街の弁護士からグローバルヘルスケアの最前線へ…会社と生命を守る社内弁護士

2025年5月14日 公開
「法律で大切な会社を守りたい…、少年の思いは、SHIONOGIの「社内弁護士」という形で、多くの人々の「生命を守る仕事」へと進化しました。米国企業の買収案件から新規事業の出資案件まで、手腕を発揮。常にチャレンジを楽しみながら、事業部門からの信頼を着実に築いています。製薬企業としての使命の実現を支える、若き社内弁護士の素顔に迫ります。

「会社を守る弁護士に」…少年の日の決意が実を結ぶ

――弁護士を目指したきっかけと、キャリア採用で塩野義製薬を選んだ理由を教えてください。

原点は子どもの頃、大阪・天王寺で営んでいた祖父の小さな会社が、法的トラブルに遭遇したことです。奔走する祖父を見て「法律で大切な会社を守りたい」と思い、弁護士になろうと決意しました。学生時代は野球やテニスなど、スポーツにも熱中していました。しかし、幼い頃の実体験に基づいた決心は揺るがず、法学部に進学して晴れて弁護士になることができました。

 

最初はいわゆる「マチ弁」。街の弁護士として、地域の中小企業の顧問業務を中心に働いていました。しかし、企業との接点が「問題が起きた時だけ」の場合も多いことに、違和感を覚えてしまったんです。これだと、顧問をしている会社のビジョンや課題といった核心的な部分に触れることができません。もっと手応えをもって会社を守りたいと考え、転職活動に踏み出しました。

 

実は、転職活動中には他企業からも内定をいただいていました。その中で塩野義製薬を選んだ決め手は、大企業の割に法務部がコンパクトだったから。担当業務が細分化されている大所帯の一員になるより、色々なことにチャレンジできそうだと、期待に胸をワクワクさせながら飛び込みました。

製薬企業の使命の重さを、手応えに変えて

――入社して最初の仕事はグローバル案件だったとか。

入社してすぐに、米国のバイオベンチャーQpex社の子会社化案件に携わることになりました。今、人類が直面している大きな課題、それは抗生物質が効かない「薬剤耐性菌」の問題です。WHOの予測では、2050年には薬剤耐性菌による感染症が、がんを超えて最大の死亡要因になるとされています。

 

Qpex社は薬剤耐性菌に対する新しい治療薬の開発に強みを持つ企業です。「感染症の脅威からの解放」を重要課題の一つに掲げ、これまでに多くの治療薬を世に出してきた塩野義製薬は、この分野での研究開発力をさらに強化するため、Qpex社の買収を決めました。製薬企業の使命の重さを改めて実感し、契約書の一文一文に細心の注意を払って取り組みました。

 

会社への影響が大きく検討すべき事項も多いため、国や組織をまたいで多くの人が関与することが、Qpex社の子会社化のような大型グローバル案件の特徴の一つだと思います。法的な専門知識があるだけでは不十分で、社内・社外の多数の関係者間の調整をした上でチームとして案件に取り組む必要があります。大変ではありますが、同時に非常にやりがいがある部分だと感じます。

――ほかに、法務部員としてどのような仕事をしているのでしょうか。

例えば、企業に出資を検討する案件にアサインされると、弁護士として契約書のレビューを行うだけではなく、その前段階としてあらゆる角度から出資先の事業価値を計るため、徹底的な検討を重ねます。過去のプレスリリース・公表資料を読み込んだり、また競合の状況について調査を行ったりしながら、事業の方向性に合致があるかであったり、リスクの芽がないかを事前に洗い出すのです。

 

このような経験を経て、最近では、積み重ねたノウハウを組織の財産として活かすため、私がリーダーとなって、ガイドライン作成を進めています。知的財産部門や経理財務部門など、関連部署と連携し、誰が担当しても一定水準以上の対応ができる体制づくりを目指しています。

グローバル企業の法務として、世界標準の仕事に挑む

――製薬業界特有の事柄には、どのように向き合っていますか。

どの業界でも個人情報保護は非常に重要ですが、製薬会社は治験で世界各国の被験者の情報を扱いますから、各国の法規制に確実に対応する必要があります。特に欧州のGDPR(General Data Protection Regulation:EU域内における個人データの保護と取り扱いに関する法令)はグローバル企業として高い水準が求められます。

 

各国で法改正が頻繁にあるうえ、新規事業を展開する中で必要となる情報も常に変化しますから、そのたびにアップデートが必要です。だからこそ、セミナーで最新の知識を得たりしたり、外部の専門家の講演に参加したり、アンテナを常に高くはっています。会社もそういった学びの機会を積極的に支援してくれます。

 

塩野義製薬には副業制度がありますので、制度を使いある企業の社外監査役の仕事も始めました。経営の視点を学ぶ貴重な機会になっています。法務の専門性を深めながら、企業経営の観点も身につけていく。複眼的な視点を持つことで、相乗効果でより良い仕事ができると考えています。

――新規事業が増える中で、法務部の役割も変化していきそうです。

SHIONOGIは今、2030年までの中期経営計画に基づいて、新分野にも積極的に挑戦しています。その中で法務部に求められるのは、会社のナレッジがない分野においても、前進できるよう法務の観点でサポートすることだと考えています。

 

例えばある取り組みに何かリスクがあったとして、どうすればリスクが軽減できるのか、またはそのリスクが受け入れ可能なレベルに留まるのかといったことまで、しっかり分析し尽くすことが大切です。プロジェクトのメンバーと同じ方向を向いて解決策を考えていくことで、お互いの信頼関係につながっていくと感じています。

法務部での新しい働き方とその可能性

――法律事務所から社内弁護士へキャリアチェンジされた観点から、塩野義製薬への入社を考える方に、メッセージをお願いします。

製薬業界は特殊な面もありますから、知見の面で不安を感じる方もいるかもしれません。しかし、塩野義製薬には素晴らしい教育環境がありますので、キャッチアップしようという意欲があれば、制度や周りの方がしっかりサポートしてくれます。

 

また、最近子どもが生まれて、働き方の面でも大きな違いを実感しています。法律事務所は夜遅くまで勤務するケースも見受けられるため、キャリアと家庭の両立に難しさを感じるケースも少なくありません。その点、塩野義製薬では、しっかりとワーク・ライフ・バランスが確保されており、限られた時間で成果を出すプレッシャーはあるものの、家庭との調和を図りながら働ける環境が整っています。

――これからの目標を教えてください。

投資・出資案件を数多く担当する中でより専門性を高め、同時に企業経営の観点からも理解を深めていきたいという思いがあります。法務の専門家としてだけでなく、経営という視点でも会社を守るだけでなく成長に貢献できる存在になりたいですね。

■法務部ってどんな仕事?

法律の専門性を活かして、経営判断から個別案件まで、企業活動の様々な場面で事業をサポートする職種。

主な仕事は下記のとおり。

 

1. 企業活動の「安全性」を確保する:M&Aや業務提携、研究開発、製造、販売など、あらゆる事業活動において法的リスクを評価。コンプライアンスを確保しながら、事業の円滑な推進をサポートします。

 

2. グローバル展開を「支える」:世界各国の法規制に対応し、海外での事業展開を法務面からサポート。特に製薬企業では、個人情報保護や知的財産など、高度な専門性が求められます。

 

3. 新規事業の「創造」に参画する:既存の枠組みにとらわれない新しいビジネスにおいて、リスクと機会を適切に評価。法的観点から事業の実現可能性を高め、新たな価値創造に貢献します。