「資源循環プロジェクト」にSHIONOGIがチャレンジする意義 ~ラベル台紙の水平リサイクルを全産業に広げたい~
上流から下流までプロジェクト内でリサイクル。だからこそ責任と価値ある取り組みに
──ラベル台紙の水平リサイクルプロジェクトについてお聞かせいただけますか。
今回のプロジェクトでリサイクルするのは、ラベルではなくラベルの台紙(剥離紙)です。ラベルの製造・使用には台紙がセットで必要となります。医薬品業界でも医薬品用ラベルは重要な表示材料ですが、その台紙の多くは資源として回収・リサイクルされず、廃棄・焼却されています。すなわち、製造したラベルと同じ量だけ廃棄される台紙が発生するわけです。商品にラベルを貼り付ける製造工程で剥がされて廃棄されているラベル台紙の使用量は、国内の製造業全体で年間13.9 億㎡(東京ドーム約3万個分)にもなると言われています。
──水平リサイクルとは?
──資源循環プロジェクトのスキームについて教えてください。
資源循環プロジェクトでは、製品を生み出す“上流”の機能と、その廃棄物を回収してリサイクルを行う“下流”の機能の両方がすでに確立されています。上流側では、まず「リサイクル専用台紙」の元となるフィルムを製造し、そのフィルムに粘着剤を塗ってラベルの表面基材と貼り合わせます。そして、そのラベル表面に印刷を施したり、ラベルの形状にカットしたりして、ラベルとその台紙がシオノギファーマなどのラベルユーザーに届きます。
ラベルを貼り付けた製品は皆さんの手元に届ける一方で、下流では工場で剥がされた「リサイクル専用台紙」を専用の回収ボックスに回収していきます。一定量貯まったら、ヤマトグループの物流網を活用し全国からリサイクル工場へと運び、マテリアルリサイクルを行います。マテリアルリサイクルの工程では、異物などを取り除きながら細かくカットしたフレーク状の「リサイクル専用台紙」を高熱で溶かした後、ペレット(小さな樹脂のかたまり)にしていきます。このペレットを原材料の一部として再びフィルムを製造する、このループが繰り返されることがプロジェクトスキームの全容です。
他のチームの協力や言葉が推進力に
──ラベル台紙の水平リサイクル実証化プロジェクトに関わることとなった経緯についてお聞かせください。
──古島さんご自身も、プロジェクトへの強い関心をお持ちだったのでしょうか。
──本プロジェクトの最大の課題は何でしたか。また、どのように乗り越えましたか?
2022年4月から実証実験をスタートし、実用化するまでに実に1年かかりました。この理由の一つとして、ラベル台紙の材質を紙からプラスチック製の「リサイクル専用台紙」に変えるため、工場の生産設備の最適化にかなり時間がかかりましたね。材質が変わることでフィルム物性(伸びや滑り具合)、光の透過率が変わるので、ラベルを貼るためのラベラーに設置されているセンサーの調整やその他に生産するために必要な設定値をすべて見直すことが必要でした。
もう一つの理由としては、実際の生産ラインを使って実験するので、当たり前ですが製品の安定供給が第一優先です。実験したい思いに駆られながら、生産の都合で2カ月ぐらい実験ができない時期もありました。
実証実験では、主に摂津工場 製造第二のチームメンバーが通常生産の合間を縫ってテストに協力してくれました。何か新しいことにチャレンジするときには、やはりリスクが伴いますので「そのままでいいのでは」という空気感が生まれることも多々あると思います。ただ、このプロジェクトを進める中では、むしろ製造現場の責任者である西村さんや現場のメンバーから、この変更に対して積極的に「変えよう!」と好意的な言葉をもらいました。チーム全員が信念をもって様々な課題に前向きに取り組んだことも「推進力」になってこの実証実験をやり抜くことができました。
──プロジェクトを通して印象的なエピソードはありますか。
去年、SHIONOGIグループの中で賞をいただいたのですが、廃棄物の担当をしているEHS(環境・衛生・安全)のチームメンバーの受賞コメントが今でも印象に残っています。「これまでお金を払って廃棄していたものが、プロジェクトによって有価物で回収してもらえるなんて、本当に夢のようなことです。」
工場では日ごろからたくさんの廃棄物が発生しています。このプロジェクトで減らせる廃棄物は決して多くはないですが、廃棄物が価値のある有価物になったということはシオノギファーマとしても大きな意味になります。
全産業で資源循環を回していくために、リーダー企業として
──アンプル注射剤用のラベルに循環型の水平リサイクルスキームを適用したことでどのような貢献をされたのでしょうか。
──資源循環プロジェクトに関わるシオノギファーマの意義は?
最終ビジョンは「ラベル台紙はリサイクルするのが当たり前の世界」になること
──他のラベル用途に「資源循環プロジェクト」スキームを展開するご予定はありますか。
アンプルラベル以外への展開については、出荷用の梱包箱ラベルに対して資源循環プロジェクト対応品に適用するラベルに変更することが決まりまして、2024年度から展開する予定です。
他には、例えば工程管理用ラベルにも展開することを考えています。どういったものかというと、製造工程を進めるにあたって、原料や資材などを倉庫に入れますが、その管理のために工場内でラベルを印刷して使用します。このように製品に使用されないところでも、ラベルがたくさん使用されており、同時に台紙が廃棄されています。
──今後達成したい長期的な目標やビジョンについてお聞かせください。
「ラベル台紙はリサイクルするのが当たり前」という社会を実現するのが、このプロジェクトの最終のビジョンですね。
SHIONOGIグループとしては、2023年にエコファースト企業に認定されましたが、その理由の一つとして「資源循環プロジェクト」の取り組みを挙げていただきました。一つひとつの地道な取り組みが、グループ全体の「環境配慮に取り組む」という積極的な姿勢につながり、それが医薬品業界全体、ひいては製造業全体にもっと広がればうれしいです。
当プロジェクトには、さまざまな業界が参画表明し、広がりを見せています。また、2024年4月にマテリアルリサイクル工程が稼働し、本格的な資源循環がスタートしました。
廃棄物やCO2排出量などの課題は、日々の積み重ねの結果であり、今できる取り組みが数十年先の地球環境に影響してきます。サステイナブルな社会の実現を目指し、これからも行動し続けます。(参画企業・団体数は28:2024年3月時点)