発展途上国においては、経済的理由により革新的な医薬品へアクセスできないことがあります。SHIONOGIは、医薬品の価値及び購入しやすさを十分に考慮しつつ、各国の情勢及び医療制度に合わせた価格戦略を製品ごとに検討しています。

現在、SHIONOGIでは患者さまが私どもの製品を購入・入手できるよう、適宜、患者支援プログラムや製品の寄付、および特許プール(特定の国で特許を無料又は低額なライセンス料で開放すること)等の措置を講じています。また、開発途上国、低所得国においてはSHIONOGI製品の特許権を登録しないこととしています。これによって、SHIONOGIの研究成果を第3者機関が活用し、低所得国のような特定の市場における患者さまのニーズを満たして頂けるものと期待しております。

知的財産によるアクセス制限と医療アクセスへの配慮

製薬企業にとって、知的財産は極めて重要な経営資源の1つです。SHIONOGIは知的財産戦略として、化合物・用途・結晶形・製法・製剤、創薬ターゲット、基礎探索技術等の種々のイノベーションを保護し、導出入活動での知財デューデリジェンスとSHIONOGIの活動に対する侵害予防に万全を期し、さらに、SHIONOGIブランドの信頼担保と模倣防止を目的としたブランドデザイン活動を推進しています。SHIONOGIの知的財産を侵害する恐れが生じた場合は、万全な法的対応を講じ、その保護に努めています。

SHIONOGIは、必ずしも知的財産制度自体が医薬品アクセスの障壁であるとは考えていませんが、一定の配慮が必要な場合も存在すると考えています。SHIONOGIグループ知的財産ポリシーで宣言している通り、医薬品アクセスの問題が解決されるまでは、LDCs「Least Developed Countries(後発開発途上国)」やLICs「Low Income Countries(低所得国)」に分類される、経済的な課題を有する開発途上国において特許出願および特許権の行使を行っていません。

低中所得国での医療アクセス改善に向けて

あらゆる人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態であるUHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)を実現するためには、医療へのアクセスに対する格差をグローバルで改善していく必要があります。しかし、低中所得国の経済、流通、医療制度、文化の違いなど医療アクセスの障害となる要素は国・地域ごとに複雑であり、SHIONOGI単独で解決することはできません。SHIONOGIはLMICsにおける医療アクセスの諸課題については、優れた解決スキームを持つ国際機関とパートナーシップを形成することが非常に有用であると考えています。

SHIONOGIは、パートナーシップを形成し、医薬品アクセス問題の中でも特に重要性が高いとされる感染症領域の取り組みを強化しています。

具体的には、セフィデロコル、ドルテグラビルに関連する3製品(「テビケイ」、「トリーメク」、「ジャルカ」)、カボテグラビル(「Apretude」)、エンシトレルビルの計6製品において、ジェネリック医薬品メーカーとのサブライセンス契約を通じて、医療アクセスの改善を推進しています。

LMICsでの医療アクセス改善への取り組み
LMICsでの医療アクセス改善への取り組み

薬剤耐性(antimicrobial resistance: AMR)感染症治療薬アクセス改善への貢献

AMRは、緊急かつ重要な公衆衛生上の脅威であり、最近の研究1によると、AMRにより、2019年には世界中で約130万人が死亡したと推定されており、過去の推定値2の約2倍に増加しています。

2022年6月、塩野義製薬は自社創製品であるAMR感染症治療薬のセフィデロコルについて、すべての低所得国および多くの低中所得国、高中所得国を含む世界135ヵ国を対象に塩野義製薬とThe Global Antibiotic Research and Development Partnership(GARDP)の間で技術移転を含むライセンス契約ならびに、塩野義製薬、GARDP、Clinton Health Access Initiative(CHAI)の3者間でグローバルにおける抗菌薬のアクセス環境を改善する提携契約を締結しています3。対象国にはAMRによる影響を最も受けている国・地域の大半が含まれています。

塩野義製薬とGARDPの間で締結された抗菌薬のライセンス契約は、深刻な細菌感染症の治療を目的に製薬企業と公衆衛生を優先課題に取り組む非営利団体との間で結ばれた初めての契約であり、GARDPは、本契約に基づくサブライセンスを通じて、新規抗菌薬へのアクセスを必要とする多くの低中所得国に対してセフィデロコルの製造・販売を担っています。

またこの提携契約には、抗菌薬の適正使用を確実なものとするために必要な、医療機関でのスチュワードシッププログラムの強化を目的とした各国の保健省や専門家との協力・支援に関する規定が含まれています。これは、セフィデロコルの適正使用を促し、新たな耐性菌の出現を回避するために非常に重要な取り組みです。

この取り組みは、民間企業と非営利団体の主要な関係者が結集することで、セフィデロコルを必要としている患者に届けるために必要な様々な障壁を克服する可能性を示しており、抗菌薬へのアクセスに対する精力的で有望なコラボレーションの在り方を提示しています。

さらに、上記ライセンス契約に基づいて、GARDPがOrchid Pharmaへのサブライセンス契約を締結しました4。塩野義製薬はセフィデロコルの製造に必要なすべての情報をOrchid社に提供し、Orchid社の生産能力の向上に貢献することで、セフィデロコルのグローバルでのアクセス拡大を目指します。
SHIONOGI、GARDPおよびCHAIの強みの融合
SHIONOGI、GARDPおよびCHAIの強みの融合
3者による連携体制
3者による連携体制

COVID-19治療薬アクセス改善への貢献

COVID-19のパンデミックにより亡くなった方は2022年2月時点で680万人を超えています1 。SHIONOGIが特に重視する重要課題は「感染症の脅威からの解放」であり、感染症のリーディングカンパニーとして、世界中の人々の 生命や生活、経済に大きな影響を及ぼしているCOVID-19の脅威に立ち向かうことは、SHIONOGIの使命です。

2022年10月、SHIONOGIは北海道大学との共同研究から創製されたCOVID-19治療薬のエンシトレルビル フマル酸について、国連が支援する公衆衛生機関であるMedicines Patent Pool(MPP)と低中所得国に広く提供することを目的としたライセンス契約を締結しています2 。本契約は日本企業として初めてのMPPとの契約となりました。

契約に基づき、MPPは対象となる117ヵ国にエンシトレルビル フマル酸を提供することを目的に、適格な品質で製造可能なジェネリック医薬品メーカーに対して、本薬の生産および供給に関するサブライセンスを付与することが可能となります。なお、SHIONOGIは、世界保健機関(WHO)がCOVID-19を国際保健上の緊急事態に指定している期間は、本契約の対象となる国で発生する売上に対するロイヤリティの受領を放棄しています。

さらに、上記ライセンス契約に基づいて、ジェネリック医薬品メーカー7社へのサブライセンス契約を締結しました3。今回のパートナリングにより、低中所得国で生活される人々にSHIONOGIが創出した新たな治療選択肢を適正な価格でお届けできることになりました。

MPPのビジネスモデル
MPPのビジネスモデル
SHIONOGIはMPPとのライセンス契約を通じてCOVID-19治療薬のアクセス改善に取り組むことでグローバルヘルスへ貢献してまいります。

抗HIV薬アクセス改善への貢献

ヴィーヴヘルスケア社に導出した抗HIV薬「テビケイ」(一般名:ドルテグラビル)およびその配合剤「トリーメク」、「ジャルカ」の全世界における供給数量シェアのうち、40%以上を開発途上国が占めています。ドルテグラビルは、Medicines Patent Pool(医薬品における特許プール)に登録されており、特許が無料で開放されることで、後発医薬品メーカーがドルテグラビルを単剤あるいは他の抗HIV薬との配合剤(「トリーメク」、「ジャルカ」)として製造し、それらを140ヵ国以上の低中所得国に供給することが可能になっています。

さらに、ヴィーヴヘルスケア社に導出した抗HIV薬カボテグラビル(「Apretude」)も同様にMedicines Patent Pool(医薬品における特許プール)に登録されています。

SHIONOGIは、ドルテグラビルおよびカボテグラビルの特許権者の一員として、本取り組みに貢献しています。