2026/07/24

高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)に対するバロキサビルの有効性と耐性関連変異を評価

―― ヒト相当の薬物曝露条件下におけるサルモデル解析 ――

 

発表のポイント

  • 高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染カニクイザルモデルを用いて、抗インフルエンザ薬バロキサビル マルボキシルの有効性および耐性関連変異の出現を評価しました。
  • バロキサビル投与により、呼吸器でのウイルス増殖が抑制され、確認された耐性関連変異は既報のものに限られ、その出現は限定的でした。
  • 本成果は、高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症に対する治療戦略の構築に貢献することが期待されます。
バロキサビル投与により高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスの増殖を抑制

バロキサビル投与により高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスの増殖を抑制

 

 

発表内容

東京大学国際高等研究所新世代感染症センター河岡義裕機構長らのグループは、高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染カニクイザルモデルを用いて、抗インフルエンザ薬バロキサビル マルボキシル※1(以下「バロキサビル」)の有効性および耐性関連変異の出現について解析しました。

2013年に中国で低病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒトへの感染が初めて報告されて以降、1500例を超えるヒト感染例が確認され、致死率は41%に達しました。その後、2016年末には高病原性を獲得したA(H7N9)ウイルスが出現し、家禽での感染拡大に伴いヒトでの感染例も増加しました。2019年以降、ヒトへの感染は報告されていませんが、その後も家禽での流行が報告されており、公衆衛生上のリスクとなっています。

現在、インフルエンザ治療にはオセルタミビルが広く使用されていますが、高病原性A(H7N9)ウイルス感染患者においてオセルタミビルに対する耐性関連変異が報告されています。そのため、異なる作用機序を有する治療選択肢の拡充が求められています。

バロキサビルは、インフルエンザウイルスのRNA合成を阻害する経口抗ウイルス薬です。これまでにも、高病原性A(H7N9)ウイルスに対する有効性がサルモデルで報告されていましたが、サルではバロキサビル酸※2の血中濃度がヒトより速やかに低下することから、本研究では過去のデータを基にヒトでの薬物動態を再現した条件下(図1)で評価を行いました。

図1 ヒトでのバロキサビル酸の薬物曝露を再現するために設定したサルでの投与条件

図1 ヒトでのバロキサビル酸の薬物曝露を再現するために設定したサルでの投与条件

 

 

サルではバロキサビル酸の血中濃度がヒトより速やかに低下することから、ヒトでの薬物曝露を再現するよう投与条件を設定した。Aはヒト単回投与投与(低用量)、Bはヒト二回投与(高用量)に相当する薬物曝露条件を示す。赤色はヒトにおける実測値、緑色は過去のデータに基づくサルにおけるシミュレーション結果、青色は本研究で得られたサルの実測値を示す。

 

高病原性A(H7N9)ウイルスを感染させたカニクイザルに対し、ヒトへの単回投与を再現した量(低用量)およびヒトへの二回投与を再現した量(高用量)でバロキサビルを投与したところ、比較対象のオセルタミビル群および非投与群と比較して呼吸器中のウイルス量が低下しました(図2)。さらに耐性関連変異ウイルスも出現しましたが、本研究で確認された変異は既知のものに限られており、出現は限定的でした(表)。

図2 高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染サルにおける バロキサビル投与後の鼻腔内ウイルス量

図2 高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染サルにおける
バロキサビル投与後の鼻腔内ウイルス量

 

 

高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスを感染させたカニクイザルに対し、感染4時間後からバロキサビルまたはオセルタミビルを投与した。左図は鼻腔ぬぐい液中のウイルス量の推移、右図はウイルス量の時間曲線下面積(AUC)を示す。ピンク色は薬剤投与期間。水色はヒト単回投与相当、濃青色はヒト2回投与相当のバロキサビル投与群、緑色はオセルタミビル投与群、灰色は非投与群。データは平均値 ± 標準誤差で示す。アスタリスクは統計学的有意差を示す(*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001)。

表 本研究で検出されたPA変異とバロキサビル感受性

表 本研究で検出されたPA変異とバロキサビル感受性

 

 

高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染サルにおいて、バロキサビル投与後に出現したPA変異と薬剤感受性の変化を示す。本研究で検出されたバロキサビル低感受性関連変異は既報の変異に限られ、新規の耐性関連変異は認められなかった。

 

以上の結果から、バロキサビルは、高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスに対する有望な治療選択肢となる可能性が示されました。本研究成果は、将来発生しうる高病原性鳥インフルエンザウイルス感染症の流行への備えとして、抗ウイルス薬を用いた治療戦略の確立に貢献することが期待されます。

本研究成果は6月25日、英国科学誌「eBioMedicine」(オンライン版)に公表されました。

なお、本研究で実施したカニクイザルを用いた動物実験は、株式会社新日本科学の動物実験委員会の承認を受け(承認番号:IACUC814-010)、AAALAC International(国際的な実験動物福祉認証機関)の認証を受けた施設において、動物福祉に関する施設内規程に従って実施しました。

 

発表者                                  

東京大学 国際高等研究所 新世代感染症センター

河岡 義裕 特任教授/機構長

兼:国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 国際ウイルス感染症研究センター センター長

                    東京大学 医科学研究所 ウイルス感染部門 特任教授

 

論文情報                                 

雑誌名:eBioMedicine(2026年6月25日オンライン版)

題 名: Effectiveness of baloxavir marboxil in nonhuman primates infected with highly pathogenic avian influenza A(H7N9) virus

著者名: Kiyoko Iwatsuki-Horimoto, Masaki Imai, Toru Ishibashi, Shinya Yamada, Maki Kiso, Mutsumi Ito, Atsuhiro Yasuhara, Seiya Yamayoshi, Yoshihiro Kawaoka*

                 *: 責任著者

DOI:     10.1016/j.ebiom.2026.106350.

URL:    https://doi.org/10.1016/j.ebiom.2026.106350

 

研究助成

本研究は、塩野義製薬株式会社からの委託により、東京大学国際高等研究所新世代感染症センター、国立健康危機管理研究機構国立国際医療研究所、東京大学医科学研究所、塩野義製薬が共同で実施しました。塩野義製薬は、バロキサビルおよびオセルタミビルの提供、ならびに血漿中バロキサビル酸濃度の解析を担当しました。また、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症研究基盤創生事業(中国拠点を基軸とした新興・再興および輸入感染症制御に向けた基盤研究)、AMED SCARDAワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業(ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群 東京フラッグシップキャンパス(東京大学国際高等研究所新世代感染症センター))の一環として行われました。

 

用語解説

※1:バロキサビル マルボキシル

インフルエンザウイルスの増殖に必要なウイルスRNA合成を阻害する経口抗インフルエンザ薬。

 

※2:バロキサビル酸

バロキサビル マルボキシルが体内で代謝されて生じる活性体であり、インフルエンザウイルスの増殖に必要なウイルスRNA合成を阻害する。

 

問合せ先

〈研究に関する問合せ〉

東京大学 国際高等研究所 新世代感染症センター

    河岡 義裕(かわおか よしひろ) 特任教授/機構長

兼:国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 国際ウイルス感染症研究センター センター長

        東京大学 医科学研究所 ウイルス感染部門 特任教授

https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/virology/index.html

 

〈報道に関する問合せ〉

東京大学 国際高等研究所 新世代感染症センター(広報)
https://www.utopia.u-tokyo.ac.jp/contact

 

東京大学 医科学研究所 プロジェクトコーディネーター室(広報)

https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/

 

国立健康危機管理研究機構 危機管理・運営局 広報管理部

https://www.jihs.go.jp/index.html

 

塩野義製薬株式会社 コーポレートコミュニケーション部

https://www.shionogi.com/jp/