塩野義製薬株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:手代木 功、以下「塩野義製薬」または「当社」)は、FETCROJA®(cefiderocol)について、英国の国民保健サービス(NHS England and Improvement:NHSE&I)との契約締結により、サブスクリプション型償還による支払いが開始されましたことを、お知らせいたします。
薬剤耐性(Antimicrobial resistance:AMR)はグローバルでの重要な課題です。AMR領域においては、新規AMR治療薬の使用を薬剤耐性菌感染と確認あるいは強く疑われる症例に絞るなど、抗菌薬適正使用の考え方を浸透させることで、新たな耐性菌発現を極力防止するとともに、広範なサーベイランス試験を実行し当該薬剤に対する耐性菌の発生をモニタリングする必要があります。結果として新たな抗菌薬を継続して創出するだけでなく、維持するための収益体制の確保すら困難となり、多くの企業が抗菌薬開発から撤退、もしくは規模縮小を余儀なくされました。抗菌薬の市場を実効性のある持続可能なものにするうえで、プル型インセンティブ*の導入が重要であると考えられています。
*プル型インセンティブ:上市に対する財政的支援など
今回、英国が開始したサブスクリプション型の償還は、抗菌薬の処方量と切り離して、国が開発企業に対して固定報酬を支払う代わりに、必要なときに抗菌薬を受け取ることができる制度です。FETCROJA®は2020年12月に本制度に採択されて以降1、NICEによる医療技術評価が実施され、このたび正式にNHSE&Iとの契約を締結しました。本契約締結により、当社は3年間の支払いを受け取るとともに、さらに最大7年延長するオプションが付与されます。
塩野義製薬は、取り組むべきマテリアリティ(重要課題)として「感染症の脅威からの解放」を特定し、研究開発、製造、販売に加え、感研究開発支援基金への参加2や新たな保険償還システムの提案等、幅広く感染症に対する取り組みを進めております。当社は、グローバルの課題であるAMRの対策を成功させ、人々の健康を守るために必要な感染症治療薬を、世界中の患者さまのもとにいち早くお届けできるよう、引き続き努力してまいります。
なお、本件が2023年3月期連結業績に与える影響は軽微です。
以 上
当社の薬剤耐性問題に対する取り組みついては、こちらをご覧ください。
【Cefiderocolについて】
Cefiderocoは、多剤耐性菌を含むグラム陰性菌の外膜を効果的に通過して抗菌活性を発揮する新規のシデロフォアセファロスポリン抗菌薬です。Cefiderocolは細菌のカルバペネムへの耐性獲得に関連する3つの主な機序(βラクタマーゼによる抗菌薬の不活化、ポーリンチャネルの変異による膜透過性低下、排出ポンプの過剰産生)による影響を受けずに抗菌力を発揮します。鉄と結合する独自の構造を有することにより、細菌が養分である鉄を取り込むために利用する鉄トランスポーターを介し、細菌内に能動的に運ばれます3。その結果、セフィデロコルは細菌のペリプラズム内に効率よく取り込まれ、細胞壁合成を阻害します4。
参考
新規シデロフォアセファロスポリン抗菌薬FETCROJA®(cefiderocol)の英国におけるサブスクリプション型償還モデルへの採択について
グローバルヘルス技術振興基金への参画について
3. Ito A, Nishikawa T., Matsumoto S, et al. Siderophore Cephalosporin Cefiderocol Utilizes Ferric Iron Transporter Systems for Antibacterial Activity against Pseudomonas aeruginosa. Antimicrob Agents Chemother. 2016;60(12):7396-7401.
4. Tillotson GS. Trojan Horse Antibiotics—A Novel Way to Circumvent Gram-Negative Bacterial Resistance? Infectious Diseases: Research and Treatment. 2016; 9:45-52 doi:10.4137/IDRT.S31567.