処方箋の先にいる患者さまと向き合う「医薬情報センター」最前線での使命と挑戦
塩野義製薬「医薬情報センター」は、医療関係者をはじめ一般の患者さまからの問い合わせを受け付ける総合窓口です。使命は「医薬品の適正使用を通じて、患者さまに最適な医療を届ける」こと。医療現場の最前線で活躍される方々の困りごとに真摯に耳を傾け、的確な情報提供を通じて、医薬品の適正かつ安全な使用に貢献する役割を果たしています。
また、顧客との対話を通じて得た生の声を、社内の関連部署にフィードバックする役割も担っています。医療現場のニーズや課題を、研究開発部門などと共有することで、より優れた製品の開発につなげています。
医療関係者と製薬企業の懸け橋である医薬情報センターでは、高い専門性と迅速な対応力が求められます。所属社員4名に、問い合わせの内容やその活用について、また仕事への熱意や日々業務にあたるうえでの思いなどを、じっくりと語ってもらいました。
写真右側から:
加藤光子:営業を担当するMR(医薬情報担当者)として入社。4年目に異動で医薬情報センターに参画し、問い合わせ業務を担当。
小川内いずみ:。当時の「診断薬部」に入社。2015年組織変更に伴い医薬情報センターへ異動。問い合わせ一次対応業務を担当後、現在は一次対応をする問い合わせスタッフの教育担当。
三谷敏生:MRから「医療現場の声を製品開発や営業戦略に活かす仕事がしたい」と医薬情報センターの公募に挙手。
太田和人:MRから異動、2018年より医薬情報センターに在籍。主に問合せ分析業務を担当
医療現場の困りごとに真摯に向き合う
ー医薬情報センターに寄せられる問い合わせの傾向や特徴はどのようなものですか。
三谷:問い合わせの約70%は薬剤師の先生から、次いでMRが10%、医師が5%ほどです。ほかに卸の担当者の方や一般の方からの問い合わせもあります。
小川内:MRの場合、医師からの質問を預かってセンターに問い合わせをいただいていることが多いですね。そのため医師からの相談窓口としての機能も果たしています。
ー問い合わせ対応における工夫や心構えについて、具体的に教えてください。
加藤:私もMR時代は、薬剤師や医師の先生との話の中での疑問点を、医薬情報センターに問い合わせをすることが多くありました。ですから、問い合わせにはできる限り速やかにお答えしたいと思っていますが、中には調査に時間を要するケースもあります。そのような場合は、曖昧な回答は絶対にせず、正確な情報をお伝えするために時間をいただくことを丁寧にご説明し「今わかる範囲ではこうです」と、分かりやすく誠実に対応するように心がけています。
三谷:近年、AIを活用したチャットボット「DIチャット」を導入し、添付文書を元に答えられるようなお問い合わせには、チャットボットが24時間365日対応できる体制を整えました。フリーフォームでのお問い合わせ内容を判断するのにAIを使用しており、チャットボットが用意された定型の答えを返答します。
これにより、お客様の利便性が向上しただけでなく、人間の対応をより専門的な問い合わせにあてられるようになりました。チャットボットの活用を通じて、改めて人による対応の重要性も再認識しています。
加藤:医薬品の情報は日々更新され、最新情報を求められることも多いので、常にキャッチアップし、自らの専門性を高めていく努力が欠かせません。社内関連部署から共有される情報のほかに、部署内にそれぞれの専門領域を持った担当スタッフがおり、最新情報を共有してくれるので、それで勉強したり、関連分野の論文を読んだりと、自己研鑽を怠らないことを心がけています。
お客様の声から改善された「1包」
ー問い合わせ内容は社内でどのように活用されているのでしょうか。
三谷:医薬情報センターに寄せられた問い合わせ内容は、必要に応じて社内の関係部署と共有しています。問い合わせ傾向の変化をデイリー、ウィークリー、マンスリーなどの期間で集計・分析し、レポートにまとめて発信。お客様の関心事や医療現場のニーズを可視化することで、社内の迅速な課題把握や対応に役立てています。
太田:寄せられたご意見・ご要望は、社内関連部署と密に連携を取り、製品改善のヒントとしています。
例えば、既存のある薬に関して「以前に比べて、1包ずつが切り取りづらい」という声が短い期間で多数寄せられたことがありました。情報共有から社内関連部署の協力により、製造工程が改善され、その後はほとんど同様の問い合わせはなくなりました。お客様の生の声を社内で共有・活用することの重要性を実感する出来事でした。
ーチームワークとナレッジ共有について、具体的な取り組みをお聞かせください。
三谷:問い合わせ対応の経験やノウハウを共有し、スタッフ全員が迅速・的確に回答できる体制作りには力を入れています。
医薬情報センターでの対応に用いるQ&Aだけでなく、各部署が管理している情報を含めてQ&Aを整備し、どの担当者に問い合わせても同じ回答ができるようにする取り組みを開始しています。
情報を集約・整理することで、お客様への一貫した情報提供ができるだけでなく、関連部署間の連携強化に繋げていきたいと考えています。
小川内:ベテラン社員の知見の継承にも力を入れています。困難事例への対応については、勉強会で経験を共有します。日常業務の中でもOJTを通じて、ベテランから若手へ知識・スキルの伝授が行われ、誰が答えても同じクオリティで対応できる均質化を重視しています。
「処方箋の向こうにいる患者さま」への思いを胸に
ー医療関係者とのやり取りを通じて、患者さまへの想いを感じる瞬間はありますか?
小川内:医療関係者からのお問い合わせは、患者さまの治療に直結することが多くあります。医療関係者がその先にいる患者さまに、どのように情報を伝えればより理解が深まるかも常に考えながら対応しています。
問い合わせへの回答において、医療関係者が使われた言葉をそのまま用いるような意識をしています。例えば「経管投与」ですが「チューブで直接栄養」ですとか「潰して溶かして入れる」など医療関係者が患者さまに説明される言葉を使われたのかなと感じることがあります。そのような場合は、あえて言い換えずに先方に合わせた言葉で対応をすることで、患者さまをより近くに感じられます。私たちの回答が、実際の処方や患者さまに説明される際に参考としてお役に立ちたいという思いで対応しています。
加藤:医薬品の適正使用は私たちの重要な使命です。例えば、妊娠中の方やアレルギーをお持ちの方など、患者さまによって服用できる薬やその量が異なります。時には、どうしてもご希望に添えない回答をしなければならないこともありますが、その際はその理由を丁寧に説明し、処方判断の参考となる情報をご提供するなど、患者さまの健康を第一に考えつつ、安心していただけるような対応を心がけています。
太田:医薬情報センターの社員は皆、製薬企業である塩野義製薬を代表して、顧客や患者さま、医療関係者に相対しているという責任感とプライドがあります。適切な治療に貢献したいという強い気持ちが、皆のバックボーンとしてあるのだと思います。
ー医薬情報センターの業務で、やりがいを感じる瞬間について教えてください。
太田:医薬情報センターは、会社と顧客をつなぐ窓口です。MRだけでは把握しきれない医療現場のニーズを吸い上げ、スピーディーに社内で共有すること、特に見逃されがちな「数が少ないけれども重要な事例」を、裏付けデータをつけた上で、しっかりとフィードバックしていくことに重きをおいています。その活動が実を結び、より良い医薬品に結実する時、この仕事の責任と意義を実感しますね。
加藤:「塩野義製薬に聞いてよかった」とお客様に言っていただけた時は、自分の仕事に誇りを感じます。製薬会社では、MRなどの営業職以外が、直接お客様から感謝の言葉をいただく機会は稀です。その一言一言が私たちの原動力となっています。
また、問い合わせの内容が専門的になればなるほど、自分の知識・経験を存分に生かせる場面が増えます。例えば、薬剤師の先生が、常に患者さまのために最良を尽くされる中で、時には処方の全容についてすべてを把握できていない状況でお問い合わせいただくこともあります。こちらの経験やFAQなどを参考に状況を伺い、現場の問題がクリアになった時は、日頃の学習の積み重ねがお客様のお役に立てたんだなと、大きな喜びとやりがいを感じます。
小川内:時には問題提起の意図でお電話いただく場合もありますが、最後には「よくわかりました」「理解でき、お電話してよかった」との言葉で締めくくられることを何度も経験しました。お客様の立場に立って真摯に耳を傾け、懸命に問題解決に取り組み、企業としての誠意を見せることが、私たちの仕事の本質なのだと思います。
ー最後に、医薬情報センターの今後の展望についてお聞かせください。
三谷:先にも述べましたが、社内の様々な情報を集約し、お客様のお問い合わせにワンストップで対応できる体制づくりを進めています。また、対応履歴の分析を通じて、お客様のニーズを予測し、先回りした情報提供ができるよう取り組んでいます。
太田:医療が発展し続けている一方で、現場では日々新しい課題が生まれています。私たちはこれからも、お客様の生の声に真摯に耳を傾け、課題解決に向けて社内の関連部署と連携しながら取り組んでいきます。変化を恐れず、新しい価値提供の方法に挑戦し続けることで、医薬情報センターの可能性をさらに拡げていきたいと思います。