2022/10/06

自動化に適した下水中新型コロナウイルスの高感度検出技術(COPMAN法)を開発
~本技術の普及による下水疫学調査の社会実装の更なる加速に期待~

 株式会社AdvanSentinel(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:古賀 正敏、以下「AdvanSentinel社」)と塩野義製薬株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役会長兼社長CEO:手代木 功、以下「塩野義製薬」)は、北海道大学(札幌市、総長:寳金清博)大学院工学研究院の北島正章准教授と共同で、ほぼ全工程にわたる自動化が可能な下水中の新型コロナウイルスRNAの高感度検出技術(正式名称:COPMAN法)を開発しましたのでお知らせいたします。

 下水疫学調査は、不顕性感染者や軽症者も含めた集団レベルでの新型コロナウイルス感染症(以下「COVID-19」)の感染状況を効率よく把握する手法として活用されており、塩野義製薬と北海道大学は2020年10月より下水疫学調査の実用化に向けた共同研究を実施しています。日本では欧米諸国と比べて人口あたりの感染者数が少なかったことから、下水中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)濃度が比較的低く、海外で使われる従来の検出法では感度が不足し定量的な解析が困難でした。

 共同研究チームは、国内における下水疫学調査の社会実装のためには下水中のウイルスを高感度に検出できる手法の開発が必須との共通認識のもと、普及に適した高感度検出手法であるEPISENS-S法を開発しました1。さらに、全国レベルでの社会実装を実現する上で必要となる大量検体の分析が可能な自動解析体制の構築にも取り組んでおり2、このたび、自動化に適した高感度検出技術であるCOPMAN(COagulation and Proteolysis method using MAgnetic beads for detection of Nucleic acids in wastewater)法(以下、「COPMAN法」)の開発に成功いたしました。本研究成果は、2022年9月23日(金)付でScience of the Total Environment誌(環境科学の専門誌)にオンライン掲載されております(注1)。

 COPMAN法は、下水からのウイルス濃縮工程において凝集剤を使用することで迅速かつ安定的なウイルス回収を実現しており、SARS-CoV-2に限らず幅広いウイルス種に対して有効な検出法であると考えられます。COPMAN法をヒューマノイド型ロボットで実行することにより大量検体の分析が可能になるため、本技術の普及により下水疫学調査の社会実装がさらに加速することが期待されます。

 AdvanSentinel社と塩野義製薬は、北海道大学と共同で、より正確な感染状況の把握に貢献する下水疫学調査の技術開発と分析実施体制の構築に取り組んでおります。先ずは喫緊の課題である変異株を含めたCOVID-19の感染状況の把握に貢献するとともに、COVID-19にとどまらない次なるパンデミックや公衆衛生上のリスク把握などに向けたオールジャパン体制の構築を引き続き目指してまいります。
以上

【研究成果の詳細について】

 本研究で開発したCOPMAN法は、凝集剤を用いた下水検体中ウイルスの濃縮、磁気ビーズを用いたRNA抽出・精製、および逆転写-前増幅-定量PCRの工程から構成されます(図1)。公益社団法人日本水環境学会COVID-19タスクフォース「下水中の新型コロナウイルス遺伝子検出マニュアル(注2)」(以下「タスクフォースマニュアル」)で推奨されているポリエチレングリコール(PEG)沈殿法では検体の濃縮に9時間以上を要しますが、COPMAN法では凝集剤を用いることにより、わずか10分での濃縮を実現しました。さらに、RNA抽出・精製工程では、ウイルスタンパク質を分解する酵素等を含有する独自の溶解液で抽出したRNAを磁気ビーズで精製し、逆転写-前増幅-定量PCR工程では阻害耐性が高い酵素群を用いることにより下水中ウイルスRNAの確実かつ高感度な検出を可能にしました。実際に、比較的ウイルス濃度が低い都市下水(下水処理場の流入水)12検体からのウイルスRNA検出を試みたところ、タスクフォースマニュアルに記載のPEG沈殿法および限外ろ過法で濃縮し従来の定量PCRで検出した場合の検出率はそれぞれ17%(12検体中2検体陽性)および42%(12検体中5検体陽性)であったのに対し、COPMAN法では全12検体で定量検出可能であり検出感度の高さが示されました(図2)。

 また、本手法は、EPISENS-S法1と同様に、糞便中に多く含まれるトウガラシ微斑ウイルス(以下「PMMoV」)も併せて定量可能で、PMMoV濃度により新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNA濃度を正規化(糞便負荷量の変動や雨水による希釈等の影響を補正)することができます。下水中のSARS-CoV-2は大部分が固形物画分に含まれる一方で、PMMoVを含む多くのウイルスは固形物画分だけではなく液体画分にも高い割合で存在することが知られています。COPMAN法では、ウイルス濃縮工程に凝集剤を用いることにより下水中の固形物画分に加えて液体画分中のウイルスも効率良く回収することが可能であるため、固形物画分のみを分析対象とするEPISENS-S法よりもPMMoV回収量が高いことが示されました。このことから、PMMoVと同様に液体画分にも多く存在するウイルス(ノロウイルスなど)も含め幅広いウイルス種に対して有効な検出法であると考えられます(図3)。

 COPMAN法は自動化と相性の悪い遠心工程を極力排除し、自動化に適した磁気ビーズを用いた核酸精製法を採用しました。この工夫により大量検体の分析が可能になるため、本技術の普及により下水疫学調査の社会実装がさらに加速することが期待されます。

【COPMAN法で解析するためのRNA抽出キットについて】

COPMAN法で解析するための下水からのRNA抽出キットはAdvanSentinel社が販売しております。このキットでは磁気ビーズによりRNAを精製することから、手作業による処理のほか、一般的な自動磁気分離装置にも適合しており大量検体の処理も可能です。当該キットについてのお問い合わせや入手方法などは以下からご確認ください。

https://advansentinel.com/service/copman

【企業情報】

株式会社AdvanSentinelについて

 株式会社AdvanSentinelは、塩野義製薬株式会社と株式会社島津製作所により2022年1月に設立された合弁会社です3。今後、下水疫学調査が日本全国で社会実装された際には、大量のサンプルを同時に効率よく低コストで分析する必要があります。このような背景のもと、AdvanSentinel社では、ロボティック・バイオロジー・インスティテュート(RBI)社との協業により、ヒューマノイド型ロボット「まほろ」による本手法の自動分析ラインの構築をすでに実現しています。

 企業ホームページ:https://advansentinel.com/

塩野義製薬株式会社について

 塩野義製薬は、取り組むべきマテリアリティ(重要課題)として「感染症の脅威からの解放」を特定し、治療薬の研究・開発だけにとどまらず、未病・啓発・予防・診断並びに重症化抑制といった感染症のトータルケアに対する取り組みを進めています。感染症薬のリーディングカンパニーとして新型コロナウイルス感染症の早期終息による社会の安心・安全の回復に貢献するため、より多くの患者さまにヘルスケアソリューションを提供できるよう、外部パートナーとの連携を含めた取り組みを強化しています。

 企業ホームページ:https://www.shionogi.com/jp/ja/

【お問合せ先】

・AdvanSentinel お問い合わせ先:Info@advansentinel.co.jp

・塩野義製薬 ウェブサイトお問い合わせフォーム:

https://www.shionogi.com/jp/ja/quest.html#3

・北海道大学

大学院工学研究院 准教授 北島正章(きたじままさあき)

TEL 011-706-7162  メール mkitajima@eng.hokudai.ac.jp

【参考:関連するプレスリリース】

1.    北海道大学・塩野義製薬共同プレスリリース「普及に適した下⽔中新型コロナウイルスの⾼度検出技術(EPISENS-S法)を開発 〜本技術の普及による下⽔疫学調査の社会実装の加速に期待〜」

発表日:2022年8月8日 (URL:https://www.hokudai.ac.jp/news/2022/08/episens-s.html)

 

2.    北海道大学・塩野義製薬・ロボティック・バイオロジー・インスティテュート・iLAC共同プレスリリース「下水中の新型コロナウイルスの自動解析体制構築へ~ウイルス感染症流行及び変異株の早期検知・大量検査インフラの構築に期待~」

発表日:2021年3月19日、(URL https://www.shionogi.com/jp/ja/news/2021/03/210319.html)

 

3.    塩野義製薬・島津製作所共同プレスリリース「塩野義製薬と島津製作所による合弁会社「株式会社 AdvanSentinel」の設立 ~下水モニタリングを始めとする公衆衛生上のリスク評価を通じた社会課題の解決へ~」

発表日:2022年2月8日 (URL:https://www.shionogi.com/jp/ja/news/2022/2/20220208.html)

 

(注1):https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2022.158966

(注2):https://www.jswe.or.jp/aboutus/pdf/SARS-CoV-2_RNA_Detection_Manual_for_Wastewater.pdf

【参考図】

<図1:COPMAN法のプロトコルの概要>
<図1:COPMAN法のプロトコルの概要>
<図2:COPMAN法による都市下水からのSARS-CoV-2検出率および検出量の既存手法との比較>
<図2:COPMAN法による都市下水からのSARS-CoV-2検出率および検出量の既存手法との比較>
<図3:固形物・液体の両画分のウイルス検出に適したCOPMAN法>
<図3:固形物・液体の両画分のウイルス検出に適したCOPMAN法>