- 主要評価項目および主要な副次評価項目を達成した、第2/3相臨床試験 Phase 3 part(SCORPIO-SR試験)の結果がJAMA Network Open誌に掲載
- COVID-19の14症状の早期改善を示す新たな結果を発表
塩野義製薬株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役会長兼社長 CEO:手代木 功、以下「塩野義製薬」または「当社」)は、COVID-19治療薬エンシトレルビル フマル酸(日本での製品名:ゾコーバⓇ錠125 mg、以下「エンシトレルビル」)について、日本、韓国、ベトナムで実施した第2/3相臨床試験(SCORPIO-SR試験) Phase 3 part(以下「本試験」)の結果が米国医師会雑誌「JAMA Network Open」に掲載1されたことをお知らせいたします。
本試験は、オミクロン株流行期に、エンシトレルビル125 mg、250 mgの2用量(初日のみそれぞれ375mg、750mg)を1日1回、5日間経口投与した際の臨床症状の改善効果を検証することを主目的に、軽症/中等症患者を対象に実施した無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験です。本試験では、日本、韓国、ベトナムにおいて重症化リスク因子の有無、またワクチン接種の有無にかかわらず、発症から120時間以内の軽症/中等症患者1,821例が登録されました。これらの患者は、約3割が重症化リスク因子を有しており、9割以上がワクチン接種済みでした。本試験においてエンシトレルビルは、オミクロン株流行期に実施した臨床試験で、COVID-19症状の罹病期間を主要評価項目として、世界で初めてプラセボに対する優越性を検証し、日本において125 mg(初日のみ375 mg)の用量で2022年11月22日に緊急承認されています2。
本論文では、新たな結果を含む本試験の結果が発表されました。(主な結果は別紙参照。論文にはその他の副次評価項目など新たな結果も掲載)
エンシトレルビルは、日本ではゾコーバⓇの製品名で販売されており、多くの患者さまのCOVID-19治療に貢献しています。また海外では、シンガポールにおいて2023年11月にSAR(Special Access Route)*申請に基づいた承認を受けたことにより、シンガポール国内の一部の施設において使用が可能となっています3。米国においては、開発の促進や審査の迅速化を目的とするファストトラック指定(Fast Track designation)を米国食品医薬品局(FDA)から受領しています4。
* SAR:未承認の治療薬を輸入・供給するためにシンガポールが独自に有する薬事システム、医療機関に所属する各医師からの申請が必要
COVID-19は、さまざまな急性および持続的な健康問題を引き起こす深刻な感染症であり、重症化して入院や死亡のリスクを伴うことがあります5,6。また、流行予測が困難であり、世界的に人口、医療システム、経済に大きな影響が及んでいます7,8,9,10,11。さらに、新たな変異が出現し続けており、将来的な感染拡大も予想されています7,8。現在、予防ワクチンや一部の治療法が利用可能であるものの、WHO(世界保健機関)はさらなるCOVID-19の治療オプションが必要であることを強調しています12。
塩野義製薬は、取り組むべきマテリアリティ(重要課題)として「感染症の脅威からの解放」を特定し、感染症のトータルケアの実現に向けた取り組みを進めています。エンシトレルビルのグローバル開発を加速し、さらなるエビデンスの集積に努めるとともに、各規制当局による審査等に迅速に対応してまいります。引き続き、社会の安心・安全の回復に貢献するとともに、新たな変異株の出現や今後の流行状況に合わせ、必要とされる治療薬、ワクチンを迅速に提供できるよう、COVID-19に対する研究開発を推進してまいります。
以 上
【主な試験結果について】(承認用量を中心に概説)
・主要評価項目の主たる解析(既報)
・発症から72時間未満に割付けられた患者集団(1,030名)において、エンシトレルビル125 mg投与により、オミクロン株感染時に特徴的な5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、けん怠感 (疲労感))が消失するまでの時間をプラセボ群と比較して有意に短縮し、症状に対する改善効果が確認されました(p=0.04)。症状消失までの時間の中央値は、本薬 125 mg 群では 約7日間、プラセボ群では約8日間でした。
・主要な副次評価項目(既報)
・エンシトレルビル125 mg投与により、投与4日目におけるウイルスRNA量をプラセボ群と比較して有意に減少しました(4日目におけるベースラインからのウイルスRNA変化量は、本薬 125 mg 群では-2.48 log10 copies/mL、プラセボ群では-1.01 log10 copies/mL;p<0.0001)。
・エンシトレルビル125 mg投与により、感染性を有するSARS-CoV-2ウイルス(ウイルス力価)の陰性化が最初に確認されるまでの時間を、プラセボ群と比較して有意に短縮しました(p<0.001)。ウイルス力価陰性化までの時間の中央値は、本薬125 mg群では36.2時間、プラセボ群では65.3時間でした。本試験は、COVID-19に対する経口抗ウイルス薬の投与により、ウイルス力価の陰性化が最初に確認されるまでの時間をプラセボ群に対して統計学的に有意に短縮することを示した初めての試験です。
・安全性(一部新規)
・忍容性は良好であり、ほとんどの有害事象は軽度で死亡例の報告はありませんでした。本薬125 mg群で比較的高頻度に見られた副作用は、高比重リポ蛋白の減少および血中トリグリセリドの上昇でした。2例で重篤な有害事象が報告されましたが、いずれも本薬との因果関係はありませんでした。
味覚異常および嗅覚異常を含むCOVID‑19の14症状の消失を含むその他の結果については、JAMA Network Open誌をご確認下さい。
【エンシトレルビル フマル酸について】
COVID-19治療薬であるエンシトレルビルは、北海道大学と塩野義製薬の共同研究から創製された3CLプロテアーゼ阻害薬です。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は3CLプロテアーゼというウイルスの増殖に必須の酵素を有しており、エンシトレルビルは3CLプロテアーゼを選択的に阻害することで、SARS-CoV-2の増殖を抑制します。オミクロン株流行期に、重症化リスク因子の有無やワクチン接種の有無にかかわらず幅広い軽症/中等症患者を対象に実施した第2/3相臨床試験のPhase 3 partにおいて、オミクロン株に特徴的なCOVID-19の5症状に対する改善効果(主要評価項目)および抗ウイルス効果(主要な副次評価項目)が確認されています13, 14。これらの結果に基づき、日本においては2022年11月に緊急承認されています。またシンガポールにおいては、2023年11月にSAR(Special Access Route)申請に基づいた承認を受けたことにより、シンガポール国内の一部の施設において使用が可能となっています。さらに、米国においては、米国食品医薬品局(FDA)より開発の促進や審査の迅速化を目的とするファストトラック指定(Fast Track designation)を受領しています。グローバルにおいては、入院を伴わないSARS-CoV-2感染患者を対象としたSCORPIO-HR試験15、入院患者を対象としたSTRIVE試験16、また、家庭内濃厚接触者を対象としたSCORPIO-PEP試験17、小児を対象とした国内第3相臨床試験18が進行中です。これらに加えて、当社とMedicines Patent Poolは、低中所得国(LMICs)に広く提供することを目的としたライセンス契約を締結し本薬のアクセス拡大に向けた取り組みを進めています19,20。
参考:
2. プレスリリース:2022年11月22日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬「ゾコーバ® 錠125mg」の 緊急承認制度に基づく製造販売承認取得について
3. プレスリリース:2023年12月19日
シンガポールにおける新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸の平安塩野義香港とJuniper社のサブライセンス契約の締結およびSAR承認取得について
4. プレスリリース:2023年4月4日
新型コロナウイルス感染症治療薬 エンシトレルビル フマル酸(日本での製品名:ゾコーバ®錠125mg)について米国FDAよりファストトラック指定を受領
5. COVID-19 Death Data and Resources. The Centers for Disease Control and Prevention. Accessed January 19, 2024. Available at: https://www.cdc.gov/nchs/nvss/covid-19.htm.
6. About COVID-19. Centers for Disease Control and Prevention. Accessed September 27, 2023. Available at: https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/your-health/about-covid-19.html
7. Variants of the Virus. Centers for Disease Control and Prevention. Accessed September 27, 2023. Available at: https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/variants/index.html.
8. Tracking SARS-CoV-2 variants. World Health Organization. Accessed September 27, 2023. Available at: https://www.who.int/activities/tracking-SARS-CoV-2-variants.
9. WHO Coronavirus (COVID-19) Dashboard. The World Health Organization. Accessed September 27, 2023. Available at: https://covid19.who.int/.
10. Post-pandemic world economy still feeling COVID-19’s sting. United Nations. Accessed October 3, 2023. Available at: https://news.un.org/en/story/2023/05/1136727#:~:text=Prospects%20for%20a%20robust%20global,Prospects%20report%2C%20released%20on%20Tuesday.
11. COVID-19 Surveillance After Expiration of the Public Health Emergency Declaration ― United States, May 11, 2023. Centers for Disease Control and Prevention. Accessed October 3, 2023. Available at: https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/72/wr/mm7219e1.htm?s_mm7219e1_w.
12. Therapeutics and COVID-19. Page 8. The World Health Organization. Accessed September 26, 2023. Available at: https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/365584/WHO-2019-nCoV-therapeutics-2023.1-eng.pdf.
13. プレスリリース:2022年9月28日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸(S-217622)の 第2/3相臨床試験 Phase 3 partにおける良好な結果について(速報)
14. プレスリリース:2023年2月22日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 エンシトレルビル フマル酸によるウイルス力価の早期陰性化ならびに罹患後症状(Long COVID)の発現リスクに対する低減効果について ‐国際学会CROI 2023において新規データを発表‐
15. プレスリリース:2022年3月16日
塩野義製薬とACTGによる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 S-217622のグローバル第3相臨床試験の実施について
16. プレスリリース:2023年2月16日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 エンシトレルビル フマル酸の グローバル第3相臨床試験(STRIVE)開始について
17. プレスリリース:2023年6月9日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸のグローバル第3相臨床試験開始について‐ COVID-19の発症抑制効果の検証を目的とした発症予防試験を開始 ‐
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸の国内第3相臨床試験開始について ‐ 6歳以上12歳未満の小児を対象とした臨床試験を開始 ‐
塩野義製薬とMedicines Patent Poolによる COVID-19治療薬エンシトレルビル フマル酸(S-217622)に関するライセンス契約締結について
Medicines Patent Poolによるジェネリック医薬品メーカー7社との COVID-19治療薬エンシトレルビル フマル酸の製造に関するサブライセンス契約の締結