リスクマネジメント
VUCAの時代と称されるように、社会の変革のスピードが増す中で事業の不確実性は高まっており、STS2030で目指すその変革過程や企業活動において、内外に存在する様々なリスクを適切に管理することは不可欠となっています。2022年度は、「SHIONOGIグループ リスクマネジメントポリシー」を改定し、攻めと守りの両方のリスクを戦略的にマネジメントすることで、リスクカルチャーの醸成とレジリエンスのさらなる強化を目指しています。
リスクマネジメント体制の推進
SHIONOGIは、事業機会の創出とリスクの回避ならびに低減など、ビジネスリスクの適切なマネジメントを行うとともに、グループ全体のリスクを統括する全社リスクマネジメントEnterprise Risk Management、以下ERM)体制を経営戦略・経営基盤の重要な仕組みとし、その推進を図っています。各組織が意思決定と業務執行に関わるリスクを認識して主体的に管理し、対応策を講じることを基本としています。特に経営に影響を及ぼすような重要リスクに対する対応方針については経営会議および取締役会にて審議・決定し、主管組織が関連組織と協働して対応方針に基づいた対策を実施しています。また、内部監査部門である内部統制部は、「内部統制システムの整備・運用に関する基本方針」に基づき、独立した立場で検証を行っています。
■リスクマネジメント体制


主な事業等のリスク
特にSHIONOGIの業績及び経営に影響を及ぼす可能性のある重要なリスクと対応は次の通りです。
リスク項目 | 概要 | 対応 |
---|---|---|
制度・行政に関するリスク | ・薬価基準の改定を含む薬剤費抑制策、医療保険制度の改革、COVID-19関連規制・制度など行政施策の動向による影響 ・医薬品の開発、製造などに関連する国内外の規制の厳格化による追加的な費用の発生や製品が規制に適合しなくなる事態の発生 |
・革新的な新薬などの社会が許容できる価格での提供 ・創出したイノベーションの価値を示すエビデンスの構築 ・業界団体活動を通じたイノベーション価値を訴求する取り組み ・薬価制度改革や各種規制などの政策に関わる最新情報の入手と変化への迅速かつ適切な対処 |
副作用等に関するリスク | ・医薬品の市販後の予期せぬ副作用等による販売中止、製品回収など |
・副作用等の情報を適切に収集・分析・評価・報告する体制の強化 ・副作用等の拡大や被害の抑制につながる全従業員教育の実施 ・副作用等に基づく医療被害補償の保険加入 |
研究開発に関するリスク | ・医薬品の研究開発における多大な経営資源の投入および新薬が売上となるまでの様々な不確実性の存在 ・COVID-19の蔓延を解決するため、世界的な研究開発期間の大幅な短縮 |
・新型コロナウイルス治療薬およびワクチンをはじめとした、注力する創薬プログラムや開発化合物の明確化と経営資源の集中的投下 ・疾患領域の強みと低分子創薬の基盤を活かした効率的な創薬研究の展開 ・グローバルトップレベルの研究開発の生産性維持・向上 ・創薬成功確率の向上に向けた低分子以外の新たな創薬モダリティ(中分子医薬や抗体医薬など)の創薬技術の構築 ・アライアンスの活用によるペプチド医療、ワクチンなどの技術の獲得および外部との協創に必要な経営資源の投入 ・研究開発データに基づく厳格な見極めと開発可否判断、化合物の導入・導出による研究開発の加速 |
特定製品への依存に関するリスク | ・主力品目における知的財産権の満了およびそれに伴う後発品の発売、薬価改定や競合品の出現、流行の規模、その他予期せぬ事情による売上減少や販売中止 | ・薬価制度や競合状況の最新情報に基づく製品群の市場投入や契約見直し ・イノベーション創出の重要性と価値の訴求を図る業界団体での連携および意見表明など ・医薬品中心から、医薬品を含むヘルスケアサービス全般を提供する事業変革の推進 |
他社とのパートナーシップに関するリスク | ・研究、開発、製造、販売での共同研究、共同開発、技術導出入、共同販売などの他社との提携における契約の変更・解消、提携の遅延または停滞など | ・多方面からの分析・評価を行った提携可否の判断 ・想定されるリスクを織り込んだ契約の締結およびリスク低減に向けた継続的な協議と合意形成 ・提携先とのガバナンス体制構築と維持、提携におけるリスク把握と解決策の策定 |
サプライチェーンに関するリスク | ・自然災害やパンデミックなどの要因、あるいは地政学的影響により原材料や製品の供給が停止した場合に、医薬品の安定供給に重大な影響を及ぼす可能性 | ・保有在庫量の基準に基づく在庫管理 ・地政学的リスクの高い品目のセカンドベンダーの選定 ・一部製品に含有される原薬の国内製造体制の構築 ・優先して供給すべきBCP品目の設定および定期的な見直し |
品質に関するリスク | 設備由来によって、異物が混入し、品質不良やロット不適が発生するなどの品質問題が発生した場合、 ・製品由来の風評被害 ・承認書と製造実態の不整合による回収、品質不良、行政処分 ・データ完全性の不備による回収や当局査察での重大な指摘 ・企業の信頼性低下 |
・シオノギグループ品質ポリシーの制定 ・SHIONOGI Global Quality Weekの開催による品質の重要性の浸透 ・Quality Cultureの醸成活動 ・当局査察への対応 |
ITセキュリティ・ 情報管理に関するリスク | 各種ITシステム(アウトソーシング先を含む)を利用し、かつ個人情報を含む多くの機密情報を保有している中で、従業員およびアウトソーシング企業などの不注意または故意による行為、あるいは悪意を持った第三者によるサイバー攻撃やウイルスの感染などによるシステムの停止およびセキュリティ上の問題が発生した場合、 ・事業活動、経営成績および財政状態、信用に重大な影響を及ぼす可能性 ・損害賠償請求などの法的な損害や事後対応に係る費用などが発生する可能性 |
・情報管理を統括する責任者として情報の保全および情報セキュリティの確保に関する方針を定めるCIO※1、データおよび文書類の利用ならびに管理を統制する責任者としてCDO※2、IT運営の責任者としてGlobal Head of ITをそれぞれ任命し、法規制やガイドラインを踏まえた情報管理に関する規程などを整備 ・個人情報に関する、グローバルプライバシーポリシーを策定 ・情報管理や個人情報の重要性に対する認識および個人情報保護に関する法令遵守の必要性を従業員に周知徹底 ・サイバー攻撃や大規模災害などの危機事象発生に備えたIT-BCP体制構築のプロジェクトの推進 ・ITインフラの整備、情報セキュリティ基盤の強化・運用の改善 ・台湾拠点におけるサイバー攻撃の実例から、再発防止およびグローバル各拠点での未然防止に向けた対策としてグローバルセキュリティアセスメントの結果に基づくグループ全体でのネットワーク体制の抜本的見直しなどの対策の実施 |
人材確保・育成に関するリスク | ・雇用情勢、ESG経営への要請の高まり、ポストコロナ時代を見据えた働き方などの環境変化を好機と捉え、社会課題の解決を担う人材、HaaS企業として持続的に成長していくSHIONOGIのTransformationを具現化できる人材、全社視点で論理的に考えてグループの高効率経営を支える人材を十分に確保・育成できないことによる影響 | ・多様な価値観・専門性を持った人材の確保・育成 ・ダイバーシティ&インクルージョンの実践 ・自己成長の機会や、個の原動力を支える制度・仕組みの強化 ・SHIONOGI Group Vision 実現に資する人材育成や育成を支えるマネジャー教育の実施 ・STS2030で目指すHaaS企業の実現に資するIT/デジタル技術活用による業務変革/価値創造トレーニング ・社長塾やグループ会社役員への登用による経営幹部育成 |
環境・安全に関するリスク | ・医薬品の研究、製造過程で使用・生成する物質の人体や生態系への影響 ・環境汚染やその危害などの顕在化による、施設の一時閉鎖や対策・復旧、法的責任の発生 |
・環境・安全衛生の統括管理体制および管理規定の設定 ・法令遵守およびより厳しい自主管理基準・目標の策定、対応・対策の実行およびそれらの適切性の確認 |
自然災害やパンデミックに関するリスク | ・大地震や気候変動に伴う暴風雨、洪水などの自然災害および不慮の事故、パンデミックの発生などによる事業所の閉鎖、工場の操業停止、それに伴う製品供給の遅延・停止 | ・BCP策定と訓練実施や計画の見直し ・サプライヤー監査による環境・安全状況などの確認と改善要求 ・製品の安定供給のための原材料調達先分散の検討 |
知的財産に関するリスク | ・創製した医薬品の知的財産が十分に保護できない恐れや第三者の知的財産権の侵害 ・創製した医薬品の知的財産権満了および後発品の発売による影響 |
・知的財産権の適切な管理体制の強化 ・事業活動における侵害予防調査および導出入における知財デューデリジェンス実施による侵害予防の体制強化 |
訴訟に関するリスク | ・医薬品の副作用、製造物責任、労務問題、公正取引などに関して訴訟を提起される可能性 | ・リスク低減に必要な社内体制の強化 ・弁護士や弁理士など専門家との協議による適切な対応 |
金融市場および為替動向に関するリスク | ・金融市場や為替市場の変動による年金資産の運用への影響、海外提携先からのロイヤリティー収入への影響など | ・年金資産の複数の運用商品による分散投資 ・金利・為替変動リスクに対するデリバティブ取引の活用 |
コンプライアンスに関するリスク | ・事業活動の遂行にあたって、薬事規制や製造物責任などの様々な法規制の適用を受けるだけでなく、生命に直結する医薬品産業として社会から極めて高い倫理観を求められます。そのため、法令違反だけでなく、社会の要請に反するような行動が、ステークホルダーのSHIONOGIに対する信頼の失墜や低下を招き、結果として業績に影響を与える可能性 | ・事業活動の中でコンプライアンスの遵守を常に最優先事項として定め、四半期ごとの社長メッセージの中でコンプライアンスについて言及 ・従業員のコンプライアンス意識の強化 ・シオノギグループ行動憲章の項目としてコンプライアンスを定め、コンプライアンスポリシーを制定 ・コンプライアンス委員会、内部通報窓口(社内、社外)を設置 ・コンプライアンス委員会は、代表取締役会長兼社長をコンプライアンス委員長として年4回開催し、コンプライアンス上の課題を協議し、必要な教育(ハラスメント・情報漏洩・贈収賄防止など)や取り組みを実施 |
COVID-19拡大 | ・今後、さらなる感染拡大に伴い事業活動が制限された場合、原材料の調達などのサ プライチェーンの停止・停滞により、医薬品の安定供給に重大な影響を及ぼす可能性 ・研究・臨床試験の遅延やMRによる情報提供活動の制限により、新製品などの承認・上市や市場浸透、医薬品の安全性情報や適正使用情報の収集・提供に重大な影響を及ぼす可能性 |
・感染拡大防止に向けた出社率抑制 ・生産性を維持・向上するために必要な新しい働き方への取り組み ・製薬企業として社会的責任を果たすため、SHIONOGIの医薬品の安定供給を最優先とした対応を行うことを目的に、これまでに想定していたパンデミックBCPの活用により、事業継続を推進 ・コロナ禍における販売活動として、厚生労働省による販売情報提供活動に関するガイドラインの発出下で情報提供の仕組みや内容を変更 |
※ 1 CIO:Chief Information Officer
※ 2 CDO:Chief Data Officer
上記以外にも、事業活動に関連した様々なリスクがあり、ここに記載されたものがSHIONOGIのすべてのリスクではありません。
なお、文中の将来に関する事項及びリスクは、当連結会計年度末現在において判断したものです。これらリスクの詳細は有価証券報告書を参照ください。
クライシスマネジメント/インシデントマネジメント
「SHIONOGIグループ リスクマネジメントポリシー」の改定に伴い、危機管理関連の規程類を改定し、事業継続計画(BCP)を含む管理体制の整備を行いました。クライシスが発生した場合には、人命の尊重、地域社会への配慮・貢献および企業価値毀損の抑制を主眼とした管理を推進し、速やかな対処を進めることで当該クライシスの迅速な克服に努めます。
2021年度より IT-BCP構築に取り組んでおり、復旧優先度の高い重要システムの特定を行うとともに、サイバーインシデント発生時のIT復旧の手順を定めた規則を改定しました。 2022年度は、経営層を対象に南海トラフ地震を想定したBCP訓練を実施し、体制や手順の検証、関連規程類の実効性検証を実施します。
さらには、インシデントを「SHIONOGIの行為・不作為による負の事象」と定義し、経営に影響を及ぼす可能性がある事象が発生した際、速やかに危機管理責任者、担当執行役員、 CRO、CEOへと情報が伝達され、インシデント発生部門や事業所の責任者と連携し、対応する体制を整備しています。こうした仕組みを実現するための組織風土づくりとして、ネガティブな情報ほど迅速にレポートする“Bad News First” の文化醸成に向け、全社に展開するコンプライアンス施策との連携を行っています。
危機管理体制
SHIONOGIでは、危機管理の基本的な方針である「危機管理規則」に基づき、総合的な危機管理体制を構築するとともに、各種対策要綱やマニュアルを整備し、緊急時に迅速に対応できる体制を整えています。なかでも、甚大な自然災害発生時における従業員の安否確認を危機管理の最優先事項と考え、定期的な安否確認訓練を実施するとともに災害備蓄品の棚卸、中央および事業所災害対策本部体制の見直しを行っています。
事業継続計画(BCP)
危機発生時においては、医療機関への安定的な製品供給やサービスの提供を通じて社会的責任を遂行するために、バリューチェーンごとに事業継続計画(BCP)を策定しています。また、定期的に経営層や各部門を対象とした訓練を実施することで、事業継続に向けた体制構築を図っています。
特に医薬品の安定供給においては、2018年度のシオノギファーマの設立に伴い、BCP体制を見直し、事業継続マネジメントシステムを構築・運用しています。
事業継続マネジメントシステム体系図

COVID-19 を踏まえ、さらなる強靭な体制を整備
SHIONOGIが目指すのは、感染症を主領域とする創薬型製薬企業として感染症に対峙しつつ、パンデミックをはじめとするあらゆる脅威に対し、レジリエンスがある会社です。今回、COVID-19への対応として事業を継続する中で明確となった様々な課題に対して対策を講じ、事業継続における万全な体制を整えることで、社会活動・経済活動の持続可能性(サステイナビリティ)のバランスを取りながらステークホルダーに対し責任を果たしていきます。
具体的には、更なる感染拡大に伴い事業活動が制限された場合、原材料の調達などのサプライチェーンの停止・停滞による医薬品の安定供給や、新製品等の承認・上市や市場浸透、医薬品の安全性情報や適正使用情報の収集・提供に重大な影響を及ぼす可能性があるため、これらのリスクの低減策として、感染拡大防止に向けた出社率抑制などの政府・行政の要請に応えつつ、生産性を維持・向上するために必要な新しい働き方に取り組んでおります。加えて、製薬企業として社会的責任を果たすため、自社医薬品の安定供給を最優先とした対応を行うことを目的に、これまでに想定していたパンデミック BCPの活用により、安定供給を含む重要業務に影響を及ぼさないよう、事業継続を進めております。
新型インフルエンザ等対策
SHIONOGIは新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年成立)第3条に基づき指定公共機関の指定を受け、重篤な健康被害とこれに伴う大きな社会的影響の発生が懸念される新型インフルエンザあるいは未知の感染症が世界的に大流行(パンデミック)した際に、可能な限り従業員等の感染を防止し、また、職場における感染拡大の防止に努めるとともに、流行期間中においても重要業務の維持に努めることが求められています。SHIONOGIが担っている社会的責任を遂行するため、平成26年「新型インフルエンザ等対策業務計画」を策定しております。
環境リスクマネジメント
SHIONOGIは環境の変化が事業活動に与えるリスクを抽出し、事業への影響を評価したうえで各々の課題への対策を検討し、不測の事態が発生した場合にその被害を最小限にするための管理と対応のレベル向上に取り組んでいます。