• AMRに対する考え方

     AMR(Antimicrobial Resistance)とは細菌等の病原性微生物が抗微生物薬への耐性を獲得し薬が効かなくなることであり、近年AMRの増加が大きな社会問題になっています。AMRが増加している主な要因として抗菌薬の過剰投与や、抗菌薬を服用している患者さんが自己判断で服用を中止するなど、抗菌薬の不適切な使用が挙げられますが、抗菌薬を製造する工場からの環境排出も耐性菌を生み出す要因の一つとして考えられており、様々な側面からの対策が重要となっています。

     SHIONOGIグループ(以下、SHIONOGI)は半世紀以上にわたって抗菌薬を社会に提供している企業の責任として、抗菌薬製造過程からの環境排出を厳格に管理しています。AMRは世界的な脅威とされていることから、SHIONOGIは抗菌薬の環境排出管理を自社グループのみならずサプライチェーン全体に広げ、その遵守状況を定期的に確認していくこととしています。

目標と実績

中長期目標と取組結果

 SHIONOGIは、抗菌薬の製造過程における環境への影響を軽減するために、抗菌薬ならびにその原薬/中間体を取り扱う自社グループの工場やサプライヤー(表1)に対する監査(AMR監査)およびそのフィードバックを通じて、2030年までにサプライチェーン全体で抗菌薬環境排出の適正管理を実現することとしています。

表1:SHIONOGIが扱う抗菌薬原薬の環境排出基準値と監査対象(色付きのセルが2023年度までの監査対象)
抗菌薬原薬の環境排出基準値と監査対象の表

F、G、H社が海外サプライヤー

 

 まずは2024年度までに自社グループの工場における抗菌薬排出管理体制の維持・向上を図るとともに、すべての関連サプライヤーの初回AMR監査を完了するという目標を設定しておりましたが、初回のAMR監査については2023年度にすべて完了し、1年前倒しで達成することができました(表2)。

 なお、SHIONOGIにおけるAMR監査は上述の通り、すべてAMR Industry Alliance (以下、AMRIA)*1が定める「Antibiotic Manufacturing Standard*2」(以下、Standard)に基づいて実施することで、グローバル基準の抗菌薬の環境排出抑制ならびに管理体制を担保しています。

*1   AMR Industry Alliance(外部リンク)

 2016年9月に開催されたダボス会議において、12社のリーディングカンパニーとともに、“AMR Industry  Roadmap”に署名しました。署名企業は、率先して自社グループおよび委託先の管理を行うことと、AMR対策のロードマップを定め、その環境排出の管理手法をすべての抗菌薬製造メーカーに提供することなどを通じて、AMRの発生抑制を目指しています。本活動は、現在“AMR Industry Alliance”として抗菌薬を扱う多くの会社も加えた活動に発展しています。

ロゴマーク
*2  Antibiotic Manufacturing Standard(外部リンク)
表2:サプライヤーの監査結果(2023年度までの実績)
サプライヤー名 所在国 マネジメントシステム 排水管理 固形廃棄物管理 環境排出基準値の遵守状況
A社 日本
B社 日本
C社 日本
D社 日本
F社 インド
G社 インド
H社 イタリア

○:「Standard」の基準に適合

△:「Standard」の基準と比べ、一部不適合があり、是正処置対応中

×:「Standard」の基準と比べ、複数の不適合があり、是正処置対応中

図:抗菌薬の排出抑制・管理の取り組みのまとめ
AMR対策の中長期目標
抗菌薬の排出抑制・管理の取り組み
抗菌薬の排出抑制・管理の取り組み
抗菌薬の排出抑制・管理の取り組み
*3  自社グループでSHIONOGIの抗菌薬を製造しているのは金ケ崎工場のみです。

AMRに対する取り組み

新中長期目標の設定

 英国規格協会BSI(The British Standards Institution)は、2023年にAMRIAのStandardを基に、抗菌薬製造におけるAMRのリスク最小化を客観的評価・保証する制度として、新たに国際的な認証制度「抗菌薬製造規格」を発表しました。SHIONOGIでは、AMRIAのStandardに基づいたAMR監査を実施していますが、AMRの発生に配慮して責任をもって抗菌薬を製造していることの保証を取得し、ステークホルダーの皆さまにお示ししていくことも重要と考えています。そのため、これまで中長期の目標として掲げてきた「サプライチェーン全体で抗菌薬環境排出の適正管理を実現する」ことの具体的な対応として、2035年度までにSHIONOGIが取り扱っているすべての抗菌薬の製造プロセスがBSIの認証を取得していることをAMRにおける新たな目標として設定しました。2024年度は、まず多剤耐性グラム陰性菌感染症治療薬のセフィデロコルのBSI認証を取得するための計画の立案とその実現可能性の評価を開始しています。

抗菌薬の排出抑制・管理の取り組み

 SHIONOGIにおける抗菌薬の旗艦製造工場である金ケ崎工場では、抗菌薬の排出抑制・管理の取り組みとして、製造過程で生じる排水については、製造棟ごとに抗菌薬の不活化処理を行った後に、事業所内の排水処理施設を経由して排出しています。また、AMRIAが定めるStandardに従い、工場排水中に含まれる抗菌薬の濃度分析を実施しており、現在、金ケ崎工場で製造している抗菌薬5品目の全てで排水中濃度が、自然環境に排出しても影響のない環境排出基準値*4レベル以下であることを確認しています。また、金ケ崎工場において抗菌薬製造プロセスから排出される固形廃棄物は、すべて回収して外部委託業者に焼却処分を委託しているため、固形廃棄物として抗菌薬が環境中に排出されることはありません。

 サプライヤーでは、国内4社に製造委託している抗菌薬4品目中、3社3品目で環境排出基準値を遵守していることを確認しています。遵守が確認できなかった1社1品目については、現在是正措置を実施しています。また海外サプライヤー3社に対して製造を委託している3品目の抗菌薬のうち、2社2品目で環境排出基準値の遵守を確認しています。遵守が確認できなかった1社1品目については、現在是正措置を実施しています。今後も国内および海外でそれぞれ年間2~3社、1~2社程度のサプライヤーに対して環境排出基準遵守状況の確認を継続していく予定です。

*4 工場排水中に含まれる抗菌薬の環境排出基準値は、AMRIAが公開しているPNECs(Predicted No-Effect Concentrations)、あるいはリストに無い医薬品の推奨値である0.05μg/Lのいずれかから採用して設定しています。詳細はこちらのWebサイトをご覧ください。(外部リンク)

One Health – AMR and the environmentへの登壇

 2024年6月、BSIが主催するwebinarイベント「One Health – AMR and the environment」に、Shionogi Inc.のGareth Morgan (Global Head, Portfolio Management and AMR Policy)がパネリストとして登壇し、聴講者として参加した抗菌薬製造メーカーおよびサプライヤーなどに対してSHIONOGIの抗菌薬製造工場における抗菌薬の排出抑制・管理の取り組みや関連サプライヤーに対するAMR監査の状況などについて説明しました。

 

「One Health – AMR and environment」(外部リンク)

One Health – AMR and the environmentへの登壇