ダイアログ2021
2021年10月21日に、SHIONOGIの人権に対する取り組みについて意見交換をするため、海外の有識者とオンラインにてダイアログを実施しました。
ダイアログでは、主に「2021年度にSHIONOGIが実施したインパクトアセスメント」「人権尊重の取り組みを進めていく上で、今後気を付けること」について、意見を交わしました。
参加者
Neill Wilkins氏 (Institute for Human Rights and Business:IHRB)
IHRBの移住労働者プログラムを担当している。2011年には、人権に関する原則である「尊厳ある移民のためのダッカ原則( Dhaka Principles for Migration with
Dignity )の策定に携わった。同団体の現代奴隷制の課題に対する同研究所のエンゲージメントを担当し、定期的にイベントで強制労働、人身売買および透明性の法規制に関して講演。
Camille Le Pors氏 (World Benchmarking Alliance:WBA)
ロンドンのビジネスおよび人権リソースセンター、ハーグの国際刑事裁判所、およびロンドンのフランス国会議員の海外メンバーを経て、2016年10月にCHRB(Corporate Human Rights Benchmark)に入社。研究プロセスの管理、ベンチマーク企業との関わり、方法論の開発とレビューを担当。現在は、WBAにて企業ベンチマークを担当。
―SHIONOGIのリスクアセスメントプロセスについて
(2021年度の人権デューディリジェンスに関しては、「人権尊重の取り組み」をご覧ください)
Camille 氏:
人権問題は往々にしてシステマティックに系統立って生じるため、一度に対応することは難しいが、そこにビジネス上の構造が関係している可能性がある。したがって、説明にあった事例がどのように優先順位付けをして選択されたのかというプロセスが重要である。リスクアセスメントの際に、経営層・従業員を巻き込んだワークショップを開催していることは評価できる。
Neill 氏:
社内のインターナルなエンゲージメントを密に行うシステム・プロセスが重要となる。社内で問題に気付いた人がエンパワーされ、そういう人たちを見つけてチェンジメーカーにしていくことで、課題解決に向けたリーダーシップをとる流れを作ることが出来る。
―日本における外国人労働者の労働状況の調査について
Camille 氏:
工場の業務委託先まで実際にインタビューを行うなど、インパクトを直接受けている人に近いところまで行って情報を収集している点は素晴らしい。
Neill 氏:
工場の業務委託先で、過去に技能実習生を受け入れていたということだが、今後は、彼らはその外注先の従業員なのか、それとも更に先の Tier であるのか把握する必要がある。業務委託先の雇用主はサプライチェーンのリスクに気付いていない可能性があるため、情報提供や知識の共有が重要となる。サプライチェーンの奥に行けば行くほど、貴社にとっての人権リスクが見えにくくなりリスクが高まる。また、実際に技能訓練がされていたのか、それとも最初から安い労働力を目的とした入国・就業であったのか、それを明らかにする必要がある。
―原材料製造地域の労働状況の調査について
Camille 氏:
ボトムアップのアプローチを採用し、信頼性のある一次情報を集められた点は良い。インドのユーカリ農家の事例で示されるように、バリューチェーンの問題が深く、透明性を欠いていること、また、さまざまなリスクのレイヤーがあり複雑に絡んでいるということが見えてくると思う。
人権と環境を別々に分離して考えるのではなく、不可分な一つのものとして捉えられている。国連人権高等弁務官事務所(UNHCR)は最近「a clean, healthy and sustainable environment is a human right」と表明した。
Neill 氏:
Camilleさんと同じで意見でボトムアップ方式は良い取り組みであるし、我々も参考にしていきたい。それに加えて、似たような課題に対応している専門家の話を聞くという方法もある。例えば、パーム油に関する専門家のアプローチは、ユーカリの問題への対応にも役立つかもしれない。PSCI のような業界団体として声を上げることが出来れば、農家とのダイアログやブローカーとの交渉においてもレバレッジを効かせることが出来る。
―人権尊重の取り組みを続けていく上で、どのような点に気を付けるべきでしょうか
Camille 氏:
WBAでは世界で最も影響のある2,000社をキーストーンカンパニーとして選定し、SDGsに関わる要素を評価している。製薬企業は、ベンチマークとなる7つのトランスフォーメーションのうち、Nature & Biodiversity(自然と生物多様性)とSocial(社会)が該当する。SocialではDecent work(労働慣行)とEthical business conduct(倫理的な事業活動)が問われる。企業を評価するためのMethodology(評価基準)は、Socialは既に公開済、Nature & Biodiversityは現在策定中であるが、企業が社会の期待を知るために役立つと考えている。
Neill 氏:
最近、“Just Transition ”(正しい移行)という言葉が出てきているが、気候変動に対応した事業変革に伴う失業者や、取り残される労働者など社会に及ぼす負の影響に対して、企業がどのように把握し、そうした課題に対処していくのかと経営意思決定までを含めてどのようなマネジメント体制が通常のビジネス領域で行われているのかが問われる。
投資家は企業にとってのボトムラインである最終利益だけを重要視するのではなく、その企業が実際どのように人権尊重に関して対応しているのか注視している。 CRT やPSCIなどのチャネルを使って、投資家が何を見て評価しているのかを把握できると参考になる。
塩野義製薬株式会社:
貴重なご意見をありがとうございました。今回のリスクアセスメント、インパクトアセスメントのステップを経験し、サプライチェーンの複雑さ、透明性に課題を感じました。また、人権への取り組みを進める中で、環境面の問題や、安定供給に結びつく示唆も得られ、新たな気付きとなりました。次年度以降は、さらにデューディリジェンスを進めていくと共に、刻々と変化する人権課題をキャッチアップするために、情報収集・直接対話を続けていきたいと考えております。