すべての人にやさしく、正しい薬の情報を届けたい~医薬品パッケージのユニバーサルデザインに挑戦~

2024年8月6日公開

 

 

ドラッグストアで購入したOTC薬(薬局やドラッグストアで購入できる医薬品)の用量・用法がどこに書いてあるのかわかりにくい、文字が小さくて読みづらいと感じたことはありませんか?高齢化が進む中、多くの方々が「見え方」に課題を抱えており、さらに日本に滞在する外国の方々も増えています。薬の選び方や服用方法がわからず困っている方々が多いのではないでしょうか。

 

そんな皆様の困りごとを解決するために、SHIONOGIグループ3社(シオノギヘルスケア、シオノギファーマ、塩野義製薬)は合同プロジェクトを立ち上げ、医薬品パッケージの全面リニューアルに挑戦しました。2020年4月、解熱鎮痛剤「セデス」シリーズから始まり、各商品のパッケージにユニバーサルデザインを展開しています。

 

この取り組みに関わるシオノギヘルスケアの吉田さん、釜口さん、楠本さん、村上さんにその想いを伺いました。

SHCメンバー

「情報の壁」による健康リスクをなくしたい!

―なぜ、医薬品パッケージのユニバーサルデザインに取り組むことになったのでしょうか。

吉田:塩野義製薬の社会貢献活動の一つ「コミュニケーションバリアフリープロジェクト(以下、CBF-PJ)」[ⅰ]から、シオノギヘルスケアに「視覚障がい者のためのパッケージづくりに取り組めないだろうか」と提案がありました。それが、この取り組みの始まりです。

 

私たちシオノギヘルスケアでは、包括的なアプローチを重視しています。視覚障がいをお持ちの方々だけでなく、日本語を理解しづらい外国の方々も言葉の壁に直面しており、この言葉の壁が健康上のリスクを引き起こす可能性があると認識しています。最悪の場合、命に係わることもあります。

 

私たちを取り巻く環境は日々変化し、働き方、価値観までも影響を及ぼしています。これらの新たな日常、生活様式において「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当する」健康管理、つまりセルフケアの重要性がますます高まっています。お客様自身がOTC医薬品を購入する機会が増えている中、誰もが自身で医薬品の情報を得られることが大事だと考えました。

ー今までのパッケージに対してお客様からどのようなご意見がありましたか。

吉田:取り組みに先立ち、お客様のニーズを知るため、OTC医薬品の購入時に感じる不便さについてリサーチしました。すると、視覚障がいをお持ちの方々だけでなく、一般ユーザーからも「用法・用量がどこに書いているのかわかりにくい」との声が寄せられました。また、外国の方々からは「どの薬を買えばいいのかわからない」や「薬の箱に書かれている説明がわかりにくい」などのご意見をいただきました。

 

多くの方が何らかの「情報の壁」に直面しているなら、それが健康リスクにつながるかもしれません。そういった想いから、年齢や国籍、障がいの有無に関わらず「すべての人に薬の情報をしっかりお届けしたい」と考え、ユニバーサルなパッケージづくりに着手しました。

[ⅰ] 「聴覚などに障がいのある患者さまが医薬品にアクセスする際のコミュニケーションの壁(バリア)をなくす」をビジョンに掲げ、2015年10月発足したプロジェクト。

https://www.shionogi.com/jp/ja/sustainability/society/social-contribution-activities/cbf.html

3つの工夫が施されたユニバーサルデザインのパッケージ

―リニューアルのポイントについて教えてください。

吉田:ユニバーサルなパッケージづくりの第1弾として、解熱鎮痛薬「セデス」シリーズ3製品のパッケージリニューアルに取り組みました。私たちの新しいパッケージデザインには、使い勝手を考えた3つの工夫があります。

 

まず、錠剤を取り出しやすいように、外箱を前から開けられるデザインに変更しました。蓋を開けると、大きな文字で書かれた用法・用量がすぐに目に入るようにしています。箱のサイズはそのままに、必要な情報を大きく見やすくしました。

ポイント1
次に、私たちはアクセシブルコードを導入しました。スマートフォンでQRコードをスキャンするだけで、購入者の方の言語で薬の説明が表示されます。さらに、選んだ言語での自動音声ガイドも聞けるようになっており、現在は7つの言語に対応しています。箱には触ってQRコードの位置がわかるデボス加工も施してあります。
ポイント2
最後に、日本語が読めない方やお子様でも薬の効果を理解できるように、外箱にはわかりやすいピクトグラムを表示しました。もちろん、製品名や情報も英語で記載しています。
ポイント3

命にかかわる医薬品で世界初のアクセシブルコード採用

―アクセシブルコードについて、詳しく教えていただけますか。

吉田:アクセシブルコードは、言葉の壁を超えるための小さな一歩です。このコードは、多言語表示サービス「QR Translator(QRT)」の技術を使って、だれもが簡単に情報を手に入れられるように作られました。そして、このコードには特別な工夫が施されていて、触れるだけでその存在を感じられるように段差のついたデボス加工がされています。

 

この素晴らしいアイデアは、大阪市にあるエクスポート・ジャパンという会社と共に生まれました。CBF-PJのメンバーが2018年に神戸で開催されたイベントでエクスポート・ジャパンと出会い、ユニバーサルなパッケージにQRコードを印刷する際の課題について意見を交換しました。印刷された場所に目印をつけることを検討し、指で触れたときに認知しやすく、流通中に破損しない形状として、凹みをつけることに決めました。このような経緯を経て、CBF-PJはアクセシブルコードの実用化に寄与しました。

―QRTとデボス加工を合わせた「アクセシブルコード」を医薬品パッケージに採用したのはセデスが世界初なのですね。

吉田:はい、医薬品パッケージでの採用は世界初です。医薬品は命に関わるもの重要なものですから、非常に意義深いことだと思っています。

プロジェクトスタート前のリサーチで、スマートフォンを使ったことのない視覚障がい者も、QRコードの読み取り方のコツを学べばほとんどの人がスマートフォンを使えることがわかりました。デボス加工によりQRコードの位置を認識できるため、探し回る必要がなく、スムーズに読み取れることも確認できました。

 

また、社内では、どの言語で情報が取得されているかをデータで追跡しており、その結果、日本語が約 60%、外国語が約40%と、外国の方にも役立っていることがわかりました。1 日あたりのビュー数は400~ 500件で、多くの方がこのサービスを利用し、助けられていると感じています。

葛藤しながらも、3社で協力して課題をクリア

―商品化するまでには、苦労もあったのではないでしょうか。

吉田:セデスはシオノギヘルスケアの製品ラインナップの中でもお客様の認知が高く、多くの方に愛されている商品です。そのため、パッケージデザインの変更は慎重に行う必要があり、新しいデザインがお客様に受け入れられるかどうか、実際に試してみなければ分からない部分がありました。

 

SHIONOGIグループ内では、塩野義製薬のCBF-PJが視覚障がい者の方々への深い配慮を持ち、シオノギヘルスケアは顧客ニーズを最優先に考え、シオノギファーマは生産技術部門が専門知識を活かしています。それぞれの部門が持つ独自の強みと専門性を生かすことで、ユニバーサルデザインのパッケージは形作られました。

―どのように乗り越えていったのでしょうか。

吉田:プルオープンの部分や開封ミシン目の止め部分が破損しないかなど製造上のハードルがありましたが、あきらめずテストを繰り返して高品質と安定生産に成功しました。経済上の課題もクリアできました。

村上:技術的な面から言うと、パッケージの表面に凹凸をつけるのは「邪道」かもしれませんね。医薬品の包装は、自動化ラインが進んでいるため、シンプルかつ高速に製造できるよう設計されています。そのため、表面に凹凸をつけたり前面に開封口を設けたりすることは、今までの常識からするとかなりのチャレンジでした。初めの頃は、「安定した稼働を考えると、パッケージの形を変えたくない」という雰囲気がありましたが、シオノギファーマと協力しながら、前向きに取り組んできました。

改良のおかげで、特に高齢のお客様からは、「前開きにすると大きな文字で説明が書かれていて、とてもわかりやすい」というお声をいただいています。お客様からの温かい評価にとても嬉しく思います。私自身もユーザーとしてパッケージの蓋を開けたとき、必要な情報がすぐにわかるのがとても助かると感じています。

世の中が良くなるために、既成概念を打破し不屈の精神で

―さまざまな賞を受賞されました。2021 年のグッドデザイン賞受賞にはどのような感想を持たれましたか。

吉田:グッドデザイン賞は選定基準がデザインの美しさだけではなく、使いやすさやブランドの個性、店頭でのPOPとしての役割等も評価されました。意図していた「世の中が良くなっていくために、医薬品の情報をしっかりと伝える」という点を評価していただいたと思います。我々の思いがしっかりと伝わってよかったなと思っています。

―社長賞も受賞されましたね。

吉田:SHIONOGIグループには、「コンプライアンスの徹底」、「既成概念の打破による進化」「不屈の精神による貫徹」「多様性の尊重」「社会への貢献と共存」の5つのvalueがあります。ユニバーサルデザインのパッケージは潜在的なニーズだったので「既成概念の打破」をしたからこそ実現できました。「不屈の精神」は、全く妥協しなかったこと。「多様性の尊重」はまさにユニバーサルデザインそのもの。販売できるパッケージになったことが「社会への貢献」だと思います。valueを広く体現できたからこそ、いただけた賞だと思います。

「こども頭痛プロジェクト」子どもたちの言葉の壁に気づいて!

―今後は、何に取り組んでいかれますか?

釜口:セデス以外の製品にもユニバーサルデザインパッケージの展開をしています。リンデロンシリーズやとパイロンPL、さらに、シナール、健康食品などにもアクセシブルコードを導入し、今後も私たちの商品にはユニバーサルデザインの概念を積極的に取り入れていく予定です。

楠本:2024年4月に「こども頭痛プロジェクト」というウェブサイトを立ち上げました。セデスとしての最新の取り組みです。子どもの約4割が頭痛を経験しているにも関わらず、保護者や周りの大人にうまく伝えられず、我慢しているお子さんが多い現実があります。そこで、セデスのブランドを通じて、正しい情報を伝えていこうという想いから、このプロジェクトを始めました。

セデスのユニバーサルパッケージの考え方と根底は一緒で、お子さんたちにも「言葉の壁」があると感じています。川口春奈さんをアンバサダーに迎え、プロジェクトを広く認知していただけるよう努めたいと思っています。親子のコミュニケーションが増え、子どもの頭痛に対する理解が深まることを願っています。

 

さらに、お子さんが読みやすいコンテンツを掲載して、情報がしっかりと伝わるように工夫しています。ネットだけで完結するものではなく、「情報をきっかけに理解を深めてみませんか?」というコンセプトのもと、ワークショップなども開催していきたいと考えています。

すべての人に優しく、正しく、楽しく

―プロジェクトに携わるうえで、核となっていた思いをお聞かせください。

吉田:シオノギヘルスケアは「すべての人に優しく、正しく、楽しくセルフケアを」というビジネスコンセプトを大切にしています。ユニバーサルデザインのパッケージには「すべての人に優しく、正しく」という想いが込められています。また、「楽しい」コンテンツで情報を伝えていくことも大事にしています。シオノギヘルスケアはセルフケアをより身近に、正しく実践できるよう、ヘルスケアの当たり前を変え続けていきたいと思っております。

 

※本記事掲載の情報は、取材当時のものです。

参照:「こども頭痛プロジェクト」https://www.shionogi-hc.co.jp/kodomo-headache.html

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