2020/06/09

抗インフルエンザウイルス薬ゾフルーザ®(バロキサビル マルボキシル) ハイリスク患者を対象とした第III相臨床試験結果の Lancet Infectious Diseases誌掲載について

塩野義製薬株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:手代木 功、以下「塩野義製薬」)は、抗インフルエンザウイルス薬バロキサビル マルボキシル(日本での製品名:ゾフルーザ®)の、合併症を併発するリスクの高い患者を対象とした第III相臨床試験(CAPSTONE-2)の良好な結果が、「Lancet Infectious Diseases」2020年6月8日号に掲載されたことをお知らせいたします1

 

12歳以上のインフルエンザ関連合併症を併発するリスクの高い患者(糖尿病、喘息または慢性肺疾患、心疾患などの基礎疾患を有する患者、65歳以上の高齢者など)2におけるCAPSTONE-2において、本薬は主要評価項目であるインフルエンザ罹病期間(インフルエンザ症状が回復するまでの時間)をプラセボと比較して有意に短縮しました。

オセルタミビルとの比較において、インフルエンザ罹病期間は同程度でしたが、B型インフルエンザウイルス感染患者における部分集団解析では、本薬はオセルタミビルに対してインフルエンザ罹病期間を有意に短縮しました。また、本薬はプラセボと比較して、気管支炎などのインフルエンザ関連合併症の発生頻度を有意に低減しました。安全性に関しては、本薬は良好な忍容性を示し、安全性上の新たな懸念はありませんでした。

 

本論文の筆頭著者であるNorthwestern University Feinberg School of Medicine教授、Michael G. Ison, MD MSは、「CAPSTONE-2は2つの面で重要です。まず、抗ウイルス療法が、インフルエンザ関連合併症を発症するリスクが高い患者において合併症の発現抑制に有効であることを示しました。次に、バロキサビル マルボキシルはA型、B型インフルエンザウイルス感染患者それぞれに対して、これまでと異なる特徴的な治療効果を示し、中でも、B型インフルエンザウイルス感染患者に対して、プラセボやオセルタミビルと比較して、より速やかな臨床症状の改善およびウイルス量の減少効果を示しました。」と述べられています。

 

CAPSTONE-2の結果は、本薬が合併症を併発するリスクの高い患者に対して効果を発揮することを示すものです。これまで、このような患者を対象とした臨床試験で明確に臨床効果を示した薬剤はありません。また本薬は、リスク要因を持たない健常のインフルエンザ患者を対象としたグローバル第III相臨床試験(CAPSTONE-1)3においても良好な結果を示しており、患者さまのリスク要因の有無によらず、インフルエンザウイルス感染症の治療に貢献することが期待されます。

 

本薬の開発および販売は、現在Rocheグループとの提携下で進めており、日本と台湾における販売は塩野義製薬が、それ以外の国ではRocheグループが行います。本薬は日本で承認され、製品名ゾフルーザ®として販売されています4。米国では、「12歳以上の合併症のない急性のインフルエンザウイルス感染症治療」を適応として、2018年10月25日に本薬は承認され5、米国疾病予防管理センター(CDC: Centers for Disease Control and Prevention)のガイドラインにおいて、12歳以上の合併症のない発症後48時間以内の急性インフルエンザウイルス感染患者に対する治療薬として推奨されています6

また、CAPSTONE-2の結果をもとに、米国食品医薬品局(FDA)に新薬承認追加申請を実施し、2019年10月16日に、本薬が抗インフルエンザウイルス薬として初めて「合併症を併発するリスクが高い12歳以上の患者の発症後48時間以内の急性のインフルエンザウイルス感染症治療」の追加適応を承認されています7。さらに、米国では、経口懸濁用顆粒剤の製造販売承認申請と「1歳以上12歳未満の合併症のない急性のインフルエンザウイルス感染症治療」および「1歳以上のインフルエンザウイルス感染曝露後予防」を適応とした新薬承認追加申請を実施し、FDAから受理されており、FDAの審査終了目標日(PDUFA date)は2020年11月23日です8

 

塩野義製薬は、取り組むべき重要課題(マテリアリティ)として「感染症の脅威からの解放」を特定し、治療薬の研究・開発だけにとどまらず、啓発・予防・診断ならびに重症化抑制といった感染症のトータルケアに対する取り組みを進めております。引き続き本薬の有効性、安全性に関するデータの収集と解析に鋭意取り組み、適正使用に向けた情報提供活動に努めてまいります。

 

なお、本件が2021年3月期連結業績に与える影響は軽微です。

 

以 上

 

 

 

【CAPSTONE-2 1について】

CAPSTONE-2は、合併症を併発しやすいリスク要因をもつ12歳以上のインフルエンザ患者を対象に実施した、多施設共同、無作為化、プラセボおよび実薬対照二重盲検比較の第III相臨床試験です。本試験は塩野義製薬がグローバルで実施いたしました。2,184名の被験者が本薬40 mgまたは80 mg(体重により決定)の1回投与群、プラセボ、またはオセルタミビル75 mg 1日2回5日間投与群に無作為に割り当てられました。そのうち、1,163名(53%)の被験者でインフルエンザウイルスへの感染がRT-PCRにより確認されました(A/H3N2型:47.9%、A/H1N1型:6.9%、B型:41.6%)。本試験における主なリスク要因は、喘息または肺疾患(39.2%)、65歳以上の高齢者(27.4%)、内分泌疾患(13.5%)、心疾患(12.7%)、極度の肥満(10.6%)でした。本試験の主な結果は下記のとおりです。

Ÿ   ゾフルーザは、インフルエンザ罹病期間(インフルエンザ症状が回復するまでの時間)をプラセボに対して有意に短縮しました。インフルエンザ罹病期間の中央値は、プラセボ群の102.3時間に対し、ゾフルーザ群では73.2時間でした(p<0.001)。

Ÿ   このうちB型インフルエンザ感染患者では、ゾフルーザはインフルエンザ罹病期間をプラセボおよびオセルタミビルに対して有意に短縮しました。インフルエンザ罹病期間の中央値は、プラセボ群100.6時間、オセルタミビル群101.6時間に対し、ゾフルーザ群では74.6時間でした。

Ÿ   喘息または慢性肺疾患といった基礎疾患を有する患者において、インフルエンザ罹病期間をプラセボに対して有意に短縮しました。インフルエンザ罹病期間の中央値は、プラセボ群で110.2時間に対し、ゾフルーザ群では74.6時間でした。

Ÿ   ゾフルーザは、体内からのウイルス排出期間をプラセボおよびオセルタミビルに対して有意に短縮しました。体内からのウイルス排出期間の中央値は、プラセボ群96.0時間、オセルタミビル群96.0時間に対し、ゾフルーザ群では48.0時間でした。(p<0.001)

Ÿ   ゾフルーザは、インフルエンザ関連合併症の発生頻度をプラセボに対して有意に低減しました。インフルエンザ関連合併症の発生頻度は、プラセボ群で10.4%(40/386名)に対し、ゾフルーザ群では2.8%(11/388名)でした(p<0.05)。

Ÿ   ゾフルーザの投与後に認められた主な有害事象は、下痢(2.7%)、気管支炎(2.9%)、吐き気(2.7%)、副鼻腔炎(1.9%)でした。ゾフルーザは良好な忍容性を示し、安全性上の新たな懸念はありませんでした。

Ÿ   本薬に対し感受性が低下したPA/I38アミノ酸変異株に関する情報

Ø  検出頻度について
本薬投与後に検出されたPA/I38アミノ酸変異株の検出頻度は5.2% (15/290株) でした。
インフルエンザ亜型別の解析では、A(H3N2) で9.2% (13/141株) 、A(H1N1) で5.6% (1/18株)、 B型で0.8% (1/131株)でした。

Ø  臨床症状への影響について
本薬投与後にPA/I38アミノ酸変異株が検出された患者群の罹病期間中央値は65.2時間、一方、同変異株が検出されなかった患者群の罹病期間中央値は76.8時間でした。プラセボ投与群で罹病期間中央値は100.6時間であり、同変異株の有無によらず、治療効果が確認されました。

【CAPSTONE-1 3について】

CAPSTONE-1は、リスク要因を持たない健常のインフルエンザ患者を対象に行った無作為化,多施設共同,並行群間,プラセボおよび実薬対照二重盲検比較試験で、計1,436人が登録されました。本試験においてゾフルーザは、インフルエンザ症状の罹病期間をプラセボに対して有意に短縮し(中央値:ゾフルーザ53.7時間、プラセボ80.2時間、p<0.0001)、オセルタミビルと変わらない効果を示しました(中央値:ゾフルーザ 53.4時間、オセルタミビル53.8時間)。さらに本薬は、良好な忍容性と、プラセボおよびオセルタミビルと比較して低い有害事象の発現率を示しました(有害事象発現率:ゾフルーザ20.7%、プラセボ24.6%、オセルタミビル24.8%)。

CAPSTONE-1試験ならびに第II相臨床試験の結果は、New England Journal of Medicineの2018 年9月6日号に掲載されています2

 

【ゾフルーザ®について】

塩野義製薬が創製したゾフルーザは、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害作用によりインフルエンザウイルスの増殖を抑制します。本薬は1回の経口投与で治療が完結します。ゾフルーザは非臨床試験において、オセルタミビルに耐性を示すウイルスおよび、鳥インフルエンザウイルス(H7N9, H5N1)を含むインフルエンザウイルスに抗ウイルス効果を示しました9, 10

本薬は、臨床試験にて確認された本薬に対し感受性が低下したPA/I38アミノ酸変異株についてのデータも含め、各国規制当局による審査を受け、日米を含め複数の国で承認されております。米国における詳細はXOFLUZAホームページを、PA/I38アミノ酸変異株についてはこれまでのリリース(リリース①リリース②)をご覧ください11, 12。塩野義製薬では引き続きあらゆる面から同変異株に関するデータを集積し、当局にデータを提供すると共に、学会や科学論文等を通じて最新の知見を医療関係者の皆様に提供してまいります。

Rocheグループは、1歳未満の小児またはインフルエンザ症状が重篤化した入院患者を対象としたグローバル第III相臨床試験、また本薬のインフルエンザウイルス伝播抑制効果について検証するためのグローバル第III相臨床試験を実施中です。また、当社は本薬のインフルエンザウイルス感染症の発症予防効果について検証し、第III相臨床試験における良好な有効性および安全性の結果をもとに、2019年10月16日に日本において、インフルエンザウイルス感染症予防に関する効能・効果追加申請13、2020年3月31日には台湾において成人および12歳以上の小児におけるインフルエンザウイルス感染曝露後予防に関する新薬承認追加申請を実施しております14

 

参考:

1.      Michael G. Ison, MD MS et al. Early treatment with baloxavir marboxil in high-risk adolescent and adult outpatients with uncomplicated influenza (CAPSTONE-2): a randomised, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Infect Dis 2020; published online June 8, 2020: https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30004-9

2.      米国疾病予防管理センター(CDC)インフルエンザ合併症のハイリスク患者の定義
CDC website, People at High Risk For Flu Complications

3.      プレスリリース: 2018年9月6日

抗インフルエンザウイルス薬バロキサビル マルボキシル 第II相、第III相臨床試験結果のNew England Journal of Medicine誌掲載について

4.      プレスリリース: 2018年3月14日
抗インフルエンザウイルス薬「ゾフルーザTM錠10mg・20mg」新発売のお知らせ

5.      プレスリリース: 2018年10月25日
「XOFLUZATM(一般名:バロキサビル マルボキシル)の米国における承認取得について-合併症のない急性のインフルエンザ感染症治療を適応として-」

6.      米国疾病予防管理センター(CDC)ガイドライン
CDC website, Influenza Antiviral Medications: Summary for Clinicians.

7.      プレスリリース: 2019年10月18日
抗インフルエンザウイルス薬XOFLUZATMの米国における適応追加承認について-合併症を併発するリスクが高い患者のインフルエンザウイルス感染症治療を適応として-

8.      プレスリリース: 2020年3月27日
抗インフルエンザウイルス薬XOFLUZA®の米国における顆粒剤の製造販売承認申請受理および2つの新薬承認追加申請受理について

9.      T. Noshi et al. In vitro Characterization of Baloxavir Acid, a First-in-Class Cap-dependent Endonuclease Inhibitor of the Influenza Virus Polymerase PA Subunit. Antiviral Research 2018;160:109-117

10.    K. Taniguchi et al. Inhibition of avian-origin influenza A(H7N9) virus by the novel cap-dependent endonuclease inhibitor baloxavir marboxil. Scientific Reports volume 9, Article number: 3466 (2019)

11.    プレスリリース: 2019年9月2日
抗インフルエンザウイルス薬ゾフルーザ®のPA/I38アミノ酸変異株に関する学会発表について

12.    プレスリリース: 2019年9月2日
抗インフルエンザウイルス薬ゾフルーザ®のPA/I38アミノ酸変異株検出に関する特定使用成績調査の学会発表について

13.    プレスリリース: 2019年10月16日
抗インフルエンザウイルス薬ゾフルーザ®のインフルエンザウイルス感染症予防に関する日本における効能・効果追加申請について

14.    プレスリリース: 2020年3月31日
抗インフルエンザウイルス薬「紓伏效®(ゾフルーザ®)」のインフルエンザウイルス感染症予防に関する台湾における新薬承認追加申請について