塩野義製薬株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役会長兼社長CEO:手代木 功、以下「塩野義製薬」)は、COVID-19治療薬エンシトレルビル フマル酸(日本における製品名:ゾコーバⓇ錠125 mg、以下「エンシトレルビル」)の、グローバル第3相無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験(以下「SCORPIO-HR試験」1または「本試験」)の結果について、お知らせいたします。
試験結果の概要は以下の通りです。詳細な結果は今後学会等にて発表する予定です。
· エンシトレルビル投与により、プラセボ投与群との比較で、COVID-19の15症状の消失までの時間短縮が認められた。しかし、米国食品医薬品局(FDA)と当初に合意した、統計学的手法を用いた主要評価項目の検定では、明確な有意差を示すまでには至らなかった。
· 一方で、アジアで実施した第2/3相臨床試験 Phase 3 part(SCORPIO-SR試験)と同様の、事前規定した副次評価項目に対する別の解析方法を用いた検定では、有意な短縮(p<0.05)が認められた。
· COVID-19の罹患後症状(いわゆる後遺症)については、投与後3ヵ月時点において、全体として差は認められなかったが、「罹患前の健康状態に戻った」および「倦怠感はない」と報告した患者の割合が高い傾向にあった。投与後6ヵ月時点の調査も含め、今後追加で詳細な解析を予定している。
· エンシトレルビル投与により、ウイルスのRNA量および感染性を有するウイルス(ウイルス力価)のいずれにおいても、副次解析で有意な抗ウイルス効果(p<0.05)が確認された。さらに、SCORPIO-SR試験と同様に、症状再燃を伴うウイルスのリバウンドは観察されなかった。
· 安全性については、プラセボ投与群との比較で、有害事象の発現頻度に差はなく、高い安全性ならびに忍容性が確認された。特に、味覚異常(薬剤関連の異常な味覚)は報告されなかった。
· オミクロン株が主感染原因と考えられる本試験では、両群でCOVID-19 に関連する死亡例はなく、入院は数例のみであった。そのため、オミクロン株流行前に、ワクチン未接種で、重症化リスク因子を有する患者に対する有効性評価指標として汎用されていた、重症化抑制効果を評価することは困難であった。
本試験では、エンシトレルビルの1日1回、5日間経口投与により、主要評価項目(COVID-19の15症状が持続的に消失 [2日間の症状消失維持] するまでの時間のプラセボ投与群との比較)は達成しませんでしたが、優れた抗ウイルス効果や、アジアで12歳以上の軽症/中等症患者を対象に実施した、第2/3相臨床試験 Phase 3 part(SCORPIO-SR試験2)と同様に事前規定した副次解析を行った際には、プラセボ投与群と比較して、有意な症状消失までの時間の短縮(P<0.05)が認められました。また、エンシトレルビル投与により、投与開始時からのウイルスRNA変化量は、副次解析でプラセボ群と比較して有意に減少し、優れた抗ウイルス効果が確認され、SCORPIO-SR試験と同様に、症状再燃を伴うウイルスのリバウンドは観察されませんでした。
COVID-19は、SARS-CoV-2感染後に生体内でウイルスが増殖することで、さまざまな臨床症状が起こる急性呼吸器感染症です。本試験では、SCORPIO-SR試験と同様に、重症化リスク因子の有無やワクチン接種の有無、過去の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の有無にかかわらず、幅広い軽症/中等症の非入院COVID-19患者を対象に試験を実施しました。しかし、実際には、SCORPIO-SR試験と比較して、治療開始時のウイルス量が低い患者の占める割合が高い結果となり、ウイルス量の早期低下による臨床症状の改善効果を検証することが困難でした。しかしながら、このような条件下においても、エンシトレルビル投与により症状の改善傾向が示されたことは、臨床的に意義があると考えております。
当社の米国グループ会社Shionogi Inc.のシニアバイスプレジデント兼臨床開発責任者であるSimon Portsmouth医学博士は、次のように述べています。「今回の結果は、エンシトレルビルの優れた抗ウイルス効果を裏付けるものであり、これまでアジアで集積された、本薬の臨床データとリアルワールドエビデンスをさらに強化するものです。本試験では、本薬の安全性面での新たな懸念は確認されませんでした。また、本薬はプラセボと同様の忍容性があり、薬剤性の味覚異常は報告されていません。引き続き規制当局と連携し、多くの国々でエンシトレルビルが使用できるよう取り組んでまいります。」
SCORPIO-HR試験では、SCORPIO-SR試験と同様に、優れた抗ウイルス効果と良好な症状改善傾向が確認されました。当社は、規制当局と引き続き協議を行い、安全性が高く、優れた抗ウイルス効果と症状改善効果を有するCOVID-19治療薬を、全世界の患者さまに提供できるよう引き続き取り組んでまいります。
なお、本件は2025年3月期の連結業績予想に織り込み済みであるため、現時点でその影響は軽微です。今後、状況に応じて精査いたします。
【SCORPIO-HR試験について】
SCORPIO-HR試験は、北米、南米、欧州、アフリカ、アジア(日本を含む)において、SARS-CoV-2 に感染した軽症/中等症の非入院成人患者を対象に、エンシトレルビルの有効性と安全性を評価した試験です。本試験はオミクロン株流行期に実施され、ほとんどの患者がワクチン接種済みであり、重症化リスク因子を有する患者*の割合は約3割でした。本試験は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の構成機関である国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が支援している、官民パートナシッププログラム「ACTIV」の一環として実施されました。また、NIAIDから資金援助を受け、The Advancing Clinical Therapeutics Globally(ACTG)が主導し、当社も協力して実施された試験です。(* 肥満(BMI >= 30 kg/m2)、高血圧、糖尿病等)
【エンシトレルビル フマル酸について】
COVID-19治療薬であるエンシトレルビルは、北海道大学と塩野義製薬の共同研究から創製された3CLプロテアーゼ阻害薬です。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、3CLプロテアーゼというウイルスの増殖に必須の酵素を有しており、エンシトレルビルは3CLプロテアーゼを選択的に阻害することで、SARS-CoV-2の増殖を抑制します。オミクロン株流行期に、重症化リスク因子の有無やワクチン接種の有無にかかわらず幅広い軽症/中等症患者を対象に実施した第2/3相臨床試験のPhase 3 partにおいて、オミクロン株に特徴的なCOVID-19の5症状に対する改善効果(主要評価項目)が確認されています3、4。これらの結果に基づき、日本において2022年11月に緊急承認5され、2024年3月に通常承認6されました。エンシトレルビルは緊急承認以降100万人以上(推定)のCOVID-19患者に使用されており、患者さまの治療に貢献するとともに安全性情報が蓄積されてきました7。またシンガポールにおいては、2023年11月にSAR**(Special Access Route)申請に基づいた輸入許可を受けたことにより、一部の施設において使用が可能となっています8。さらに米国においては、米国食品医薬品局(FDA)より開発の促進や審査の迅速化を目的とするファストトラック指定(Fast Track designation)を受領しています9。グローバルにおいては、SCORPIO-HR試験(COVID-19に関するACTIV-2プログラムの一つであるACTIV-2d)の他、入院患者を対象としたSTRIVE試験10、家庭内濃厚接触者を対象としたSCORPIO-PEP試験11、小児を対象とした国内第3相臨床試験12が進行中です。これらに加え、当社とMedicines Patent Poolは、低中所得国(LMICs)に広く提供することを目的としたライセンス契約を締結し本薬のアクセス拡大に向けた取り組みを進めています13、14。
** SAR:未承認の治療薬を輸入・供給するためにシンガポールが独自に有する薬事システム、医療機関に所属する各医師からの申請が必要
参考:
1. プレスリリース:2022年3月16日
塩野義製薬とACTGによる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 S-217622のグローバル第3相臨床試験の実施について
3. プレスリリース:2022年9月28日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸(S-217622)の 第2/3相臨床試験 Phase 3 partにおける良好な結果について(速報)
4. プレスリリース:2023年2月22日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 エンシトレルビル フマル酸によるウイルス力価の早期陰性化ならびに罹患後症状(Long COVID)の発現リスクに対する低減効果について ‐国際学会CROI 2023において新規データを発表‐
5. プレスリリース:2022年11月22日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬「ゾコーバ® 錠125mg」の 緊急承認制度に基づく製造販売承認取得について
6. プレスリリース:2024年3月5日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬「ゾコーバⓇ錠125mg」の日本における通常承認の取得について
8. プレスリリース:2023年12月19日
シンガポールにおける新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸の平安塩野義香港とJuniper社のサブライセンス契約の締結およびSAR承認取得について
9. プレスリリース:2023年4月4日
新型コロナウイルス感染症治療薬 エンシトレルビル フマル酸(日本での製品名:ゾコーバ®錠125mg)について米国FDAよりファストトラック指定を受領
10. プレスリリース:2023年2月16日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 エンシトレルビル フマル酸の グローバル第3相臨床試験(STRIVE)開始について
11. プレスリリース:2023年6月9日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸のグローバル第3相臨床試験開始について‐ COVID-19の発症抑制効果の検証を目的とした発症予防試験を開始 ‐
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸の国内第3相臨床試験開始について ‐ 6歳以上12歳未満の小児を対象とした臨床試験を開始 ‐
塩野義製薬とMedicines Patent Poolによる COVID-19治療薬エンシトレルビル フマル酸(S-217622)に関するライセンス契約締結について
Medicines Patent Poolによるジェネリック医薬品メーカー7社との COVID-19治療薬エンシトレルビル フマル酸の製造に関するサブライセンス契約の締結
[お問合せ先]
塩野義製薬ウェブサイト お問い合わせフォーム:
https://www.shionogi.com/jp/ja/quest.html#3.