研究トピックス
SHIONOGIは、研究開発への必要な投資を行い、強みである低分子創薬を軸にしながら、新たなモダリティの拡充や新技術の獲得を進めることで、新薬を創出し続けます。
感染症の脅威からの解放
パンデミック対応を含む急性感染症
COVID-19
COVID-19は、発生から瞬く間に世界中に広がり、人類の健康のみならず、政治経済や生活様式にまで大きな影響を及ぼしました。発生から3年が経とうとしている今も、社会にその爪痕は残り、余波は続いています。
世界中の製薬会社が社会を破壊したこのウイルスとの未曽有の戦いに勝利するための努力を進める中、SHIONOGIは、自社抗ウイルス薬研究のノウハウ、リソース、社外ネットワークを最大活用し、さらにはこれまでの自社研究プロセスの常識を打ち破り、特徴のある新規プロテアーゼ阻害剤エンシトレルビルの創製に至りました。まずは日本から、そして世界中の患者様にエンシトレルビルを速やかにお届けしようと、日々取り組んでいます。
しかし、未だにCOVID-19の流行はコントロールできておらず、後遺症により苦しまれている患者様も多くおられます。感染症のSHIONOGIとして、「我々がパンデミックを終息させる」という高い志と共に独創的な研究開発を続けて、今後もCOVID-19に苦しまれている患者さまを解放すべく、戦い続けます。
RSウイルス
Respiratory syncytial virus(RSウイルス)は、特に乳幼児期において重篤な症状を引き起こす病原体であり、生後数週から数カ月の間に感染すると、重症化する場合があります。また、低出生体重児や高齢者、心肺系に基礎疾患がある方、免疫抑制状態にある方が感染された場合も注意が必要です。このように、RSウイルスが脅威となる患者さんが多いにもかかわらず、治療薬がないため、アンメットメディカルニーズが高い疾患と言えます。
SHIONOGIは、感染症における患者さんの困りごとからの解放を目指し、日々創薬研究に取り組んでいます。治療薬の無いRSウイルスに対しては、ウイルスのLタンパク質にあるRNA依存性RNAポリメラーゼと呼ばれる酵素に標的を定め、自社抗ウイルス薬研究のノウハウと、UBE株式会社の低分子合成力を掛け合わせ、新しい化合物S-337395の発見に至りました。現在、臨床試験に向けて準備を進めています。
未だに治療薬が無い感染症は、数多く存在します。SHIONOGIは、治療薬が無くて困っておられる患者様の苦しみを理解し、一日でも早く解放するために、独自の研究開発を続け治療薬をお届けします。
薬剤耐性(AMR)感染症
セフィデロコル
AMR(薬剤耐性)を持つ細菌による感染症は、人々が気づかないうちに忍び寄る「サイレントパンデミック」として人類の脅威となっています。特に、カルバペネム耐性の腸内細菌目細菌、緑膿菌、及びアシネトバクター属のような、カルバペネム耐性グラム陰性菌の出現・拡大はグローバルレベルで問題となっており、世界保健機関 (World Health Organization,WHO) やアメリカ疾病予防センター (Center for Disease Control and Prevention,CDC) が、新規抗菌薬が緊急に必要な薬剤耐性菌として警告を発しています。
セフィデロコルは、2019年から2020年にかけて米国及び欧州で承認された、カルバペネム耐性株を含むグラム陰性菌に抗菌活性を示す注射用シデロフォアセファロスポリン系抗菌薬です。細菌が生育するために欠かせない鉄を取り込む経路を介して菌体内に効率よく侵入することができる特長を有しており、このようなユニークなメカニズムは「トロイの木馬」と称されています。さらに、セフィデロコルは、β-ラクタム系抗抗菌薬を加水分解するAmbler分類4種の全てのクラスのβ-ラクタマーゼに対し、高い安定性を有しています。これにより、各種カルバペネマーゼを産生するグラム陰性菌に対し強い抗菌活性を示し、カルバペネム耐性を克服することが可能となります。
SHIONOGIは、 今後も、グローバルレベルで拡大するAMR感染症の脅威からの解放を目指し、患者さまや社会の困りごとを解決すべく、新薬創製に取り組んでいきます。
治療に長期間を要する感染症
HIV
Cabenuvaは、欧州と米国で月1回投与および2ヵ月に1回投与の承認を取得しており、カナダでも月1回投与の承認を取得しています。2ヵ月に1回投与の治療法では、年6日の投与でHIV治療が可能となります。
また、カボテグラビル単剤では、HIV感染予防における世界初の長期作用型注射剤ApretudeとしてHIV感染予防の適応承認を取得しています。
SHIONOGIの研究所では、HIV感染症の患者さんが、ライフスタイルに沿った治療法を新たに選択でき、適切な治療・予防を受けられるよう、新薬創製に取り組んでいます。
ワクチン
SHIONOGIは感染症のトータルケア実現に向けて、ワクチン事業を本格的に開始します。これまでにUMNファーマ社を完全子会社として、同社が保有するBEVS1)というウイルス抗原タンパクを使った組換えタンパクワクチンの生産技術を用いてワクチン創製を進め、ラブドフリー2)の昆虫細胞培養技術を確立しました。SHIONOGIのCOVID-19ワクチンは、BEVS技術で製造した抗原にアジュバント3)を組み合わせた組換えタンパクワクチンです。COVID-19ワクチンの上市を起点として、今後ワクチンメーカーとしての実績を積み上げながら、アンメットニーズに応える製品を社会に提供してまいります。
COVID-19ワクチンだけではなく、インフルエンザなどの呼吸器感染症のワクチン創製にも取り組んでいます。新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスに対抗するワクチン創製において課題となるのは、原因ウイルスに変異が入ることによって免疫から逃避され、既存ワクチンの有効性が減弱することです。この負の連鎖を断ち切り、さらに次に発生するかもしれないパンデミックに対抗するため、SHIONOGI はユニバーサルワクチン4)の研究開発に取り組んでいます。新型コロナウイルスワクチンにおいては、SCARDA5)の助成のもと、抗原設計や免疫状態の解析に強みを持つ KOTAI バイオテクノロジーズ株式会社、ならびに感染症研究において日本を代表する機関である国立感染症研究所とともに、新型コロナウイルスを含むサルベコウイルス全般をカバーするユニバーサルワクチンの創製に取り組んでいます6)。
新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどによって引き起こされる呼吸器感染症の予防においては、鼻や喉の粘膜部位において粘膜免疫を誘導してウイルスの感染そのものを防ぐことが重要と考えられており、粘膜免疫を効果的に誘導できる経鼻ワクチンの創製を目指し、千葉大学病院に設置したヒト粘膜ワクチン学部門7)と連携しながら研究を行っています。
アジュバントはワクチンと一緒に投与する物質で、ワクチンを接種された際の効果を高めるために使用されます。SHIONOGIはこれまでに、スクワレンベースの水中油型エマルジョンアジュバントA-910823、B型CpG ODN2006を改良した新規Toll-like receptor 9アゴニストであるアジュバントS-540956を創製してきました。これらで培った研究基盤を進化させ、免疫増強に最適なワクチンアジュバント選定に向けた研究を推進しています。
1) BEVS:Baculovirus Expression Vector System
2) ラブドフリー:ラブドウイルスが混入していない
3) アジュバント:免疫原性を高める物質
4) ユニバーサルワクチン:ウイルス全般に交叉する広域性を有するワクチン
5) SCARDA:先進的研究開発戦略センター (Strategic Center of Biomedical Advanced Vaccine Research and Development for Preparedness and Response)
6) AMEDによるワクチン・新規モダリティ研究開発事業への ユニバーサル抗原ワクチン研究開発の採択について (プレスリリース、2022年6月30日)|AMEDによるワクチン・新規モダリティ研究開発事業への ユニバーサル抗原ワクチン研究開発の採択について|シオノギ製薬(塩野義製薬) (shionogi.com)
7) 塩野義製薬と千葉大学病院による 粘膜ワクチン共同研究部門設置に関する契約締結について (プレスリリース、2022年2月10日)|塩野義製薬と千葉大学病院による 粘膜ワクチン共同研究部門設置に関する契約締結について|シオノギ製薬(塩野義製薬) (shionogi.com)
健やかで豊かな人生への貢献
認知症
認知症の患者数は現在世界で約5500万人を超え、65歳以上の20%が認知症に罹患していると試算されています。最近、認知症病型の一つであるアルツハイマー型認知症に対して進行抑制効果のあるアミロイド抗体が承認され、患者様やご家族の方々にとって待望の新薬となりました。しかし、本薬剤は病態の進行を遅らせることはできても止めることはできていません。またアルツハイマー型認知症以外の認知症にも効果が期待できません。認知症に関わる社会コストはわが国で14.5兆円と試算されており、その約9割が介護費用に関わるとされています。介護費用増大の原因の一つは、認知症に発現する特有の症状です。それらは認知機能障害のみでなく、認知症周辺症状(BPSD)とよばれる幻覚・妄想や攻撃的になる焦燥性等が含まれます。認知症の患者さんやご家族は、アミロイドなどバイオマーカー異常ではなく、認知症特有の症状で困っています。SHIONOGIはそれらの症状を取り除くことで、『認知症患者さんが自分らしく、また愛する家族に迷惑をかけることなく幸せな余生を過ごす』 ことに貢献します。
SHIONOGIは、認知症特有の症状を取り除くべく研究開発を進めており、研究早期ステージから開発後期ステージまで様々なパイプラインを有しています。現在臨床試験中のBPN14770は記憶形成に関わるメカニズムを賦活化するユニークな薬剤で、認知症はもとより、精神疾患の認知および記憶機能を改善する可能性があります。また、BPSD発症に関わる脳内メカニズムや創薬ターゲットの同定に向けて、AIなど最新の創薬技術を活用した研究を推進しています。