経済的負担を軽減し、安心して新型コロナウイルス感染症治療に専念できるようにとの想いが込められた保険「コロナ治療薬お見舞い金」とは 特別対談Vol.1

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療方法の一つとして抗ウイルス薬による治療が挙げられます。しかし、薬の認知度の低さや高額な治療費の自己負担が要因となり、治療を躊躇する方が多くいらっしゃいます*1。
そこで、医療費負担を軽減する仕組みを保険商品として提供することで、罹患者がより安心して治療に専念できるための選択肢を増やすために、PayPay 保険サービス株式会社から、新型コロナウイルス感染症治療薬の経済的負担を軽減する保険「コロナ治療薬お見舞い金」が発売されました。 この保険は、住友生命保険相互会社(以下、住友生命)傘下のアイアル少額短期保険株式会社がPayPayほけん専用商品として開発し、塩野義製薬株式会社(以下、塩野義製薬)が協賛として参画しています。
新型コロナウイルス感染症の現状や、この保険を通じた今後の日本の医療のあり方について、東京都医師会 尾﨑会長と塩野義製薬 手代木社長が語ります。
(対談日:2025年1月29日、塩野義製薬 東京支店にて)
*1 2024年9月 PayPayほけんによる3,633人に対するランダムパネル調査結果
経済的負担を軽減し、安心して新型コロナウイルス感染症治療に専念できるようにとの想いが込められた保険「コロナ治療薬お見舞い金」とは 特別対談Vol.2はこちら
引き続き流行している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

―まずは東京都医師会会長である尾﨑先生に、現在の新型コロナウイルス感染症の状況についてうかがいます。感染症法で2類から5類へ引き下げられ、外出制限もなくなりました。命に関わる病気ではなくなったのでしょうか?

*2 新型コロナウイルスとインフルエンザの比較:国立感染症研究所. 感染症発生動向調査週報ダウンロード2024年(https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2024.html)をもとに算出
*3 厚生労働省.人口動態調査 結果の概要(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1a.html)より2023年5月~2024年4月で算出
現在流行している新型コロナウイルス感染症は、以前と比べると症状が分かりにくく、また若い方では軽症で済む傾向にあります。ただの風邪だと思っていたけれども、念のため検査したら新型コロナウイルスだった、というケースが非常に多く、感染に気づいていない多くの人によってウイルスが拡散されています。
若い方では軽症で済むケースが多いですが、免疫力の落ちている高齢者や基礎疾患をお持ちの方では重症化することも少なくありません。例えば、学校で感染したお子さんによってご家庭全員が新型コロナウイルスに感染して寝込まれるケースもありますよ。それに軽症であっても、その後長く後遺症に悩まされる方も診察でお見かけします。
―感染リスクを小さくするためにできることはありますか。
―新型コロナウイルスにも抗ウイルス薬があるのですね。
尾﨑 コロナの陽性者であっても、軽症の方などでは薬を飲まなくても治る人が多く、症状によっては咳止めや解熱剤などの対症療法で治療いただくことも一つです。ただし、軽症者のなかにも重症化リスクのある人たちなど、抗ウイルス薬による治療が推奨される場合もあります。
抗ウイルス薬には、飲み薬と点滴があり、感染してから投薬することで体内のウイルスが減少したり、重症化を防ぐことができます。しかし3割負担の場合でも負担が非常に大きいのが難点です。特に若い方はお値段を聞くとためらわれます。
費用面で抗ウイルス薬を選択できず、症状が長引いている方と多く接し、「もし、抗ウイルス薬の値段がもっと安ければ、悩まず抗ウイルス薬を選べる方が増えるのに」と医師として非常にもどかしく思っていました。
薬価の問題と国産の重要性

―たしかに、想像以上に高いなら悩んでしまうかもしれません。では、抗ウイルス薬を開発された塩野義製薬の手代木社長に、抗ウイルス薬が高価である理由をうかがいます。
手代木(塩野義製薬) 当社は60年以上前から、感染症の不安がない社会を目指して研究開発を進めてきました。薬の開発には、安全性や効果を確認するために長い時間と多くの費用が必要です。成功率も非常に低く、ハイリスクなのです。今回の抗ウイルス薬の開発は、一刻も早く開発するために通常と全く異なる開発のプロセスをとり、他の開発を止めて、人や資金などのリソースを集中して進めることで、通常10年とか15年とかかかるところ数年で何とか世に出すことができました。
今世の中に出ているお薬は、求められる承認要件を満たした数少ない成功品です。ですから、新しいお薬にはこれまでにかかったコストを含めた価格を設定します。価格を下げてしまうとこれまでにかかった費用が回収できず、経営が立ちゆかなくなります。
また、現在は世界での価格とのバランスも考えて薬の価格(薬価)が決められています。一見すると高価な抗ウイルス薬ですが、それでも海外の先進国と比べると、日本の薬価は安く設定されています。さらに薬価を下げてしまうと、利益が見込めないと判断した海外の製薬メーカーは、日本では販売しない選択をする可能性もあります。
―なるほど、これからも安定した薬の供給のために、安易に薬の価格を下げられない背景があるのですね。
薬代をカバーできる保険の誕生
―抗ウイルス薬の価格には理由がある一方で、患者としては高価なお薬はためらってしまいますし、効果のある薬を処方できない医師はもどかしい……。そこで、医療費負担を軽減する仕組みを保険商品として提供することで、罹患者がより安心して治療に専念できるための選択肢を増やすために、日本初の保険「コロナ治療薬お見舞い金」が誕生しました。
尾﨑 月々わずか100円からという保険金で、抗ウイルス薬の費用をカバーできる画期的な保険ですね。加入や保険金申請が簡単で、医師の診断書も不要です。非常にシンプルで、患者さんと医師双方の視点から見ても良い保険だと感じました。令和の時代には少なくなった、企業による社会貢献の好例ですね。
手代木 私どもは手洗いやうがい、ワクチンに加えて、保険の仕組みも活用して質の高い医療サービスを多くの方が受けられるようにすることで、「備えあれば憂いなし」という文化を作りたいと思いました。多くの方に支持されるためには、負担にならない保険金であることが重要です。そこで、当社が保険金の一部を負担する決断をいたしました。
もし新型コロナウイルスに感染して抗ウイルス薬の投薬を希望される場合、当社以外の3種類の薬も選択できるのがポイントです。この保険を作るときには、私どもの取締役会で話をさせていただいています。その際に社外の取締役からは、他の会社の薬を使う場合でもうちが保険料を負担するのか、ということを言われました。その際に申し上げたのは、「いいんです、どこの会社の薬が使われてもいいので、この国のコロナを何とかマネージしたいんです」、ということです。この国で唯一薬を出した会社として、この国のためにやれることはやらせていただきたい、ということでご了解をいただきました。
つまり、この保険の目的は当社の利益ではなく、みなさまの1日も早い回復と健やかな社会の維持にあります。日本がコロナウイルス感染症を上手に管理できる国であり続けてほしいという思いを込めて協賛いたしました。
医療サービスを維持するためのヘルスリテラシー向上を

―日本の医療が向かうのはどのような未来でしょうか。
尾﨑 日本は国民皆保険制度のおかげで、低コストで質の高い医療サービスを必要なときに受けられます。2009年の新型インフルエンザ流行時では、日本はWHOにほめられるほど上手く押さえ込んだのです。普段から衛生に対する高い意識に加えて、診療所レベルで迅速な診断と適切な治療ができるしくみがあったからだと分析されています。
新型コロナウイルスでも同様のしくみを維持して、次の大流行(パンデミック)に備えるべきです。皆さんにとってすぐに病院を受診できる現状は、水道水や整備された道路のように当たり前になっているかもしれません。しかし、水の安全性や道路の老朽化が問題になっているように、医療制度もこれまでのシステムを維持するのが難しくなっています。実際、パンデミック期間に発熱外来を受診できない状態になりました。
いつでも低コストで受診できるシステムを守るためには、皆さん一人一人が健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解して活用する「ヘルスリテラシー」を身につけていただきたいのです。手洗いやワクチン接種といった感染症予防の対策を今まで通り続けていただき、高額な治療費には保険で備えるしくみが広がることに期待しています。
手代木 他の製薬メーカーさんからも非常に面白い取り組みとお声がけいただいています。今回の取り組みが広く受け入れられて他の薬にも広がれば、未来の病気への備えとなります。
尾﨑 健やかに長生きできる社会が続くために、感染症を上手にコントロールできる日本を目指して、市民の皆さん、製薬企業、そして医師が協力して一緒に頑張っていきましょう。
尾﨑 治夫 Haruo Ozaki
公益社団法人 東京都医師会 会長 尾﨑治夫
1977年に順天堂大学医学部卒業。90年おざき内科循環器科クリニック院長。98年東久留米医師会理事。02年東久留米医師会会長。11年東京都医師会副会長。15年、東京都医師会会長(現職)。16年日本医師会理事(現職)。医学博士。東京都出身。
会社概要
■塩野義製薬株式会社
創業:1878 年3月
代表者:代表取締役会長兼社長CEO 手代木 功
本社所在地:大阪府大阪市中央区道修町3-1-8
事業内容:医薬品、臨床検査薬・機器の研究、開発、製造、販売など