで、知的財産に関して、SHIONOGIグループ知的財産ポリシー(SHIONOGIグループ 知的財産ポリシー参照)を定め、以下の方針を掲げています。
1) 特許出願や権利行使の対象国/地域の限定
2) 特許プール等によるライセンス提供
3) 特許情報イニシアティブ(Pat-INFORMED)への参画
なお、SHIONOGIグループグローバルヘルスアクセスポリシー(SHIONOGIグループグローバルヘルスアクセスポリシー 参照)に示す通り、SHIONOGIグループの医薬品が世界中の患者さまにとって入手しやすい環境を整備しています。