2020/11/02

認知機能改善薬候補BPN14770の 脆弱X症候群患者を対象とした第2相臨床試験の良好な結果について

・言語に関連する領域における認知機能の有意な改善および高い安全性と忍容性を確認

・言語および日常機能の改善を介護者が確認

塩野義製薬株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:手代木 功、以下「塩野義製薬」または「当社」)は、認知機能改善薬候補BPN14770について、グループ会社であるTetra社が実施した脆弱X症候群(Fragile X Syndrome: FXS)患者を対象とした第2相臨床試験で良好な結果を得ましたので、お知らせいたします。

 

BPN14770は、記憶形成に関わるPhosphodiesterase 4D(PDE4D)を標的とした新規の選択的ネガティブアロステリックモジュレーターです。このユニークな作用機序は、FXS、アルツハイマー型認知症(Alzheimerʼs disease: AD)およびその他の認知症、学習/発達障害、統合失調症などの治療が困難な中枢神経疾患における認知および記憶機能を改善する可能性があります。BPN14770は、既に実施されたADを対象とした第2相臨床試験において認知機能の改善傾向が確認されています1。また、非臨床試験において、FXS患者で損なわれていることが報告されている神経細胞同士の結合に対して、BPN14770投与による成熟促進が見られています。

 

第2相臨床試験は、FXS患者を対象に、無作為化二重盲検プラセボ対照2群2期クロスオーバー試験として実施しました。期間1と期間2の間にウォッシュアウト期間はなく、それぞれの投与期間は12週間で、18〜41歳の成人FXS患者30人が登録され、BPN14770またはプラセボが1日2回投与されました。キャリーオーバー効果を認めたため、有効性に関する主要な統計解析は期間1に限定されていますが、全ての被験者が2期の治療期間を完了しました。

 

主要評価項目である安全性および忍容性に関して、全例(30例)は試験を中止することなく完遂し、良好な安全性と忍容性を示しました。有害事象の発現率は、BPN14770投与時とプラセボ投与時でそれぞれ36.7%(11/30例)と26.7%(8/30例)でした。最も多かった有害事象である嘔吐については、BPN14770投与時とプラセボ投与時の発現頻度はそれぞれ10.0%(3例)と6.7%(2例)でした。有効性に関しては探索的な評価を行ったところ、NIH-Toolboxを使用した認知機能の評価では、音読認識(調整平均の差 + 2.80、p = 0.0157)、画像語彙(+ 5.79、p = 0.0342)、および認知複合スコア(+ 5.29、p = 0.0018)の項目でプラセボ群に対して統計的に有意な差が見られました。100ポイントの視覚的評価スケールを使用した親あるいは介護者の評価においては、言語(調整平均の差 + 14.04、p = 0.0051)および日常機能(+ 14.53、p = 0.0017)の項目でプラセボ群に対して統計的に有意な差が見られました。BPN14770からプラセボにクロスオーバー後も12週間後まで効果が持続しました。

 

 

塩野義製薬は、取り組むべき重要課題(マテリアリティ)として「社会生産性向上」を特定しています。引き続き、アンメットメディカルニーズの高い認知機能障害に対する画期的な治療薬を世界中の患者さまにお届けできるよう努力し、FXS、ADを含む精神・神経系疾患を抱える患者さまとそのご家族のQOLや生産性の向上に貢献してまいります。

 

なお、本件が2021年3月期連結業績に与える影響は軽微です。

以 上

 

 

 

【本試験(第2相臨床試験)について】

本試験は、BPN14770の安全性と有効性を評価するため、18歳~45歳のFXS患者30名を対象に、プラセボ対照無作為化二重盲検2期クロスオーバー試験として実施しました。本試験は、イリノイ州シカゴのラッシュ大学医療センターにてElizabeth M. Berry-Kravisを治験責任医師として実施されました。本試験はFRAXA Research Foundationから財政支援を受けて実施されました。詳細は、clinicaltrials.gov(NCT035696312)をご確認ください。

 

【BPN14770について】

BPN14770は、記憶形成に関わるPDE4Dを標的とするネガティブアロステリックモジュレーターです。PDE4Dは、細胞内セカンドメッセンジャーである環状ヌクレオチドcAMP を分解する酵素であり、BPN14770は、神経細胞内のシグナル伝達系を制御することで、認知機能を向上させることが示唆されています。非臨床試験において、FXS患者で損なわれている神経細胞同士の結合の成熟促進が見られています。なお、FXSは自閉スペクトラム障害を呈する遺伝型です。このユニークな作用機序は、FXS、ADおよびその他の認知症、学習/発達障害、統合失調症などの治療が困難な中枢神経疾患における認知および記憶機能を改善する可能性があります。BPN14770は、米食品医薬品局(FDA)より希少疾患治療薬に指定されています。

 

 

【Tetra社について】

Tetra社は、FXS、AD、外傷性脳損傷、その他の脳疾患で苦しむ患者さまに対する治療薬を開発するバイオテクノロジー関連の研究開発型企業です。タンパク構造をベースにしたドラッグデザインを行い、PDE4に対する新規メカニズムのネガティブアロステリックモジュレーターを探索しています。本社は米国ミシガン州にあります。詳細はTetra社のホームページをご覧ください。

 

参考:

1.      2020年5月26日 プレスリリース

米国Tetra社の完全子会社化に関するお知らせ

https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03569631