第1期事業の学びを進化へ ~点から面へ~

第1期事業と同様に、第2期では特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパンとともに、母子の健康課題を抱えるケニア共和国キリフィ県ガンゼ準県で、母子保健サービスへのアクセス向上、コミュニティにおける栄養・水衛生環境の改善、保健システムマネジメントの強化に取り組みました。

第2期事業ではさらに、地域の診療所と基幹病院の連携による地域包括的なヘルスケアシステムの強化にも取り組みました。

干ばつの影響により、当初の予定から事業期間を9ケ月延長しましたが、2023年11月に無事にキリフィ県政府へ事業の引き渡しを終え、2023年12月に事業を完了することができました。

第1期、第2期、第3期の取り組み

ビジョン

お母さんと子どもたちの健康管理を自立的かつ持続的に行えるコミュニティの実現

 

プロジェクト目標

妊産婦・授乳婦および5歳未満児の健康を改善する

事業連携イメージ
リマ・ラ・ペラ診療所

パナソニック ホールディングス株式会社より、診療所等への電力供給を支援いただき、医療サービスの質が大きく改善されました。
詳細は医療サービスの質向上でご覧ください。
リマ・ラ・ペラ診療所。

事業概要

事業地 ケニア共和国 キリフィ県ガンゼ準県 バンバ地域およびジャリブニ地域
対象人口 77,506人(直接受益者:28,196人 間接受益者:49,310人)
実施期間 2020年4月~2023年3月(3年間)
2023年4月~2023年12月(干ばつの影響により期間を延長)
事業費 18,700万円
パートナー 特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン

支援地域

アフリカ、ケニア、地図
キリフィ県は、ケニア国内でも貧困率が最も高い地域の一つです。干ばつが頻発し、食糧不足と貧困から抜け出せず、子どもの栄養不足も深刻です。保健施設や保健人材の不足、安全で清潔な水へのアクセスが限られており、妊産婦死亡率が高く、マラリアの感染率も高いなどの課題がありました。

バンバ地域・ジャリブニ地域の母子保健課題

保健サービスが
届きにくい

自宅から5km以内に
保健施設がない人

60%越え

医療従事者の不足
技能の不足

1診療所に
看護師

1,2名のみ

安全で清潔な
水へのアクセスが限定的

改善された衛生施設
(トイレ)の使用率

5%

地域住民の知識不足、
干ばつによる水不足、
農業困難

貧困率

46.4

県の
コミットメント不足
(保健予算・連携)

県予算のうち保健・栄養が占める割合

26

バンバ地域・ミドイナ診療所
看護師1名のみ、
出産件数6~10件/月、外来診療600件/月
ジャリブニ地域・ジャリブニ診療所
コミュニティによって着工された産科棟
建設は中断したまま
表1.保健指標(参考値)
項目  ケニア全体※1 バンバ地域※2 ジャリブニ地域※2
人口 5,200万人 4.2 万人 3.4万人
産前健診受診率(4回以上) 57.6% 44.1% 23.3%
専門技能者の介助/保健施設での出産割合 61.2% 77.5% 15.4%
予防接種完遂率 74.9% 75.0% 50.3%
下痢の罹患率 15.2% 27.6%※3 -
マラリア罹患率 8.0% 22.9% 35.7%
改善された水へのアクセス ナイロビ:83.7% 18.7% -

表1は参考データ。様々な情報源から抽出しているため、厳密には比較できない。

※1 Kenya Demographic Health Survey 2014
※2 Kilifi CIDP 2018-2022
※3 World Vision Survey 2013

活動内容と成果 ~第1期と共通~

1. 母子保健サービスへのアクセス向上

診療所の整備
診療所の整備
医療従事者への研修
医療従事者への研修
保健施設から離れた地域への巡回診療
保健施設から離れた地域への巡回診療
サポーティブ・スーパービジョン (医薬品管理などを担当)
サポーティブ・スーパービジョン (医薬品管理などを担当)
Mother to Motherグループの活動 (874人が参加)
Mother to Motherグループの活動 (874人が参加)
地域住民への啓発
地域住民への啓発

産前健診(4回以上)を受けた
妊産婦の割合(%)

61% → 77%

専門技能者の介助/保健施設での
出産割合(%)

82% → 91%

産後健診を産後24時間以内に受診した
母親の割合(%)

75% → 98%

予防接種完遂した子ども
(12~23カ月齢)の割合(%)

21% → 81%

いずれも2023年3月時点

支援事業による母子保健サービスの利用者数増加

 

診療所の来院者数は事業開始後、3.7倍に増加し、母子保健サービスへのアクセスが向上しました。

支援事業による保健サービスの利用状況のグラフ

2. コミュニティにおける栄養・水衛生環境の改善

栄養プログラムのフォローアップ
栄養プログラムのフォローアップ
左:家庭菜園/右:養鶏活動
家庭菜園/養鶏活動
Mother to Motherグループの調理実習
Mother to Motherグループの調理実習
水・衛生啓発
水・衛生啓発

急性栄養不良の5歳未満児の回復率

70% → 56%

6カ月間完全母乳育児を受けた
子どもの割合(%)

63% → 64%

COVID-19ワクチン接種

3,705人

屋外排泄ゼロ

10村中9村達成

いずれも2023年3月時点

※干ばつが2021年以降続いたことで,生活や活動に悪影響が生じたため

3. 保健システムマネジメントの強化

地域のアドボカシー・グループの立ち上げ
地域のアドボカシー・グループの立ち上げ
キリフィ県保健省主催の保健専門家会議
キリフィ県保健省主催の保健専門家会議
母子保健に関する関係者会議
† 母子保健分野の代表的なインパクト指標RMNCAH-N (Reproductive maternal, newborn, child and adolescent health and nutrition) indicators
母子保健†に関する関係者会議
キリフィ県政府へのハンドオーバーセレモニー
キリフィ県政府へのハンドオーバーセレモニー

本事業のアドボカシーによりポリシーや
ガイドラインに反映された提言の数

0件 → 1件

県予算の中で保健・栄養に関する予算の割合

26% → 16%

いずれも2023年3月時点

※2021年以降に干ばつが続き、県による緊急支援があり、保健・栄養に関する予算の調整が行われたため

 

 

3年間の事業で保健施設の設備が整備され、保健サービスが向上しました。さらに、研修・啓発を通じてコミュニティの保健・栄養に関する知識が向上し、住民の行動が変容しました。

活動内容と成果 ~第2期の進化~

1. 医療サービスの質向上 (パナソニック ホールディングス株式会社との連携)

無電化地域であったリマ・ラ・ペラ診療所に太陽光発電システムが設置され、ワクチンを電気冷蔵庫で保管できるようになり、毎月150~200件の予防接種が安定的に行われるようになりました。また、診療所で照明が使用できるようになり、夜間でも妊婦が安心して出産を行うことができるようになりました。
ソーラーパネルが設置された産科棟
ソーラーパネルが設置された産科棟
左:電気冷蔵庫/右:バッテリーとパネルが設置された 蓄電建屋の内部
電気冷蔵庫/バッテリーとパネルが設置された 蓄電建屋の内部
グラフ

支援地からの声

 

パナソニックの太陽光発電システムにより、診療所に明かりがつき感謝しています。

以前は診療所が暗いせいで、分娩や緊急事態にうまく対応してもらえないことがありました。

今は、電気が通ったことにより24時間サービスが受けられます。

人物写真

2. 地域包括的なヘルスケアシステムの強化

保健施設のサービスの質を向上させるため、上位の保健施設および保健省から診療所スタッフへの定期的な連携・指導の体制を整え、さらに基幹病院と3つの診療所のリファラル ・ システムを強化しました。

また、3つの診療所において、医薬品の需要予測や在庫の管理・保管状況が大きく改善されました。

さらに、診療所のみならず、バンバ準県病院にも電力設備を整備し、地域包括的なヘルスケアシステムの強化につながりました。

  • 下位の医療施設では対応しきれない患者を、より上位の医療施設へ紹介・ 搬送する連携システム
サポーティブ・スーパービジョン
サポーティブ・スーパービジョン
バンバ準県病院に供与した医療機器
バンバ準県病院に供与した医療機器
バンバ準県病院での太陽光発電設備
バンバ準県病院での太陽光発電設備

3. 事業の延長により、栄養不良児の継続フォロー・回復へ

ケニアでは2020年後半から長引く干ばつにより、緊急食糧援助が必要になるほど、栄養の問題が深刻化していました。

支援地においても栄養不良の症例数が増加したため、事業を9か月延長し、子どもの栄養モニタリングを継続して行い、栄養不良と判断された子どもには補完食の提供や必要なフォローアップが行われました。

延長期間中、379名の子どもが栄養不良と判断され、そのうち114名が回復しました。

 

政府による緊急食糧援助の際には、本事業での村落保健員による訪問を通じて得られた世帯データが活用され、必要な人々に食糧、物資が届けられました。

栄養プログラムのフォローアップ
栄養プログラムのフォローアップ

支援地からの声

MarereのMother to Motherグループメンバーの女性

 

かつては生まれて2週間の子どもにも固形の食材を与えていましたが、プロジェクトに参加して、その習慣を変えるようになりました。一度の授乳は少なくとも片方5分ずつ続け、6カ月までは母乳だけで育てるようにしています。そして6 カ月後から離乳食を作り、朝と夜に与えています。子どもたちは以前に比べて病気にかかることが少なくなってきたようです。

  • 各地域で母親同士のグループを結成し、母子保健・栄養などに関して教え合う機能(ピア教育)。

ジャリブニ診療所の看護師

ジャリブニ診療所の看護師
私たちの診療所に新しい産科棟を建設し、設備を整えてくださったワールド・ビジョンに感謝します。私はそこで自信をもって患者さんの診療にあたっています。設置された機器のおかげで、分娩中の合併症による問題を早く見つけて対処できるようになりました。以前はベッドが 1 台しかなかったので、このような対応もあまりできていなかったのです。

イブラヒム・ジュマ・キスタオ氏(リマ・ラ・ペラ地区のアドボカシーグループの代表)

人物写真

私は妻と7人の子どもと共に、リマ・ラ・ペラ地区に住んでいます。

私の妻はMother to Motherプロジェクトで実施しているMother to Motherグループに参加しています。彼女はグループに参加し始めてから、私が確認しなくても、一番小さい子(生後 18 カ月)に予防接種を受けさせるようになりました。他の母親たちが参加しているグループで、子どもの栄養や成長、予防接種の重要性について学んだと話していました。また、家族計画についても正確な情報を得ており、「家族計画は子どもを持てなくすることだ」という誤った噂を信じなくなりました。そして、私の妻はグループを通じて養鶏の研修を受け、10羽の鶏を提供いただきました。

私自身は2021年1月に、コミュニティ内でアドボカシー活動を行うグループが形成されると聞いて、そのグループのリーダーになりました。私の役割はコミュニティ内で母子保健サービスの重要性と診療所を利用する意識を高めることです。コミュニティからの意見を保健施設に伝え、それが反映される形で診療所での待ち時間を減らす取り組みが行われました。今後も診療所の課題を解決するために、地方政府に対してコミュニティの意見を伝え、予算を獲得していくことに取り組んでいきます。

ジェイコブ・ムワンギ氏(ガンゼ準県の医療検査コーディネーター)

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Mother to Motherプロジェクトが開始される前、ガンゼ準県には臨床検査室が3カ所しかなく、また、検査技師は5人しかいませんでした。施設の機材や備品も限られており、このような体制で地域のすべての妊婦の産前検診を行うことには大きな課題がありました。

事業から顕微鏡やその他の検査機器を提供され、より高度な医療サービスを提供できるようになりました。ご支援にとても感謝しています。

ムガラ・ムヴリア氏 (ガンゼ準県の栄養コーディネーター) 

人物写真

私はガンゼ準県の栄養コーディネーターになって3年になります。準県で行われている栄養サービスの実施を全体的に監督し、活動の調整業務や栄養のアドボカシーを担っています。

2020年7月からMother to Motherプロジェクトに携わるようになり、栄養関連の活動のプランニング、実施およびモニタリングを担当しています。ジャリブニ地区やバンバ地区では、住民たちの間に大きな変化がみられるようになりました。 栄養不良の子どもたちの栄養改善やBFCIに携わる人材育成、家庭菜園や家畜飼育などの研修は多くの人々の生活にポジティブな影響をもたらし、精神的な支えにもなりました。 Mother to Motherプロジェクトの開始により、私たちの栄養プログラムも大きく向上しました。

  • Baby friendly community initiative (BFCI): コミュニティの健康と栄養状態を改善することを目的とした健康・栄養改善プログラム。 特に母乳育児を推奨するため、出産後もコミュニティにおいて授乳支援を提供する内容が含まれており、多くの開発途上国での母子保健活動に用いられている。

活動報告書