「あたまの健康」をセルフチェック ~DXで挑む新しいヘルスケア
AIとの会話で測る「あたまの健康度」
―2025年10月「トークラボKIBIT」がリリースされました。どのようなサービスでしょうか?
福原:「あたまの健康度*」をセルフチェックできるサービスです。スマートフォンを通しAIと日常会話をして、会話内容の語彙や文脈の前後関係をAIが判断し、スコアを提示します。スコアに応じて行動変容を促すメッセージや生活改善につながる情報も提供します。
FRONTEOのAIエンジン「KIBIT」を基盤に、塩野義製薬もともに使いやすさを調整し、Webアプリケーションとして実装しました。2025年10月より、日本生命の保険に付帯サービスとしてスタートしています。
*あたまの健康度:AIが会話中の文脈的つながりと語彙の多様性を解析し、記憶力、言語理解力、情報処理能力、思考力など認知機能に類する指標を網羅した総合的な指標としてスコア化したもの。疾病診断を行うものではありません。
―脳のトレーニングアプリなど類似のサービスもありますが、「トークラボKIBIT」の独自性を教えてください。
福原:トークラボKIBITの最大の特徴は、自由な会話で判定できる点です。テンプレートのような会話ではなく、質問に対して自由に答えた内容をAIが解析します。クイズのように、答えを覚えることで通常時より高得点が出てしまう可能性を抑えました。
手つかずの課題をDXで解決する
― 今回のプロジェクトを始めるにあたって、まず意識したことは?
福原:社会貢献性と新たな市場への挑戦です。あたまの健康状態を自ら把握して生活習慣を変えるサービスは、ヘルスケア企業こそが提供すべきだと考えました。同時に、創薬以外の領域で存在感を高められるチャンスです。本サービスでは、直接の顧客は患者さんではなく企業です。塩野義製薬にとって新しい形のBtoBヘルスケアモデルに踏み出す重要な取り組みになると直感しました。
―新しいサービスの開発はとてもワクワクする一方で、正しい答えのない道です。開発の過程には、どんな苦労がありましたか?また、それをどうやって乗り越えたのでしょうか?
福原: 「ユーザーが安心して利用できるサービス設計に細心の注意を払う必要がありました。特に『あたまの健康』はセンシティブなテーマなので、ユーザーが不安を感じないよう、情報の扱いや伝え方に徹底して配慮しました。
その結果、事前のテストにおいて、過半数を超えるユーザーから「繰り返して利用したい」という回答が得られました。新規事業はビジョンや新規性だけではなく、ユーザーの感覚や行動の理解が不可欠です。
―新規事業は短期的な収益化が難しいとも言われます。その中で、社内の理解やサポートを得るために意識されていることはありますか?
福原:売上は当然、事業を継続・拡大していくうえで欠かせない軸です。その一方で、私たちは短期的な収益だけにとどまらず、ヘルスケアプロバイダーとしてこれまで創薬ではアプローチできなかった人々へ新しい価値を届けることにも挑戦しています。
中長期的な収益基盤を育てながら、新しい切り口で人々の健康を支えるサービスとして社会からの信頼と企業価値を同時に高めていく──その両立こそが今回のプロジェクトの肝だと考えています。
DXで目指す「自然にケアされる未来」
―新規事業に強みを持つ福原さんが、なぜ塩野義製薬に入社を?
福原:私は2022年にキャリア入社で塩野義製薬へ入社しているのですが、新卒で入社した大手通信事業者では、感情を数値化する「ココロの視える化サービス」に取り組みました。例えば、心拍数を測定するセンサーを埋め込んだウェアで、緊張度を測定して数値で表示するサービスなど、エンターテインメント色が強めのサービスを手がけました。
その過程で、「いつかは人々の健康向上に貢献したい」と感じ、ヘルスケア業界への転職を意識しはじめます。ちょうどコロナ禍で、塩野義製薬が新薬開発と並行して、DXを活用した新たな事業にも挑戦している姿を見て「自分もここで働きたい」と強く感じたことを覚えています。
―福原さんの頭の中には、どのような未来があるのでしょうか?
福原:ユーザーが全く意識することなく、健康状態がいつの間にか測定され、食事や環境が自動で調整されるような「自然とケアされる」世界です。年を重ねても元気で過ごせるように、加齢に伴う心身の変化を支えるサービスを目指したいと考えています。
―DXや新規事業に挑戦したい方に、ぜひアドバイスを。
福原:学生時代は学業だけでなく、サークル、アルバイト、恋愛など、あなたが大切だと思うことを全力で楽しんでください。そこで体験した「身近な困りごと」が、将来のサービスアイデアの根幹になります。
また、就職後は「これだけは負けない」という自分のコア技術を1〜3年かけて磨くと、新規事業に取り組む際に足がかりとなるでしょう。私の場合はネットワーク通信技術が強みとなりました。
―新規事業の最大の楽しさとは?
福原:自分の手がけたサービスが世の中に残ることほど、やりがいのあることはありません。新規事業は成功率が非常に低い分野ですが、挑戦を重ねれば道が見えてきます。恐れず挑み続ければ、必ずチャンスをつかめます。