ITとサイエンスの融合で、新たな感染症の脅威に挑む
2025年1月9日公開
スーパーコンピュータ運用の研究に没頭した大学院時代を経て、世界規模の感染症対策に挑むY.M.さんは、情報科学の最先端知識を武器に、研究所でワクチン研究を推進しています。一方で、経営企画という新たなフィールドにも果敢に飛び込む一面も。研究者の新しいロールモデルともいえる、旺盛なチャレンジ精神に迫りました。

ワクチン研究に情報科学とデータの力を
ーワクチン開発研究所での仕事はどのようなものですか。
簡単に言うと、IT技術を活用してワクチン研究を推進する仕事です。ウイルスの遺伝子情報を分析したり、AIを使ってワクチンの効果を予測したりするシステムを開発します。
私の役割は、情報科学とデータの力でワクチン研究者に方向を示し、「研究の速度」と「精度」を上げること。例えば、新型コロナウイルスの場合、デルタ株やオミクロン株など、ウイルスは常に変異していきますよね。そのため「今どのような変異株が流行しているのか」「どのような変異株に対してワクチンの効果を評価するべきか」といった情報をタイムリーに把握し、解析して提供することが重要です。
最近では、2024年のノーベル化学賞でも注目を浴びた「AlphaFold(アルファフォールド)」という技術も活用しています。このAI技術を使ってウイルスのタンパク質構造を予測することで、より効率的なワクチンの設計が期待できます。
ー印象的なプロジェクトを教えてください。
入社直後、マウスの実験動画を自動解析するプログラムの構築に携わりました。これまで研究者は、ベルトコンベア上を走るマウスを目視して、「何秒走った」「何秒止まった」と記録していたんです。「この時間をより本質的な研究に使いたい。自動化できないだろうか」との相談を受けて、サポートを開始。動画解析技術を使ってマウスの動きを認識し、「走っている時間」「止まっている時間」を自動で測定できるようにしました。ITの力で研究をサポートできる可能性を実感した、私にとって大切な経験となっています。
ワクチン研究というと、実験室で白衣を着ているイメージですよね。しかし実際には、このようにIT技術を駆使して研究を加速させるなど、様々なアプローチでワクチン研究に貢献できる仕事があるのです。
スピーディな開発へ、1分1秒を削り出す
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ーワクチン開発における「100日ミッション」について教えてください
「100日ミッション」は、 CEPI(Coalition for Epidemic Preparedness Innovations)が提唱してWHOやG7・G20諸国が支持している概念です。新たな感染症の脅威が発生した際に、100日以内にワクチンや治療薬を提供することを目指すものです。
私はこのミッションを意識し、新興感染症をいち早く検知するアラートシステムの社内における構築・運用を担当しています。世界中の感染症情報を自動的に収集し、AIを使って重要な情報を抽出・要約して、関係者に素早く共有できる仕組みを作っています。特に、正体不明な感染症の発生には感度高くアンテナを張っています。
短縮できる時間は1日か半日かもしれません。しかし、人の命を救う可能性がそこにある以上、私たちはたとえ1分1秒の時間でも削り出します。世界が一丸となって感染症に立ち向かう機運が醸成され、「解決策がある」という情報がいち早く社会に共有されれば、どれだけ多くの人々に安心を届けられるでしょう。スピーディな対応は、社会的に求められているのだと考えています。
ーグループ会社「シオノギヘルスケア」の経営企画にも携わられていると伺いました。
研究は非常に興味深い仕事ですが、同時に「企業はどう成長するのか」というビジネスの視点にも関心がありました。そこで会社の仕組みを体系的に学ぼうと思い、自己投資支援などを活用しながら勉強していました。
現在は、勉強で得た学びを実践的なものにするため、ダブルジョブを利用して研究職とシオノギヘルスケアの経営企画の仕事を並行して行っています。このダブルジョブによって、研究を多角的に見ることができるようになりました。特に、一般用医薬品を取り扱うシオノギヘルスケアだからこそ得られた「顧客目線」が大きな成果だと思っています。学生時代に医療に携わる研究バックグラウンドではなかったため、研究所にいると技術的な観点だけに集中しがちでした。しかし、最終的に私たちの研究が届く先は生活者の方々。その視点を持ちながら研究に取り組むことの大切さを実感しました。
自分の強みを活かして最善の貢献を
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ー日々変化する情報科学の技術。変化にどのように向き合っていますか。
私が入社した2020年から今日までの間でも、研究環境やアプローチは大きく変わりました。特に生成AIの登場は大きなインパクトでした。ただ、学生時代にスーパーコンピュータの研究に携わっていた経験が、新しい技術を理解し活用する上での重要な土台になっていると感じています。
技術の進化はとても速いですが、それは同時にたくさんの可能性が広がっているということでもあります。以前は英語論文を読んで内容を理解するだけでも時間がかかっていましたが、今ではAIを活用して効率的に情報を整理できます。そうして捻出された時間を、より創造的な研究活動に使えるようになってきています。
ー今後どのような貢献をしていきたいと考えていますか。
その時々で社会や会社が求めているものを的確に把握し、IT技術などの自分の強みを活かして、最善の貢献をしていくことに、重きをおいていきたいと考えています。
また、経営企画での経験を活かして、「研究の価値」を社会により分かりやすく届けていくことにも取り組んでいきたいですね。研究者としての専門性とビジネスの視点、その両方を持ち合わせることで、独自の貢献ができるのではないかと考えているところです。
ーSHIONOGIグループの魅力は何だと感じますか。

■ 自己投資支援制度とは?
従業員自身が必要と考える知識、スキル、経験を習得するための学びを金銭面で支援制度です。
■ ダブルジョブ制度とは?
人材育成を目的に、期間や労働時間を定めて所属組織外での兼務を可能とする制度です。