第3期事業:ケニア共和国 ナクル県ギルギル準県
SHIONOGIは特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパンとともに、2023年6月から2026年5月まで、ケニア共和国 ナクル県ギルギル準県 キアムボゴコ地域において、妊産婦および5歳未満児の健康改善を目指すプロジェクトを実施しました。
本プロジェクトでは、2つの保健センターと2つの診療所を拠点に、保健施設の整備、保健人材の能力強化、地域住民への教育・啓発活動を実施しました。これにより、母子保健サービスの質の向上と、地域が主体となって母子の健康を支える持続可能な地域保健体制の構築を推進しました。
事業概要
| 事業地 | ケニア共和国 ナクル県ギルギル準県 キアムボゴコ地域 |
|---|---|
| 対象人口 | 34,643人(直接受益者:13,035人 間接受益者:21,608人) |
| 実施期間 | 2023年6月~2026年5月 |
| 事業費 | 7,600万円 |
| パートナー | 特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン |
支援地域
キアムボゴコ地域の母子保健課題
地域の1つの保健施設に
患者が集中
(キャパシティ不足)
簡易なトイレを
設置している世帯
24%
改善した水源から
水を得ている世帯
9%
県政府の
コミュニティ保健に対する
リソース不足
支援地域では、保健施設のインフラ整備の遅れや、地域全体で1つの保健センターに患者が集中してしまい、必要な時に、基礎的な医療サービスが十分に受けられないなど課題があります。
また、発育阻害や低体重といった子どもの栄養状態や、改善された衛生施設(トイレ)へのアクセスが低く、子どもの下痢症も課題です。
保健指標(参考値)
| 項目 | ケニア全体※1 | キアムボゴコ地域※2 |
|---|---|---|
| 産前健診受診率(4回以上) | 58% | 52% |
| 専門技能者の介助/保健施設での出産割合 | 61.2% | 82% |
| 予防接種完遂率 | 67.5% | 85% |
| 5歳未満児の下痢症発生件数 | - | 1,176件 |
| 改善した水源から水を得ている世帯 | - | 9% |
- ※1Kenya Demographic Health Survey 2014
- ※2ワールド・ビジョンによる調査2021
課題解決に向けた4つの取り組み
これまでの Mother to Mother 事業のアプローチをベースとして、キアムボゴコ地域の状況を踏まえ、遠隔地の医 療アクセスの整備支援とMother to Mother グループ(M2M)*などコミュニティ保健の体制強化を通じた母子保健の改 善に取り組みました。また 5 歳未満児の下痢症の発生件数を低下させることを具体的な評価指標として設定し、 そのために必要な水衛生分野の活動を重点的に行いました。
*各地域で母親同士のグループを結成し、母子保健・栄養などに関して教え合う機能(ピア教育)
① 母子保健サービスへのアクセス向上を目指した取り組み
妊産婦および子どもの保健サービスへのアクセス向上とサービスの質の改善を目指し、保健施設の整備、医療従事者の能力強化、ならびに村落保健員とM2Mグループの結成・強化による予防啓発活動や保健サービスの普及・利用促進に取り組みました。
主な活動
・産科棟の建設、既存棟の改修(キプタングワニ保健センター)
・医療器材や備品の支援
・医療従事者に対する知識・技術研修
・サポーティブスーパービジョンの実施
・データマネジメントのレビュー
・巡回診療の実施
・村落保健員による世帯訪問・能力強化
・M2Mグループの結成・強化
保健施設の新設・整備
2件医療従事者の育成
32名M2Mグループ参画人数
809名
②保健施設・地域の水衛生環境と衛生行動の改善に向けた取り組み
5歳未満児の下痢症発生率の低下を目指し、保健施設や学校を中心に、医療従事者、村落保健員、教員への水衛生研修や手洗い啓発を実施しました。また、安全な飲み水を利用できるよう浄水方法の導入を支援するとともに、CLTS(Community-Led Total Sanitation)による屋外排泄対策や、下痢症の子どもに適切なケアを提供するための経口補水コーナー(ORS*)を保健施設に設置しました。
*Oral Rehydration Solution
主な活動
・保健施設に経口補水コーナーを設置
・教員に対する水衛生に関する研修
・学校保健クラブの立ち上げと研修
・屋外排泄対策に関する研修とモニタリング
・地域住民へ水衛生に関する啓発
ORCコーナー設置した保健施設
4施設学校での保健クラブの数
22クラブ / 12校水衛生に関する世帯調査
46村落
③ 地域住民の栄養に関する行動改善に向けた取り組み
医療従事者や村落保健員への栄養研修、調理実演、M2Mグループを通じた栄養啓発を実施するとともに、母子保健・栄養に関する啓発活動を推進しました。また、急性栄養不良の早期発見・支援に向け、地域と保健施設が連携したスクリーニングおよび紹介体制の強化に取り組みました。
主な活動
・M2Mグループに対する栄養活動の支援
・5歳未満児の栄養状態スクリーニング
・急性栄養不良児のフォローアップ
・医療従事者、村落保健員に対する栄養研修
④行政による母子保健推進体制の強化
住民主体のアドボカシー活動(Citizen Voice and Action)を推進するとともに、行政との連携を通じて母子保健・栄養・水衛生分野の政策や予算への働きかけを行いました。また、事業のモニタリング・評価を実施し、成果の共有と持続的な事業運営に向けた協議を進めました。
主な活動
・住民によるアドボカシー活動(Citizen Voice and Action)の推進
・母子保健・栄養・水衛生分野における行政との連携強化
・行政の政策・予算策定プロセスへの参画支援
・事業成果の共有と持続化に向けた協議
・行政・コミュニティとの定期的な対話の推進
・事業のモニタリング・評価の実施
3年間の活動から生まれた支援地の変化
母子保健サービスを支える環境づくり、地域への教育・啓発、地域主体の仕組みづくりを通じて、母子保健サービスの利用や住民の健康行動、地域の活動体制にさまざまな変化が生まれました。ここでは、3年間の主な変化を指標とともに紹介します。
① 母子の保健サービスへのアクセス向上
保健施設の整備や医療従事者の研修、Mother to Mother(M2M)グループによる地域での健康教育活動、医療従事者の能力強化を進めた結果、妊産婦や子どもが必要な保健サービスを受けやすくなりました。また、以前は特定の保健施設に患者が集中していましたが、周辺保健施設の診療能力向上により利用者の分散が進み、特定施設への患者集中が緩和されるとともに、より多くの妊産婦が身近な施設で適切なサービスを受けられるようになりました。ギルギル準県全体では5歳未満児が50/1,000出生から17/1,000出生へ低下するなど、母子保健指標の改善がみられ、本事業もその改善に貢献しました。
産前健診受診率(4回以上)
52% → 79%家族計画サービスを受けた人数の目標達成率
70% → 120%専門技能者による出産介助率(%)
82% → 73%*子どもの予防接種完遂率
85% → 90%*ケニア政府が2024年10月に導入した社会保障システムであるSHA(Social Health Authority)の初期の混乱期や
医療従事者の不足、医療従事者宿舎の不足の影響が起因。
②水衛生環境と衛生行動の改善
学校やコミュニティへの継続的な啓発活動により、地域住民の衛生行動が改善され、こどもの下痢症の発生件数が減少しました。
石鹸を使った手洗い実施率
88.0% → 92.6%家庭での飲料水の浄化実施率
70.1% → 91.0%屋外排泄ゼロ認定*
77村落 / 77村落5歳未満児の下痢症発生数
773件 → 613件*地域のすべての世帯がトイレを利用し、屋外での排泄が行われていない状態であることを行政等が確認し、認定する制度
③ 地域住民の栄養行動改善
村落保健員への栄養研修やM2Mグループによる啓発活動を通じて、完全母乳育児や適切な補完食に関する知識・実践が広がり、地域住民の栄養行動の改善につながりました。その結果、5歳未満児の低体重の発生数が減少しました。
④行政による母子保健推進体制の構築
事業の持続性を担保するため、ナクル県、ギルギル準県および地域の保健人材と連携し、地域のオーナーシップを醸成しました。これにより、事業終了後もカウンターパート主導で活動が継続・発展していくことが期待されます。
Pick UP
Mother to Motherグループを通じた、お母さんたちの行動変容と自立
事業対象村落では、村落保健員と保健センターが連携し、多くの妊娠中・授乳中の女性がMother to Mother(M2M)グループに参加しています。M2Mグループの会合は、村落保健員による母子保健情報の共有に加え、先輩母親が新たに母親となった女性に自身の経験を伝える場としても機能しています。また、貯蓄グループ活動を通じて低利の貸付を利用できるようになった女性たちは、個人またはグループで立ち上げた事業から収入を得ることで、家計状況の改善につなげています。 事業終了後も村落でのM2Mグループの月次会合は継続されており、完全母乳育児や貯蓄活動など、グループで学んだことを実践することで、自身や子ども、家庭の変化を実感する女性が増えています。また、その経験を他の女性へ積極的に共有する姿も見られています。
Pick UP
グループ産前健診が支える妊婦の健康とつながり
キアムボゴ診療所では、「グループ産前健診」を導入し、同じ妊娠期の妊婦をグループ分けし、月に1回、同時に産前健診を受診する機会を設けることで、同じグループメンバー同士が村落から一緒に来院するようになり、産前健診の着実な受診につながっています。
妊婦が互いの悩みを共有する場としても機能しており、メンバー同士の心理社会的サポートを可能にしています。
このグループ産前健診の成功事例は、他地域での展開も期待されます。
支援地からの声
本プロジェクトに関わった方々や受益者の声をご紹介します。
キプタングワニ保健センター長 |ベルナデッタ・ルロリさん
「今日は、私たちにとってとても特別な日です。この日を迎えられたことを心からうれしく思います。保健施設として、またコミュニティの一員として、とても感謝しています。私たちの感謝は、言葉では表現しきれません。この施設は、患者への医療サービスを改善するだけでなく、コミュニティ全体の健康の改善に貢献することになるでしょう。私たちは今日以降、ご支援いただいた施設や機器を責任もって維持管理し、サービスの基準を向上・保持していきます。そして最善を尽くして、患者に必要なサービスを提供することを約束します。皆さんのご支援は、私たちを大いに励ましてくださいました。ご支援くださった方々に豊かな祝福がありますように。」
キプタングワニ保健センターで 出産したメアリーさん
「上の子はナイロビの病院で出産しましたが、その時には、ベッドを他の2人の女性と共有しなくてはいけませんでした。この保健センターは、家からも近いし新しくて、今回のお産は、とても快適でした。産前健診は 8 回受診し、看護師から色々教えてもらいました。」
ギルギル準県の水衛生
コーディネーターのHaron Kurei氏
皆様のご支援はギルギル準県にとって、まさに“ゲーム・チェンジャー”となりました。M2Mプロジェクトは、お母さんたちに様々な学びの機会を提供することを通して彼女たちをエンパワーし、家庭での健康的な生活を促進しています。また医療従事者も自信をもって医療サービスを提供できるようになっています。
皆様のご支援は、お母さんと赤ちゃんたちの生活に、目に見える変化をもたらしています。このようにギルギル準県に “投資”してくださり、心より感謝申し上げます。
<事業で支援したMother to Motherグループの声>
「M2Mグループから多くのことを学びました。特に水衛生と貯蓄に関する知識は、私たちにとってはまさに"ゲームチェンジャー"でした。女性たちの現金収入が増えて、生活に必要なものが買えるようになりました。下痢に苦しむ子どもの数も劇的に減りました。」