デジタル技術で変わる医療

人工知能 (AI), モノのインターネット (IoT), 第5世代移動通信システム (5G)などデジタル技術の発展は社会の可能性を広げ、多くの産業に影響を与えています。医療・医薬品の分野も例外ではなく、多くの大学・研究機関・製薬会社を含む医療関連企業がデジタル医療 (Digital Health: DH) の開発を精力的に検討しています。

デジタル医療とデジタル治療

デジタル医療とは

現在のところ「デジタル医療とは何か」という定義には、統一された見解はありません。そこで、本ページにおいて、デジタル医療とはデジタル技術を用いた医療に関わる製品やサービス全般を指すことにします。直接的に病気を治すものの他に、医療関係者のワークフローを改善するもの、患者やその家族の利便性を高めるもの、健康な人が病気になることを防ぐものなど様々な目的をもって開発をされています。
デジタル医療の具体例としては、以下のようなものが考えられます。
  • 離れた場所から医師が患者の診察ができる遠隔医療システム
  • スマートフォンやスマートウォッチから患者の健康状態や病気の兆候を予測するサービス
  • 蓄えられた大量の医療データを人工知能が解析し、医師の診断を補助するソフトウェア
  • 音や光、映像によって脳に刺激を与えて精神状態を癒すデバイス
多くは研究中であったり、認可されてなかったりと、まだまだ実用化されていないようなものも多いですが、もしかしたら未来には当たり前の医療として組み込まれているのかもしれません。

デジタル治療とは

デジタル医療の中でも特に直接的な病気の治療を行うものが「デジタル治療 (Digital Therapy: DTx)」です。新しい分野なので、デジタル医療同様、デジタル治療にも統一的な定義はありません。ここでは、DTxは、ソフトウェアを主体としたもしくはソフトウェアとハードウェアを組み合わせたデジタル技術を用い、疾患の治療を行うために管理や医学的介入を行うものという風に考えたいと思います。ここで、医学的介入とは「治療を目的として医薬品を投与したり外科手術をしたりする」という意味合いです。
なお、デジタル技術を使った診断、例えばレントゲン画像のAIを用いた解析などは、直接的な医学的介入ではありませんので、「デジタル診断 (Digital Diagnostics: DDx)」として区別することにします。
医療は時代ごとの状況とともに変わります。ここではデジタル医療・デジタル治療が求められている背景について考えます。

デジタル医療が求められる背景

医療従事者と患者のバランス

医療従事者と患者の人数バランスは適正な医療の実施にとって大きな問題です。もしも、患者に対して医療従事者の数が少なければ、医療の質は低下し、したがって人々の健康を守るのは困難になります。多くの国々がこうした問題に直面しており、発展途上国では人口増加が、先進国においては少子高齢化が医療従事者と患者のバランスに対して影響を与えています。一方で、医師、看護師、薬剤師、検査技師等の医療従事者の業務は多岐にわたる上に、専門的な知識が要求されるため、その人数を急に増やすのも容易ではありません。このような背景から医療の生産性向上は喫緊の課題であると言えます。

保健医療財政の問題

先進各国には国民の健康増進を目的とする医療保険制度をはじめ、さまざまな社会保障制度があります。しかし、少子高齢化による人口バランスの崩れは、医療保険の財政上の問題に直結し、現在の社会保障制度の在り方が問われる事態につながっています。より広い範囲の国民に健康を届けるために、より効率的な予算の使い方が求められています。

より進んだ健康と医療に対する考え方

長い歴史の中で人類はあらゆる病と闘い、その過程で多くの医薬品や治療法を見つけ出してきました。しかしながら、アンメット・メディカル・ニーズ、すなわち医療上の未解決問題が依然として残されています。
また、時代とともに健康に対する人々の意識も変化してきています。命を単に長らえさせることから、より健康な生活を維持し、人生の質 (Quality of Life: QOL) を最大化する方向へ医療の目的が変化しているのではないでしょうか。
このようなより進んだ健康と医療について、継続的に考えていかなければなりません。

デジタル医療の貢献

現在、そして未来においても、デジタル医療・デジタル治療だけで、これらの医療にまつわる諸問題すべてを解決できるわけではないでしょう。しかしながら、デジタル医療・デジタル治療が大きな可能性を秘めているのも確かです。

デジタル医療・デジタル治療は医療の大幅な効率化とそれに伴う省力化、コストダウンを図ることができます。これは医療従事者の相対的不足に関する問題や、保健医療財政に関する問題に対する有力な解決手段であると言えます。

デジタル医療・デジタル治療は、すでに多数の疾患領域で効果が実証されている、あるいはされつつある状況です。このことは新規治療法開発の選択肢を広げアンメット・メディカル・ニーズへの対応に強く貢献します。

QOLの向上に対してもデジタル医療・デジタル治療の果たす役割は大きいと言えます。デジタル医療ではスマートフォンやウェアラブルデバイスを通じて日常生活で継続的な治療を行うとともに、日常のそこで得られるデータをフィードバックすることができます。人々の個別の状況に合わせて最適な行動変容を起こし、健康を維持し、症状を改善することができるようになるでしょう。

このように、デジタル治療の研究・開発は大きな広がりを見せる分野であると言えます。


SHIONOGIのデジタル医療への取り組み

SHIONOGIの目指す姿

前述のように医療を取り巻く社会情勢は大きく変化し、製薬企業はこれまでどおり単純に医薬品だけを提供するビジネスモデルでは立ち行かなくなるのではないかと危惧されます。より広い視座に立って、可能な限り多くの人々の健康を守るという使命は、製薬会社にとってこれまで以上に重要なものになっていくでしょう。
このような背景からSHIONOGIは「新たなプラットフォームでヘルスケアの未来を創りだす」ことを2030年Visionとした新中期計画STS2030(Shionogi Transformation Strategy 2030)を発表しました。この中で、従来の医療用医薬品のみを提供する「創薬型製薬企業」から、ヘルスケアサービスを提供する「Healthcare as a Service (HaaS) 創造企業」に自らを変革すること、そして、社会に対して新たな価値を提供し、患者様や社会の抱える困りごとを包括的に解決することを目標と位置付けています。「医療用医薬品」の創製で培った強みをさらに強化し、その強みを活かして協創の核になること、多様なパートナーとの協創による新たな付加価値を創出し、患者様や社会の困りごとを解決することを目指しています。そのために、医薬品創出力をさらに強化し、コアとなる治療薬を創出するとともに、診断、予防、未病・ケアという幅広いアプローチから疾患全体を俯瞰して、社会にとって必要な製品・サービスを提供していこうと考えています。

HaaS創造企業とデジタル医療・デジタル治療

上記のようなSHIONOGIの「HaaS創造企業」への変革において、デジタル医療・デジタル治療を非常に重要なものであると位置付けています。SHIONOGIは他社に先駆けてデジタル治療製品候補の導入 (デジタル治療用アプリAKL-T01、AKL-T02の導入に関するAkili 社とのライセンス契約締結について(2019年3月7日)) に加えて、人工知能診断企業との提携 (AI 医療機器ベンチャー アイリス社との資本業務提携について (2019年5月7日))、オンライン診療の価値実証(兵庫県養父市と塩野義製薬株式会社との「地域医療の向上」に係る連携協定について(2020年3月10日)) を始めており、この分野でも変革に向けた種を撒き、育てています。
SHIONOGIはデジタル医療・デジタル治療分野でも人々の健康に寄与してまいります。