「緑と共に成長する」障がい者雇用に取り組むシオノギスマイルハートが展開するグリーンスマイル活動
SHIONOGIグループの特例子会社、シオノギスマイルハートが展開する「グリーンスマイル活動」。観葉植物の育成とメンテナンスを通じて、障がいのある社員の自立と成長を支援するこの取り組みは、植物の管理だけにとどまらない多様な効果を生み出しています。全国の事業所に広がる活動は、社内コミュニケーションの活性化、さらには障がい者雇用への理解促進につながっています。
「緑と共に成長する」ーー、植物と人、そして組織が共に成長するシオノギスマイルハートの取り組み。植物を育てる喜びが、障がいの有無を超えた絆を育み、社員の「スマイル」を増やしていく様子を、現場の声とともにお伝えします。
右から
桑原さやか:2003年に入社。2015年からSHIONOGIの障がい者雇用に関わっており、現在はシオノギ教育研修センターの専任管理者として、清掃・花卉※栽培・観葉植物の水やりメンテナンスの事業を担当している。
※観賞用になるような美しい花をつける植物の総称。
・クリーンサポーター(シオノギスマイルハートで働く知的障がいをお持ちの方の呼称。“清掃等を通してオフィスをきれいにして職場の人たちを応援する”という意味を込めている。)
長谷川耀:勤続5年、清掃業務からスタートし、現在は花卉栽培やグリーンスマイル活動の中心メンバー。本社でのメンテナンスに積極的に取り組む。
菊川カレン:勤続6年。観葉植物を担当して2年で細やかな観察力を身につけた。観葉植物の状態を見て、的確な判断をすることが得意。
榎本拓馬:花卉栽培やグリーンスマイル活動の業務を通じて植物に興味を持ち、自宅でも花を育てるようになった。着実にスキルを伸ばす勤続4年のムードメーカー。
「自立と成長」を掲げ、多様な業務で可能性を広げる
ー理念や障がい者雇用におけるビジョンはどのようなものですか。
桑原:シオノギスマイルハートの理念は、障がいのある方が持てる力を発揮できる職場を創出し、ノーマライゼーションの実現に貢献することです。単に雇用の場を提供するだけでなく、一人ひとりが社会人として、また一人の人間として成長し、持てる力を発揮できる職場を目指しています。成長していくことで、自分に自信を持ち、少しずつ自立していく。自立するということは生きていく上でとても大事なこと。障がいの有無に関わらず、自立して生活するためには、就労し、収入を得ることが第一歩であり、ノーマライゼーションの実現につながると考えています。一人でも多くの障がいをお持ちの方の雇用創出を通じて、SHIGONOGIグループビションの達成を支えていきたいと思っております。
そういったことから、私たちは障がいの程度や有無にかかわらず、社会人として必要なスキルや姿勢を身につけることを重視しています。例えば、挨拶や基本的なコミュニケーション能力の向上、時間管理など、社会で広く求められるスキルの習得に力を入れています。
さらに言うなら、シオノギスマイルハートだけで通用する人材ではなく、どの会社でも活躍できる人材への成長を目指しています。これは、障がいのある社員のキャリアの可能性を広げ、真の意味でのノーマライゼーションの実現という私たちの理念の表れでもあるのです。
一人ひとりに合わせた「合理的配慮」でスキル向上
ー取り組みにはどのような特徴がありますか。
桑原:シオノギスマイルハートの特徴は、多様な業務を提供していることです。清掃業務をはじめ、オフィスに設置している観葉植物のメンテナンス、花の栽培、社内のユニフォームのクリーニング業務など、さまざまな仕事を用意することで、サポーターの適性に合わせた仕事を提供できるようになりました。さらに、一人ひとりの障がい特性に合わせた「合理的配慮」を行うことにより、サポーターが一人で仕事ができるようになることを目指しています。専任管理者との日々のコミュニケーションや月1回の面談を通して、不安なことや分からないことを共有し、一緒に解決策を考えるなどの対応を行っています。今後も安心して働いて頂ける環境作りに努めていきたいと思っております。
ー合理的配慮とは具体的にどのようなものですか。
ー曖昧ではない定量化された指示があると安心ですね。
桑原:ええ。ただ、植物の管理は生き物相手なので、それだけでは難しい面もあります。私たちが各フロアを回って水やりや葉の手入れ、状態チェックなどを行うのは週1回程度。同じ種類の植物でも、置かれている場所や温度・湿度によって水の必要量が異なります。土が乾いていない場合は水をやる必要がないかもしれませんし、逆に今は乾いていなくても今週水やりをしなければ、次の週までに枯れてしまう可能性もありますよね。
最初のうちはこういった判断が難しいのですが、慣れてくると徐々に植物の状態に気を配れるサポーターも出てきます。「土がまだ湿っているので、今日は水をやらなくていいですか」と質問できるようになるのです。サポーターには「気づいたことがあれば管理者に相談してください」と伝えています。一緒に確認し、適切な対応を考えるというプロセスを繰り返すことで、スキルが向上していきます。
全国に広がる「グリーンスマイル活動」が職場を変える
ー現在取り組まれている「グリーンスマイル活動」について教えてください。
桑原:2023年の秋頃から始まった「グリーンスマイル活動」は、私たちが育てた観葉植物の苗をSHIONOGIグループの全国の従業員の方々にお渡しして、育ててもらう活動です。社内に緑を増やすことで従業員のストレス解消や創造性の向上を図り、そして私たちシオノギスマイルハートの活動を社内により広く知ってもらうことを目的としています。全国の事業所で植物を育てる人もスマイルになり、私たちも自分たちが育てた苗を育ててもらえることでスマイルになれる。そこからグリーンスマイル活動と名付けました。
現在、グリーンスマイル活動には、北海道から関西まで全国の事業所から、約30名の社員が参加しています。緑があることでストレスや目の疲労解消になっているという声が寄せられています。また、私たちの活動を知ってもらうきっかけにもなっているようです。
ーグリーンスマイル活動に参加している社員さんにもお話を伺いました。
谷川:「同じフロアのメンバー3名でシンゴニウムを1鉢育てています。植物の様子や水やりのタイミング等、社内のチャットでコミュニケーションをとりながら世話をしています。
週に一度、各フロアの植物のメンテナンスをしてくれているサポーターさんたちは、作業開始時と終了時に大きな声で挨拶をしてくれます。業務の合間にほっと一息つけて、とても爽やかな気持ちになります。
植物の育成や、空間への植物の配置は、従業員のウェルビーイングに大きく貢献すると感じています。今後のシオノギスマイルハートの取り組みに、さらに期待しています。」
自然な交流が障がい者雇用への理解を深める
ーグリーンスマイル活動をはじめ、観葉植物のメンテナンスといったコミュニケーションをともなう仕事は、障がい者雇用への理解を深めるきっかけになるのではないでしょうか。
桑原:その通りだと思います。以前は、サポーターと接する機会が少なかった社員も、定期的に顔を合わせることで、自然な形での交流が生まれています。
最初は緊張していたサポーターも、訪問回数を重ねるにつれ、「スマイルハートです!」「お願いします」と元気な挨拶をできるようになりました。その甲斐あって、最近はメンテナンスに行く先々で出張先のお土産をお裾分けいただいたり、「いつもありがとう」と声をかけていただいたり。先日はなぜか唐揚げの話題で盛り上がっていたサポーターもいたんですよ。こういった温かい交流は、サポーターのモチベーション向上にもつながっています。
また、サポーターが責任を持って植物の管理をしている姿を見てもらうことで、障がいの有無に関わらず、シオノギグループの一員としての連帯感が醸成される気がしています。
ー今後、シオノギスマイルハート全体や、グリーンスマイル活動について、活動の拡大計画や新たな目標はありますか。
桑原:現在、本社を中心に行っている観葉植物のメンテナンスを、他の事業所にも広げていきたいですね。SHIONOGIグループには、本社以外にもたくさん事業所がありますので、それらの場所にも植物を置いて、私たちがメンテナンスに行けるようにできればと思っています。より多くの社員に植物のある職場環境を提供できるだけでなく、サポーターの活躍の場も広がります。同時に、さらなる障がい者雇用の機会を創出することにもつながると期待しています。
また、グリーンスマイル活動の参加者を増やすことも目標の一つです。会社全体で緑を育てる文化を醸成していきたいと思っています。この活動はまだ始まったばかりですが、サポーターたちと一緒に、着実に成長させ、多くの人々にスマイルを届けられることを楽しみにしています。
新たな目標としては、植物の種類や育て方の幅を広げることを考えています。現在は主に観葉植物を扱っていますが、将来的には室内で水耕栽培を行い、野菜の栽培ができるようになればと考えています。我々が育てた野菜をSHIONOGIの従業員や地域の子ども食堂などにお渡しし、社内だけではなく、地域にも接点を持ち、健康づくりや地域貢献に繋げていければと考えています。サポーターのスキルアップにもつながりますし、より多様な興味や適性に応えることができると思います。シオノギスマイルハートの仕事を通して、障がいの有無にかかわらず、共に力を発揮できる社会の実現に少しでも貢献できればと考えています。
サポーターの声ーーシオノギスマイルハートでの成長と喜び
グリーンスマイル活動に携わるサポーターの中から、今回は3名に座談会形式でお話を伺いました。それぞれの個性や経験が、活動にどのように活かされているかをご紹介します。
ースマイルハートで自分の成長を感じる瞬間はどんな時ですか。
菊川:最近できるようになって嬉しかったことは、ハイドロカルチャー(粘土を粒状にして焼いたもの。オフィスでは土の代わりに用いている)の植物に水をやるかやらないかの判断ができるようになったことです。また、植物の葉の色などで判断できるようになりました。
榎本:観葉植物のメンテナンスは、最初は難しく感じました。でも、今では土の乾きの確認、や葉水(はみず)とかができるようになりました。まだ植物の種類をすべて覚えられてはいませんが、少しずつ知識は増えています。
長谷川:清掃業務から観葉植物の担当になったので、全く違う業務に戸惑いました。でも、今は生き物を育てる楽しさを感じられるようになったことが、大きな成長だと思います。
ーどのような点に仕事の楽しさや難しさを感じますか。
長谷川:一番楽しいのは、本社の方々とのコミュニケーションです。緊張しやすい性格で、最初はとても大変でしたが、今では自然に会話も楽しめるようになりました。仕事を通した体験が自信につながっています。
ーシオノギスマイルハートの雰囲気はどうですか。
榎本:とてもフレンドリーで、楽しく仕事ができています。時々交流会なども開かれるので、そういった機会に、より仲良くなれます。
菊川:みんなが優しく接してくれるので、それほど人見知りせずに過ごせています。特に植物の世話をしていると「植物の調子はどう?」とか「水やりはどうする?」といった話題から、会話が生まれやすい気がします。私はお買い物が好きなので、休憩時間には仲間とファッションの話で盛り上がることもあります。
長谷川:入社前に見学に来た際、「いい人たちばかりだから、入れるといいね」と母に言われたのを覚えています。入社が決まった時には、母がお祝いに大きなケーキを買ってくれました。すると、それを知らなかった父もまた、大きなケーキを買って帰ってきたんです!結局ケーキは近所にお裾分けをしました。近所の方々にまで私の就職を喜んでもらえて、本当にいいスタートを切れました。以来、とても楽しく働けています。
ー入社を考えている人にメッセージをお願いします。
長谷川:桑原さんをはじめ、相談しやすい管理者の方がたくさんいます。皆さんとても優しくて、失敗しても怒るのではなく、私の意見を聞きながら、一緒に解決策を考えてくれます。優しい先輩や後輩もたくさんいるので、とても過ごしやすいと思います。きっとすぐに馴染めると思いますよ。
共に力を発揮できる社会の実現を目指して
シオノギスマイルハートのグリーンスマイル活動の成果は、双方向的です。サポーターは植物管理のスキルだけでなく、コミュニケーション能力や自信を育んでいます。同時に、本社従業員との交流により、障がい者雇用への理解も広がっているのです。今後、活動範囲を拡大することで「誰もが自分らしく輝ける社会」への追い風となり、障がいのある方のさらなる雇用機会の創出が期待されます。