塩野義製薬株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:手代木 功、以下「塩野義製薬」または「当社」)は、この度、BioAge Labs, Inc.(本社:米国カリフォルニア州、CEO:Kristen Fortney, Ph.D.、以下「BioAge社」)との間におきまして、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)の重症化抑制を対象としたS-555739(Prostaglandin D2 DP1受容体拮抗薬、BioAge社コード:BGE-175、以下「本化合物」)の導出に関する契約を締結しましたので、お知らせいたします。
本化合物は、当社が創製したDP1受容体拮抗薬であり、アレルギー性鼻炎に対する適応取得を目指して開発を進めておりました。これまで当社が実施してきた複数の非臨床および2,400例以上を対象とした臨床試験において、DP1受容体への高い親和性および選択性1に加え、良好な忍容性、安全性が確認されています。
加齢による免疫機能の低下は、感染症に対する罹患率ならびに死亡率を高める大きなリスク因子となります2。そのため免疫機能を亢進させることで、COVID-19を含む種々の感染症の重症化抑制に繋がる可能性が示唆されています。
この度、BioAge社が実施した独自のAIオミクス解析から、加齢に伴う免疫機能低下を改善する創薬ターゲットとしてDP1受容体が同定されています。また、アイオワ大学で実施されたSARSコロナウイルス(SARS-CoV)を感染させた加齢マウスモデルに、既存のDP1受容体拮抗薬を投与した試験では、マウスの死亡率の改善とともに、肺内のウイルス量の有意な低下が報告されています3。これらを踏まえて、本化合物のドラッグリポジショニングによる高齢者の免疫亢進薬としての開発期待から、本契約の締結に至りました。
この度の契約締結により、BioAge社は本化合物のCOVID-19の重症化抑制に関する米国、欧州での独占的開発・販売権を獲得します。さらに、他の疾患への適応追加に対する独占的交渉権が付与されます。当社は、本契約の締結に伴う一時金、今後の開発進展に応じたマイルストン、ならびに製品上市後の販売額に応じたロイヤリティーをBioAge社から受領します。BioAge社は、2021年上期に、COVID-19患者を対象とした第Ⅱ相臨床試験の開始を計画しています。
塩野義製薬は、取り組むべきマテリアリティ(重要課題)として「感染症の脅威からの解放」を特定し、治療薬の研究・開発だけにとどまらず、啓発・予防・診断ならびに重症化抑制といった感染症のトータルケアに対する取り組みを進めております。感染症薬のリーディングカンパニーとして、新型コロナウイルス感染症の早期終息による社会の安心・安全の回復に貢献するために、新規の治療薬、ワクチン等の開発に加えて既存の化合物の価値を最大化し、より多くの患者さまにヘルスケアソリューションを提供できるよう、外部パートナーとの連携を含めた取り組みを強化してまいります。
なお、本件が2021年3月期の業績に与える影響は軽微です。
以上
【BioAge社について】
BioAge社は、加齢や老化に関連する疾患を治療するための医薬品を開発しているバイオテクノロジー企業です。同社は、AIによる人間の寿命に影響を及ぼす分子経路のマッピングを主導しており、過去45年以上にわたって推定6000人分の健常者を追跡調査したデータを有し、病歴・死亡歴と血液サンプルを用いたAIによるオミクス解析(生体を構成しているさまざまな分子を網羅的に調べていくこと)から、加齢に関連するターゲット候補の同定と、創薬展開を実施しております。
参考
1. Takahashi G, Asanuma F, Suzuki N. Effect of the potent and selective DP1 receptor antagonist, asapiprant (S-555739), in animal models of allergic rhinitis and allergic asthma. Eur J Pharmacol. 2015;765:15-23
2. Boraschi D, Aguado M. T. Dutel C. et al. The Gracefully Aging Immune System. 2013;5(185):1-9
3. Zhao J, Zhao J, Legge K, et al. Age-related increases in PGD2 expression impair respiratory DC migration, resulting in diminished T cell responses upon respiratory virus infection in mice. The Journal of Clinical Investigation. 2011;121(12):4921-4930