入社5年目で挑んだ「困難な挑戦」。若きリーダーとチームがなしとげた前進

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経口抗ウイルス薬による新型コロナウイルスの「予防」。それは、前人未踏とも言える極めて困難な挑戦でした。このプロジェクトで、アジア地域の実施責任者という大役を担ったのが、当時入社5年目だった岡島直さん。挑戦を後押しするカルチャーと、若手を支える温かいチームの中で、いかにしてプレッシャーを乗り越え、新たな可能性を切り開いたのか。若きリーダーの素顔に迫ります。

困難な挑戦を支えたのは、塩野義製薬の使命感

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―岡島さんのこれまでのキャリアと、現在のお仕事について教えてください。
学生時代は工学部でバイオを専攻しており、薬学系とは少し違うバックグラウンドを持っています。入社してからは一貫して開発職として感染症領域に携わっており、最初の4年間はインフルエンザ薬の治験で医療機関と連携しながらモニタリング業務を経験しました。5年目からは、新型コロナウイルス感染症の治療薬の開発チームに加わり、経口抗ウイルス薬による新型コロナウイルス予防試験のアジア地域実施責任者を担当しました。現場の医療機関と最も近いCRAをマネジメントしながら、臨床試験全体の計画遂行の責任を担うポジションです。

―入社5年目という若さで、大きなプロジェクトの責任者を任されたのですね。

 

最初は周りの方々にサポートしてもらいながら、なんとか自分の役割を果たそうと必死でした。新型コロナウイルス感染症の流行には波があり、試験の中でも3回ほど大きな波が来たのですが、3回目の頃には、過去の経験から「どうすれば目標ペースで被験者の方の登録を進め、質の高いデータを取れるか」というイメージが描けるようになり、少しずつ「板についてきたな」と感じられるようになりました。

 

―この予防試験は前人未踏の非常に困難な挑戦だったとか。

 

今回の挑戦は経口の抗コロナ薬開発の世界でも極めて難しいと見られており、私たちも失敗するリスクはありました。しかし、それは同時に、まだ誰も実現できていない「経口薬による予防」という希望を、それを必要としている方々に届けられるということでもありました。そして何より、私たち塩野義製薬は「感染症領域のリーディングカンパニー」を使命として掲げています。「自分たちがやらなければ、誰がこの薬を世に出すんだ」という気概がチーム全体に満ちていたと感じています。過去に自社でインフルエンザ薬の予防開発を成功させた自信とノウハウがあったことも、この挑戦を後押ししてくれました。

 

―現場の医療機関からは、どのような声が届いていましたか?

 

流行の波が落ち着いている時期でも、先生方からは「院内での感染拡大をどう防ぐか」という切実な悩みの声を聞いていました。ワクチンに加えて、より簡便に投与できる経口の予防薬があれば、感染拡大をより効果的に抑制できます。私たちの開発に対して、現場から強い期待の声をいただくことが多く、それも大きな励みになりました。

チーム一丸となって、データと向き合い、現場を走る

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―試験を進める中で、予期せぬ事態もあったそうですね。

 

当初、試験は主に日本とアメリカで進めていたのですが、途中のデータ解析で、両国間に違いがあることが分かってきました。薬の効果を科学的に評価するためには、「同居家族への二次感染」という事象が一定数発生する必要があります。その発生率が、アメリカでは想定よりも低く、一方で日本では比較的高いという状況が見えてきたのです。

 

この状況から私は自身の管轄であるアジア、特に日本で多くのデータを集めることが試験成功への大きな貢献になることを確信しました。日本でデータの集積を加速させるには、より多くの医療機関の協力が必要になります。ただ、治験経験が豊富で本試験に参加いただける医療機関を新たなに見つけることは当時、困難な状況でした。そこで、治験の経験がなかったとしても、普段から抗ウイルス薬を多く処方されているようなクリニックであれば、この予防薬を開発する意義に共感いただけて、治験にご協力いただけるのではないだろうかと考えました。

 

他部署から共有された抗ウイルス薬の処方数に関するデータを基に、MRの方々にも協力してもらうことで、協力を打診したい先生方に直接お会いすることができ、「予防薬が必要だ」という私たちの想いを伝えると、多くの先生が快く協力してくださいました。

 

直接足を運び、想いや考えを伝えることはベトナムで試験を進めるうえでも重要だと考え、ベトナムで試験が始まる前には現地の先生やスタッフの皆さんと直接お会いし、どうすれば質の高いデータを効率よく集められるか、何が試験成功の鍵なのかについて議論し、目線合わせしました。これらの泥臭いプロセスこそが、プロジェクトを大きく前進させてくれたと感じています。

 

―チーム一丸となって突き進む一体感が伝わってきます。

 

特に、試験で得られた膨大なデータを整理する最終段階では、「チーム力」が最大限に発揮されました。通常は数ヶ月かかる作業を、わずか33日で完了させることができたんです。これはAIなどの技術ではなく、完全に「人の力」でした。日本の私たちが日中の作業を終えると、アメリカにいるグローバル全体の実施責任者やデータマネージャーがそれを引き継いでレビューを進める。私が朝出社すると、アメリカからチャットが届いている。まさにプロジェクトは24時間動き続けており、地球の両側で連携しながら、前例のないスピードを達成することができました。

挑戦を促し組織全体で支える企業文化

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―試験が成功したと知った瞬間は、どんな気持ちでしたか?

 

何千ものデータが一気に開示され、成功かどうかがわかる当日は本当にドキドキしました。自分自身が中心となって関わった試験で成果が出せたのは初めてで、大きな感動を覚えました。同時に、チーム全体の協働とそれを支える企業文化があったからこそ実現できたと強く感じています。

 

―この経験を通じて、自身の成長をどのように感じていますか?

 

試験が終わった時、当時の臨床開発部長から言われた「この試験はチームの粘り強い取り組みと現場での工夫があったからこそ成功した試験だね」という言葉が、今も心に深く刻まれています。化合物のポテンシャルはもちろんですが、それを確実に現場に落とし込み、実行しきった部分を評価してもらえたことで、自分の仕事に大きな誇りを持つことができました。この経験を通じて、今後はアジアだけでなく、グローバル全体のオペレーションを担えるリーダーになりたいという新しい目標がはっきりと見えてきました。

 

―入社を考える未来の仲間へ、メッセージをお願いします。

 

塩野義製薬には、若手にも大きな挑戦の機会を与えてくれる文化があります。しかし、それは決して「任せっぱなし」ではありません。私自身も、ベトナムへ一人で出張を任された時に、さまざまな不安がありましたが、出発の当日まで上司や先輩方が、本当に親身になってサポートしてくれました。挑戦を促し、それを組織全体で支える。そんな温かい環境がここにはあります。

 

専門知識も大切ですが、それ以上に「相手の立場に立って考え、何に困っているのか、どうすればうまくいくのかをともに考える」という姿勢が、この仕事では何より大切だと感じています。熱く強い想いを持つ皆さんと、将来一緒に働けることを楽しみにしています。

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