裏方では終わらせない。ITから経営を動かすデジタルトランスフォーメーション

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「ITやシステムの仕事は、どうしても裏方と思われがちです。でも私は、そこで終わらせたくないんです。」

 

IT&デジタルソリューション部の橋詰さんは穏やかにそう語ります。塩野義製薬のDX推進本部で、調達業務のデジタル変革をリードする彼が挑んでいるのは、単なる効率化ではなく、ITを経営の力に変えること。その挑戦の背景には、業務の分断という長年の課題がありました。

課題の出発点 ― 分断された仕組みを、どう繋ぐか

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塩野義製薬では長年、部門やグループ会社ごとに異なる調達システムや運用ルールが存在していました。その結果、業務の流れや承認手続きがバラバラで、全体のコスト構造を正確に把握することが困難な状況にありました。「どこで、どんなものを、いくらで買っているのか」が経営層にまで届かない――。それは、現場にとっても経営層にとっても、大きな課題でした。

 

「システムが分かれていると、データも人の動きも分断されてしまいます。それを一つに繋ぐには、仕組みを変えるだけではなく、人の意識を変える必要があると感じました。」

 

橋詰さんが見据えたのは、調達のDXではなく、「標準化によって全社の仕組みを繋ぐ」ことでした。それは、IT部門が単なるシステム提供者ではなく、経営基盤をつくるパートナーへと進化する第一歩でもありました。

現場に寄り添う標準化 ― 「使えるDX」をつくるために

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橋詰さんが最初に取り組んだのは、調達業務の標準化プロジェクトでした。目的は、すべての部署で共通の手順とルールを整備し、データを同じ形式で蓄積できる仕組みをつくること。しかし、それは決して簡単な道のりではありませんでした。

 

橋詰さんは塩野義製薬に入社する前、コンサルティング会社で業務改革やシステム導入プロジェクトを多数経験してきました。製造・流通・金融など、さまざまな業界の現場を支援するなかで痛感したのは、「仕組みを変えること」よりも「人の意識を揃えること」のほうがはるかに難しいという現実でした。

 

「どんなに優れたシステムを導入しても、使う人がそれを自分の業務として納得できていなければ、形だけの改革で終わってしまいます。現場の人がこれなら助かると思える標準化でなければ、真のDXにはならない。コンサル時代に何度もそれを感じました。」この経験が、塩野義製薬での取り組みを進める上での原点になりました。

 

 

橋詰さんは「現場に寄り添う標準化」を掲げ、改革を現場から生み出すアプローチを選びます。「現場の方々にとっては、今までのやり方が一番やりやすいんです。だからこそ、『標準化』を業務時間を奪うものではなく、現場の方々の業務を助けるものとして理解してもらう必要がありました。」

 

橋詰さんは、4か月にわたり現場の担当者と対話を重ねました。「今の業務でどこが大変か」「どんな仕組みなら助かるか」。一つひとつの声を聞き取りながら、現場と一緒に設計するDXを進めていきました。現場の声を反映しながら、重複する承認フローを整理し、見積から支払いまでの手続きをシンプルかつ透明に。結果として、これまでの操作と少し異なるが、担当者がメリットも感じられるような業務設計が実現しました。

 

「人に寄り添う標準化をやりたかったんです。会社としてあるべき姿を追求するだけでなく、どうしたら今より良くなるかについて、真剣に話し合うことにより、新しい仕組みに対するハードルをだいぶ下げていただいたと感じます」

CDM構築 ― データを経営の「共通言語」に

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標準化の次のステップは、CDM(Central Data Management)の構築です。業務で生まれたデータを全社横断で収集・集約し、経営層がリアルタイムで状況を把握できるようにする仕組み――。それは、塩野義製薬の経営基盤を支える「情報の中枢」といえます。

 

「CDMは、単なるデータベースではありません。経営層と現場が、同じ情報を共通言語として使えるようにするための仕組みなんです。」

 

導入後、経営層は各部門の支出傾向やコスト構造を即座に確認できるようになり、戦略的な意思決定のスピードが大きく向上しました。また、データの正確性が高まったことで、監査やリスクマネジメントの精度も向上。会社全体としての透明性と統制が一段と強化されました。

裏方では終わらせない ― 経営を動かすITの力

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橋詰さんがこのプロジェクトを通して感じたのは、「ITに関わる人は裏方ではなく、経営を動かす力そのものだ」ということでした。

 

「これまではシステムを動かす人という位置づけでしたが、今は経営を支える仕組みをつくる人としての責任を感じています。ITは、ただ便利にするための道具ではありません。正しいデータがあれば、会社全体の意思決定を変えることができるんです。」

 

この言葉に込められた想いこそ、塩野義製薬が目指すDXの本質です。システムを整えるだけでなく、データと人の動きを繋ぎ、その力を経営に還元する―。まさに裏方では終わらせないDXの実践といえます。

 

「現場も経営も、ITに関わる人も。それぞれが別々の方向を向くのではなく、一つの目的に向かって繋がること。それが、本当の意味でのデジタル変革だと思います。」

 

橋詰さんの挑戦は、まだ続きます。しかしその歩みは確実に、塩野義製薬が「データで考え、データをもとにスピーディーに動く会社」へと進化する道を切り拓いています。その姿は、まさに縁の下の力持ちではなく、「企業を前へ押し出す推進力」そのものです。

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