塩野義製薬株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:手代木 功、以下「塩野義製薬」または「当社」)は、FETROJA®(cefiderocol)について、米国食品医薬品局(FDA)より「18歳以上の患者における、グラム陰性菌による院内肺炎(院内細菌性肺炎および人工呼吸器関連肺炎)治療」の適応追加承認を取得したことをお知らせいたします。
FETROJA®は、新規シデロフォアセファロスポリン抗菌薬であり、「18歳以上の患者における、グラム陰性菌による腎盂炎を含む複雑尿路感染症治療」を適応に米国で承認されており1、当社の米国子会社であるShionogi Inc.が販売しています。このたびの適応追加は、院内肺炎を対象とした第III相臨床試験 [APEKS-NP])の良好な結果2を基に判断されました。
院内肺炎は、最も重要な院内感染症のひとつであり、中でも薬剤耐性のグラム陰性菌によって引き起こされる感染症に対する治療薬は限られていることから、患者さまにとって致命的な脅威となります。FETROJA®は、世界保健機関(WHO)により最優先の対応が必要であると考えられているカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すアシネトバクター・バウマニ、緑膿菌および腸内細菌目細菌に有効性を示す唯一の薬剤です。当社は、このたびの適応追加承認により、グラム陰性菌が引き起こす院内肺炎と闘う患者さまおよび医療関係者に、新たな治療選択肢を提供できると考えています。
塩野義製薬は、取り組むべきマテリアリティ(重要課題)として「感染症の脅威からの解放」を特定し、研究、開発、製造、販売と幅広く感染症に対する取り組みを進めております。当社は、グローバルの課題であるAMRの対策を成功させるため、政府、国際機関、製薬会社、抗菌薬の処方医師、使用者(患者さま)を含む全てのステークホルダーと連携して課題解決に向けて取り組んでまいります。
なお、本件が2021年3月期連結業績に与える影響は軽微です。
以 上
【APEKS-NP試験について】
APEKS-NP試験は、アシネトバクター・バウマニ、緑膿菌および腸内細菌目細菌といった幅広いグラム陰性菌による院内肺炎(院内感染肺炎、人工呼吸器関連肺炎、医療ケア関連肺炎)の重症患者を対象に、cefiderocol群(1回2 g、3時間点滴、1日3回)と高用量のメロペネム群(1回2 g、3時間点滴、1日3回)の有効性と安全性を比較するための無作為化、盲検下における第III相臨床試験です。本試験において、主要評価項目である投与終了14日後の全死因死亡率は、cefiderocol群で 12.4%(18/145 例)、高用量メロペネム群で 11.6%(17/146例)であり、cefiderocol群は高用量メロペネム群に対して非劣性を示しました(調整治療差0.8% [95% CI -6.6~8.2])。また、本試験において認められた有害事象の発生率は両薬剤間で同程度であり、cefiderocolについて新たな安全性の懸念は認められませんでした。
【薬剤耐性グラム陰性菌について】
カルバペネム系抗菌薬耐性を含めた多剤耐性を示す緑膿菌、アシネトバクター・バウマニ、ステノトロホモナス・マルトフィリアおよび腸内細菌目細菌による感染症の増加は医療における重要課題となっています3-8。これらの感染症の既存薬での治療は困難であり、致死率も上昇しています9。米国では、年間少なくとも280万人が薬剤耐性菌に感染し、そのうち少なくとも3万5千人が死亡することが報告されています10。何らかの手立てを打たなければ、2050年までに薬剤耐性菌感染症による全世界での死亡者数は1000万人、GDPに対する影響は100兆米国ドルにも及ぶという予測もされています11。
当社の薬剤耐性問題に対する取り組みについては、こちらをご覧ください。
【Cefiderocolについて】
Cefiderocolは、多剤耐性菌を含むグラム陰性菌の外膜を効果的に通過して抗菌活性を発揮する新規のシデロフォアセファロスポリン抗菌薬です。Cefiderocolは細菌のカルバペネムへの耐性獲得に関連する3つの主な機序(βラクタマーゼによる抗菌薬の不活化、ポーリンチャネルの変異による膜透過性低下、排出ポンプの過剰産生)による影響を受けずに抗菌力を発揮します。鉄と結合する独自の構造を有することにより、細菌が養分である鉄を取り込むために利用する鉄トランスポーターを介し、細菌内に能動的に運ばれます12。その結果、cefiderocolは細菌のペリプラズム内に効率よく取り込まれ、細胞壁合成を効率的に阻害します13。
参考
1. 2019年11月15日リリース FETROJA®(cefiderocol)の米国における新薬承認について
2. 2019年10月3日リリース CefiderocolのAPEKS-NP試験結果について
3. World Health Organization. Global priority list of antibiotic-resistant bacteria to guide research, discovery, and development of new antibiotics. February 27, 2017. Retrieved from https://www.who.int/medicines/publications/global-priority-list-antibiotic-resistant-bacteria/en/.
4. World Health Organization. 2019 ANTIBACTERIAL AGENTS IN CLINICAL DEVELOPMENT. 2019. Retrieved from
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/330420/9789240000193-eng.pdf
5. Hackel M, Tsuji M, Yamano Y, et al. In Vitro Activity of the Siderophore Cephalosporin, Cefiderocol, Against a Recent Collection of Clinically Relevant Gram-Negative Bacilli from North America and Europe, Including Carbapenem Non-Susceptible Isolates: The SIDERO-WT-2014 Study. Antimicrob Agents Chemother. 2017;61(9):e00093−17. https://doi.org/10.1128/AAC.00093-17.
6. Diene SM, Rolain JM. Carbapenemase genes and genetic platforms in gram-negative bacilli: Enterobacteriaceae, Pseudomonas and Acinetobacter species. Clin Microbiol Infect 2014; 20:831−38.
7. Livermore DM. Current epidemiology and growing resistance of gram-negative pathogens. Korean J Intern Med 2012; 27:128−42.
8. Brooke JS. Stenotrophomonas maltophilia: an emerging global opportunistic pathogen. Clin Microbiol Rev 2012; 25:2−41.
9. Tangden T, Giske CG. Global dissemination of extensively drug-resistant carbapenemase-producing Enterobacteriaceae: clinical perspectives on detection, treatment and infection control. J Intern Med 2015; 277:501−12.
10. Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Antibiotic Resistance Threats in the United States 2019, Atlanta, GA: U.S. Department of Health and Human Services, CDC; 2019. Retrieved from https://www.cdc.gov/drugresistance/pdf/threats-report/2019-ar-threats-report-508.pdf
11. O’Neill J. ‘Tackling Drug-Resistant Infections Globally: Final Report and Recommendations’. Review on Antimicrobial Resistance. May 2016. Retrieved from https://amr-review.org/sites/default/files/160525_Final%20paper_with%20cover.pdf
12. Ito A, Nishikawa T., Matsumoto S, et al. Siderophore Cephalosporin Cefiderocol Utilizes Ferric Iron Transporter Systems for Antibacterial Activity against Pseudomonas aeruginosa. Antimicrob Agents Chemother. 2016;60(12):7396-7401.
13. Tillotson GS. Trojan Horse Antibiotics—A Novel Way to Circumvent Gram-Negative Bacterial Resistance? Infectious Diseases: Research and Treatment. 2016;9:45-52 doi:10.4137/IDRT.S31567.