塩野義製薬株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:手代木 功、以下「塩野義製薬」または「当社」)は、FETROJA®について、「18歳以上の患者における、グラム陰性菌による院内肺炎(院内細菌性肺炎および人工呼吸器関連肺炎)治療」を適応として、米国食品医薬品局(FDA)に適応追加申請を行い受理されましたので、お知らせいたします。本薬は優先審査の対象品目に指定されており、FDA の審査終了目標日(PDUFA date)は2020年9月27日です。
本薬はグラム陰性菌の抗菌薬に対する複数の耐性獲得機序を克服した新規のシデロフォアセファロスポリン抗菌薬であり、2019年11月14日にFDAより「他の治療選択肢が無いもしくは限られた18歳以上の患者における、グラム陰性菌による腎盂炎を含む複雑尿路感染症治療」を適応に承認され、現在米国で当社が販売しています1。このたびの追加適応申請は、院内肺炎を対象とした国際共同試験 [APEKS-NP])の良好な結果2を基に行われました。
また、本薬は2020年4月23日に欧州委員会(EC)より「治療選択肢が限られた18歳以上の患者におけるグラム陰性菌感染症治療」を適応として承認され3、現在欧州での発売準備を進めております。
塩野義製薬は、FETROJAが重要な社会課題である多剤耐性菌感染症に対する有望な治療選択肢になると考えております。当社は「新たなプラットフォームでヘルスケアの未来を創り出す」ことをビジョンとして掲げた中期経営計画STS2030の中で、「感染症の脅威からの解放」を重視する社会課題の一つにあげております。人々の健康を守るために必要な感染症治療薬を、世界中の患者さまのもとにいち早くお届けできるよう、引き続き努力してまいります。
なお、本件が2021年3月期連結業績に与える影響は軽微です。
以 上
【FETROJA®(cefiderocol)について】
FETROJAは、多剤耐性菌を含むグラム陰性菌の外膜を通過する新規メカニズムを有するシデロフォアセファロスポリン抗菌薬です。本薬はポーリンチャネルを介した受動輸送だけでなく、鉄と結合する独自の構造を有することにより、細菌が養分である鉄を取り込むために利用する鉄トランスポーターを介して、細菌内に能動的に運ばれます4。その結果、FETROJAは細菌のペリプラズム内に高濃度に取り込まれ、細胞壁合成を阻害します4。またFETROJAは、ESBLs、AmpC、セリン型およびメタロ型カルバペネマーゼなどの、問題となっているbラクタマーゼを産生する細菌に対してもin vitro活性を示します4。グローバルで実施した感受性サーベイランス試験*において、FETROJAはカルバペネム系抗菌薬に耐性を示す緑膿菌、アシネトバクター・バウマニ、ステノトロホモナス・マルトフィリアおよび腸内細菌科細菌を含むグラム陰性菌に対し、in vitroで抗菌スペクトルを示しました4。これに対して、FETROJAのグラム陽性菌および嫌気性菌に対するin vitro活性は強くありません。
* サーベイランス試験 :医療機関より入手した臨床分離菌の薬剤感受性を調査する試験
【薬剤耐性菌感染症について】
カルバペネム系抗菌薬に耐性を示す腸内細菌科細菌、緑膿菌、アシネトバクター・バウマニおよびステノトロホモナス・マルトフィリアを含む、既存薬に対する耐性を獲得したグラム陰性菌感染症の増加は医療における重要課題となっています5-9。これらの感染症の既存薬での治療は困難であり、致死率も増加しています10。米国では、年間少なくとも280万人が薬剤耐性菌に感染し、そのうち少なくとも3万5千人が死亡することが報告されています11。何らかの手立てを打たなければ、2050年までに薬剤耐性菌感染症による全世界での死亡者数は1000万人、GDPに対する影響は100兆米国ドルにもおよぶという予測もされており12、カルバペネム系抗菌薬に耐性を示す腸内細菌科細菌、緑膿菌、アシネトバクター・バウマニを含むグラム陰性菌に対する新たな抗菌薬の研究開発は、世界保健機関および米国疾病予防管理センターにより最優先事項と考えられています6, 11。弊社の薬剤耐性問題への取り組みの詳細については、こちらをご覧ください。
参考:
1. 2020年2月25日リリース
FETROJA®(cefiderocol)の米国での発売について
2. 2019年10月23日リリース
注射用シデロフォアセファロスポリン抗菌薬セフィデロコルの院内肺炎患者を対象とした第III相臨床試験(APEKS-NP)の試験結果について
3. 2020年4月27日リリース
FETCROJA®(cefiderocol)の欧州における承認取得について
4. FETROJA® (cefiderocol) prescribing information. Florham Park, N.J. Shionogi Inc.: November 2019.
5. Hackel M, Tsuji M, Yamano Y, et al. In Vitro Activity of the Siderophore Cephalosporin, Cefiderocol, Against a Recent Collection of Clinically Relevant Gram-Negative Bacilli from North America and Europe, Including Carbapenem Non-Susceptible Isolates: The SIDERO-WT-2014 Study. Antimicrob Agents Chemother. 2017;61(9):e00093−17. https://doi.org/10.1128/AAC.00093-17.
6. World Health Organization. Global priority list of antibiotic-resistant bacteria to guide research, discovery, and development of new antibiotics. February 27, 2017. Retrieved from https://www.who.int/medicines/publications/global-priority-list-antibiotic-resistant-bacteria/en/.
7. Diene SM, Rolain JM. Carbapenemase genes and genetic platforms in gram-negative bacilli: Enterobacteriaceae, Pseudomonas and Acinetobacter species. Clin Microbiol Infect 2014; 20:831−38.
8. Livermore DM. Current epidemiology and growing resistance of gram-negative pathogens. Korean J Intern Med 2012; 27:128−42.
9. Brooke JS. Stenotrophomonas maltophilia: an emerging global opportunistic pathogen. Clin Microbiol Rev 2012; 25:2−41.
10. Tangden T, Giske CG. Global dissemination of extensively drug-resistant carbapenemase-producing Enterobacteriaceae: clinical perspectives on detection, treatment and infection control. J Intern Med 2015; 277:501−12.
11. Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Antibiotic Resistance Threats in the United States 2019, Atlanta, GA: U.S. Department of Health and Human Services, CDC; 2019. Retrieved from https://www.cdc.gov/drugresistance/pdf/threats-report/2019-ar-threats-report-508.pdf
12. O’Neill J. ‘Tackling Drug-Resistant Infections Globally: Final Report and Recommendations’. Review on Antimicrobial Resistance. May 2016. Retrieved from https://amr-review.org/sites/default/files/160525_Final%20paper_with%20cover.pdf