品質とスピードを追求。ワクチン製造リーダーに迫る

2025年3月6日 公開
phote

食品製造からキャリアをスタートし、シオノギファーマで固形製剤の包装ラインを経験した後、現在はバイオ医薬品製造会社「UNIGEN」岐阜工場に出向し、ワクチン製造の最前線でチームを率いるT.A.さん。30名を超える多様な専門性を持つメンバーをまとめ、新型コロナウイルスに対する組換えタンパクワクチンの製造方法確立に取り組んできました。SHIONOGIとしては、この取り組みがワクチン分野における初めての挑戦でもあり、多くの知見を結集しながら新たな技術領域を切り拓いています。

 

研究開発と製造現場をシームレスにつなぎ、研究所の知見を製造現場に落とし込むことで、迅速かつ安定的な供給体制を構築。さらに「変異株にも柔軟に対応できる製造所」を目指し、プラットフォームづくりにも力を注いでいます。

 

「社会に役立つ製品を作る」という使命感のもと、チームの力を最大限に引き出しながら、新たなワクチン製造を切り開くリーダーの挑戦を追いました。

※組換えタンパクワクチンは不活化ワクチンの一種であり、B型肝炎ウイルスワクチンをはじめ幅広く使用されている技術です。この技術は世界中ですでに広く使用され、長期の使用実績があります。

「品質」と「スピード」を追求する工程責任者として

phote

――食品製造から製薬業界へ、そしてワクチン製造の現場へ。今までのキャリアの転換について教えてください。

食品工場で働いていましたが、その後にシオノギファーマで製薬業界でのキャリアをスタートし、包装ラインでの製造や新しい固形製剤包装ラインの立ち上げなどの業務を経験してきました。上司からは「命を守るものだからこそ、高い品質のものを造り、安定供給し続けることが大切」と教えられ、その言葉は今も胸に刻まれています。

 

入社当初は「誰よりも早く現場に行き、実際に機械や工程を見る」ことを徹底していました。作業の一つひとつがどんな意味を持つのかを理解するように努め、その積み重ねが現場に貢献できる力になったと思います。

――現在はどのような業務を担当されていますか。

phote

ワクチンの製造工程の中で、増殖させた細胞にウイルスを感染させてタンパクを発現させます。その後、不要物を取り除き、必要なタンパク質だけを取り出す「精製」と呼ばれる工程を担当しています。

 

医薬品は人の命に直接関わる製品だからこそ、求められる品質基準は非常に高く、食品会社と比較して高い品質での均一性というのを求められていると感じます。処方された薬を患者さんから見た時に安心して服用できるものを作ることを心がけています。特にワクチンは社会的な意義も大きいため、責任もひときわ重いと感じています。「社会のために」という思いが、未知の領域に飛び込む原動力にもなっています。製造方法も確立しつつあり、あと一歩というところです。また、ワクチンは時間や手間、コストのかかる製品ですので、より効率的な製造方法の確立が今後の大きな課題です。

――リーダーとして心がけていることはありますか。

チーム全体に気を配り、良好なコミュニケーションを確保しながら、風通しの良いチーム作りを心掛けています。Bad News Fast/Firstと最近よく耳にしますが、異変を見つけたり、ミスかもと気付いたりした人がすぐに連絡や報告をしてくれるようになりました。

現在は30名あまりのメンバーを束ねる立場です。学生時代に細胞を扱っていた方、分離能の機器に詳しい方、研究所での知見を持つ方や、製造工程に詳しい方など、それぞれ異なる分野の強みを活かしています。私自身も、安定製造、高品質、効率化、原価低減に向けて、広く情報を取り入れながら、新しい視点やアイデアを取り入れるようにしています。

こうした多様性はチームの強みであり、各自の強みを活かしながら互いに知識を共有し融合させることで、より高い品質やスピードを追求できると実感しています。

パンデミックの渦中で、チーム一丸となって

phote

――ワクチン製造に携わってもうすぐ4年、いかがでしたか。

2021年4月に生産体制が整い、本格的に工場を稼働させました。当時は日本中から「一刻も早くワクチンを届けてほしい」という切実な声が寄せられ、その期待に応えるべく日々東奔西走しながらチーム一丸となって取り組んだのを覚えています。

 

私たちのチームには多彩なバックグラウンドを持つメンバーがそろっており、私のようにワクチン製造自体が初めてという人も少なくありませんでした。それでも一人ひとりの専門性を組み合わせ、質の高い製品を安定して作るためにメンバーとコミュニケーションを密に取りながらノウハウを蓄積し、品質と安全性を徹底してきました。

気づけば4年経っていた、というくらいあっという間の4年間でした。様々な仕事を進め、いろいろな方から知識を共有していただくなど、苦労しながらでも濃密な時間を過ごせていることはありがたいなと感じています。

――多様な組織との連携も大切だと聞きました。

研究開発部門や関連企業・メーカーと連携し、少量生産から大規模製造への移行に伴う課題に取り組んできました。半年間研究所でラボ実験を経験したことで製法の理解を深めることができました。その研究所で培った実践的な知識を活かして製造現場の課題解決していくことで、より洗練された製造プロセスを構築できたと感じています。

設備メーカーとのやり取りでは、設備の仕組みを理解しながら、より効果的な対策を模索し、さらに堅牢なプロセス構築を目指しています。

――製造方法確立に向けて、最近の大きな成果はありますか。

ワクチンの製造工程を確立するうえで、何度も検証を重ね、連続したバッチで安定した品質を証明でき、スケールアップのプロセスを乗り越えたことです。さまざまなチームや関連企業・メーカーも含め協力を得て高いハードルをクリアできました。決して一朝一夕に達成したわけではなく、試行錯誤の末に体制を整えられた結果だと実感しています。

これらは簡単なことではなく、特にこの4年間のメンバーの成長は目を見張るものがあります。

次世代のワクチン製造を見据えて

phote

――今後のワクチン製造における目標を教えてください。

新たな変異株が出現しても迅速かつ柔軟に対応できる体制を目指しています。特に実現したいのは、ワクチンを安定供給できるプロセスをより短期間で確立すること。研究部門の少量生産から、治験薬製造、そして商業化までをシームレスに結びつける仕組みづくりが重要だと考えています。スピードはもちろん、品質を守ることも絶対に譲れない使命です。

――最後にメッセージをお願いします。

専門的な知識は働きながら自然と身についていくものですが、なによりも大切なのは「患者さまのために」という熱い気持ちです。私たち製薬企業の役割は治療薬の提供だけでなく、病気の予防や健康の維持にも貢献し、人々に安心を届けること。そうした想いがあるからこそ、どんな困難も乗り越える原動力になっています。

 

また、医薬品は一人で作れるものではありません。多様な専門性を持つ人々が集まり、互いの力を引き出しあいながら、同じゴールを目指す。そのプロセスには大きなやりがいと温かさがあります。もし「誰かの役に立ちたい」という想いを抱いているなら、ぜひ一緒に未来をつくっていきましょう。

※T.A.さんと上司のR.S.さん
※T.A.さんと上司のR.S.さん

■ワクチン製造部門ってどんな仕事? 高品質なワクチンを安定的に製造する部門です。

 

主な特徴は以下のとおりです。

・専門的な製造工程の実施:培養工程で目的のタンパク質を作り出し、精製工程で必要な成分だけを抽出。医薬品として必要な高い品質基準を満たす製造管理を行います。

 

・チームワークによる24時間体制:3交代制での製造体制により、製造の継続性を確保。30名以上のメンバーによる緊密な連携と、正確な引き継ぎが不可欠です。

 

・研究開発との協働:研究所での知見を製造現場に活かし、より効率的な製造方法を確立。新しい変異株にも迅速に対応できる体制づくりを目指しています。