薬剤耐性(Antimicrobial resistance、以下「AMR」)、すなわち抗菌薬に対する細菌の耐性獲得は人類が直面する世界的な公衆衛生上の脅威のひとつであり、緊急に対処が必要な世界規模の重要課題です2。これまでの抗菌薬における適正使用の考え方は、新規抗菌薬の使用を限られた事例に絞ることで、新たな耐性菌の出現を抑えることにありました。しかし、新規抗菌薬の開発には莫大な費用が掛かる一方で、開発に成功してもその使用が制限されることから、新たな抗菌薬の継続的な研究・開発を支える収益体制の維持が困難となり、多くの製薬企業が抗菌薬の開発から撤退もしくは規模の縮小を余儀なくされました。このような状況を踏まえて、AMR対策の一環として新規抗菌薬の開発を促進するために、英国などではサブスクリプション型の償還モデル(国が開発企業に対して抗菌薬の処方量と切り離した固定報酬を支払う代わりに、必要なときに抗菌薬を受け取ることができる制度)が導入され、フェトロージャも2020年12月に採択されています3。
日本においても、抗菌薬の販売を手がける製薬企業の収益の一定額を保証する「抗菌薬確保支援事業」の試行導入が始まっており、2023年11月にフェトロージャが本事業初めての対象薬剤として採択されています。
塩野義製薬は、取り組むべきマテリアリティ(重要課題)として「感染症の脅威からの解放」を特定し、感染症のトータルケアの実現に向けた取り組みを進めております。当社は、グローバルの課題であるCOVID-19やAMRの対策の成功に向け、人々の健康を守るために必要な感染症治療薬を、世界中の患者さまのもとにいち早くお届けできるよう、引き続き努力してまいります。
なお、本件が2024年3月期連結業績に与える影響は軽微です。
以 上
当社のAMR問題に対する取り組みについては、こちらをご覧ください。
【抗菌薬確保支援事業について】
抗菌薬確保支援事業は、厚生労働省がAMR対策の一環として2023年度から新たに試行導入を開始した、抗菌薬の販売を手がける製薬企業の収益の一定額を保証する制度のことです。抗菌薬による治療環境を維持しつつ、国際保健に関する国際的な議論で日本が主導的な役割を果たすため、企業が国の薬剤耐性対策(販売量の適正水準維持)に協力することで生じる減収に対して一定額を国が支援すると同時に、抗菌薬の開発を促す仕組みを作ることで、薬剤耐性対策を推進することを目的としています。
【セフィデロコル(製品名:フェトロージャ)について】
セフィデロコルは、多剤耐性菌を含むグラム陰性菌の外膜を効果的に通過して抗菌活性を発揮する新規のシデロフォアセファロスポリン系抗菌薬です。セフィデロコルは細菌のカルバペネムへの耐性獲得に関連する3つの主な機序(βラクタマーゼによる抗菌薬の不活化、ポーリンチャネルの変異による膜透過性低下、排出ポンプの過剰産生による薬剤の細菌細胞外への排出)による影響を受けにくく、抗菌力を発揮します。鉄と結合する独自の構造を有することにより、細菌が養分である鉄を取り込むために利用する鉄トランスポーターを介し、細菌内に能動的に運ばれます。その結果、セフィデロコルは細菌のペリプラズム内に取り込まれ、細胞壁合成を阻害します。セフィデロコルは、欧米において承認を取得し、欧州においてはFetcroja®の製品名で、米国ではFetroja®の製品名でそれぞれ販売されています。台湾においても承認申請を実施済みであり4、現在規制当局による審査が行われています。WHOの必須医薬品リストにも掲載されており、また、多くの低中所得国、高中所得国で本新規抗菌薬を必要とする患者へのアクセスを改善するために、The Global Antibiotic Research and Development Partnership(GARDP)およびClinton Health Access Initiative(CHAI)との3者連携契約5を通じて準備を進めています。
参考:
1. プレスリリース:2022年3月24日 セフィデロコルの国内における製造販売承認申請について
2. WHO. Antimicrobial resistance. Who.int. Published October 13, 2020.
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/antimicrobial-resistance
新規シデロフォアセファロスポリン抗菌薬FETCROJA®(cefiderocol)の英国におけるサブスクリプション型償還モデルへの採択について
新規シデロフォアセファロスポリン系抗菌薬セフィデロコルの台湾における新薬承認申請受理について
塩野義製薬、GARDP、CHAIによる細菌感染症治療薬セフィデロコルに関する ライセンス契約ならびに提携契約の締結について -135ヵ国でセフィデロコルへのアクセスを拡大
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