2023/09/19

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 エンシトレルビル フマル酸の ESWI 2023における新たな臨床データの発表について

  •  治療1年後のCOVID-19罹患後症状(Long COVID)発現リスクの低下傾向を確認
  •  重症化リスク因子を有する患者への治療選択肢としての可能性を示唆

塩野義製薬株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役会長兼社長 CEO:手代木 功、以下「塩野義製薬」または「当社」)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸(日本での製品名:ゾコーバ®錠125mg、以下「エンシトレルビル」)の新たに得られた臨床データについて、2023年9月17~20日にスペイン バレンシアで開催中の第9回 ESWI Influenza Conferenceにおいて発表することを、お知らせいたします。

 

本学会のLate-breakingセッションでポスター発表される2つの新規データの概要は以下のとおりです。

 

エンシトレルビル治療後のLong COVIDに対する効果

本発表は、当社が日本を中心にアジアで実施した第2/3相臨床試験(SCORPIO-SR Study)のPhase 3 partにおいて、発症120時間以内にエンシトレルビル1日1回5日間経口投与後1年間(3ヵ月(Day 85)、6ヵ月(Day 169)、1年(Day 337))のCOVID-19罹患後症状(後遺症、以下「Long COVID」)に対する患者の自己評価を探索的に評価した新たな結果となります。

本試験では、「COVID-19罹患前の健康状態に戻っていない」と報告した患者の中で、評価項目として設定した27の症状のうち、少なくとも1つの軽度以上の症状がある場合をLong COVIDと定義としました1

これまでの3ヵ月(Day85)、6ヵ月(Day169)時点の結果同様、エンシトレルビル 125 mg群 および 250 mg群において、治療1年後のLong COVIDの発現リスクが低下傾向を示しました(プラセボ比でそれぞれ25%および26%の相対リスク低下傾向)。特に、息切れ、集中力と思考力の低下、物忘れにおいては、治療1年後で統計的に有意な低下を示しました。またサブグループ解析の結果、27症状のいずれかを有する患者のうち、BMIが25kg/m2以上の患者および治療開始時に症状スコアが中央値以上の患者では、より顕著なLong COVIDの発現リスクの低下傾向が確認されました。

 

重症化リスク因子を有する患者への治療選択肢としての可能性

本発表は、重症化リスク因子(併存疾患、高齢者など)を有する入院患者に対する、レムデシビルからエンシトレルビルへの切り替えによる治療効果について評価した結果となります。本臨床研究では、りんくう総合医療センターが実施主体となり、3日間以上レムデシビルによる治療を受けた後、十分な抗ウイルス効果が確認されなかったCOVID-19入院患者21名に対して、エンシトレビル1 日 1 回5 日間経口投与後のウイルス学的転帰、臨床転帰、有害事象の発生を評価しました。評価対象患者の平均年齢は78.0歳であり、76.2%がワクチン接種済みで大部分の患者のCOVID-19重症度は軽症または中等症でした。また、多くの患者が併存疾患を有していました(悪性腫瘍:33.3%、腎疾患または腎不全:19.0%、全身性コルチコステロイドの使用:23.8%)。

 

エンシトレルビル治療終了の翌日までに14名(66.7%)の患者がウイルスクリアランスを達成(鼻腔内抗原量 <89.73 pg/mL)しました。そのうち2名はエンシトレルビル投与開始以降、14 日目までにウイルスのリバウンドが確認されましたが、臨床症状の発現は伴いませんでした。また、エンシトレルビル治療終了の翌日までに全ての被験者の臨床的改善が確認されました。なお、28 日目までに集中治療室(ICU)への入院、重症化および死亡した患者はなく、エンシトレビルに起因する有害事象は観察されませんでした。

 

りんくう総合医療センター 総合内科・感染症内科部長兼感染症センター長の倭 正也医師は、「重症化リスク因子を有する患者に対する治療薬は限られており、COVID-19の重症化を抑制する治療薬として、さらなる選択肢が求められます。本研究で得られた結果より、エンシトレビルがそのメディカルニーズを満たす可能性が示唆されました」と述べています。

 

塩野義製薬は、取り組むべきマテリアリティ(重要課題)として「感染症の脅威からの解放」を特定し、感染症のトータルケアの実現に向けた取り組みを進めております。エンシトレルビルの国内およびグローバル開発を加速し、さらなるエビデンスの集積に努めるとともに、各規制当局による審査等に迅速に対応してまいります。引き続き、社会の安心・安全の回復に貢献するとともに、新たな変異株の出現や今後の流行状況に合わせ、必要とされる治療薬、ワクチン等を迅速に提供できるよう、COVID-19に対する研究開発を推進してまいります。

 

以 上

 

 

【エンシトレルビル フマル酸について】

 COVID-19治療薬であるエンシトレルビルは、北海道大学と塩野義製薬の共同研究から創製された3CLプロテアーゼ阻害薬です。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は3CLプロテアーゼというウイルスの増殖に必須の酵素を有しており、エンシトレルビルは3CLプロテアーゼを選択的に阻害することで、SARS-CoV-2の増殖を抑制します。オミクロン株流行期に、重症化リスク因子の有無やワクチン接種の有無にかかわらず幅広い軽症/中等症患者を対象に実施した第2/3相臨床試験のPhase 3 partにおいて、オミクロン株に特徴的なCOVID-19の5症状に対する改善効果(主要評価項目)および抗ウイルス効果(主要な副次評価項目)が確認されています2,3。これらの結果に基づき、日本においては2022年11月に緊急承認されています4。米国においては、米国食品医薬品局(FDA)より開発の促進や審査の迅速化を目的とするファストトラック指定(Fast Track designation)を受領しています5。国内においては、6歳以上12歳未満の小児を対象とした第3相臨床試験6を開始しており、グローバルにおいては、入院を伴わないSARS-CoV-2感染患者を対象としたSCORPIO-HR試験7、入院患者を対象としたSTRIVE試験8、また、家庭内濃厚接触者を対象としたSCORPIO-PEP試験9が進行中です。

 

【Long COVIDについて】

Long COVIDは、COVID-19患者の10~20% が発症し、様々な体調不良を引き起こすとされる後遺症です10。複数の臓器系に影響を与える症状が200種類 以上確認され、世界中で少なくとも 6,500 万人にLong COVIDが発現していると推定されており、罹患者数は日々増加しています11。抗ウイルス薬がLong COVIDの発現リスクを予防または軽減できる可能性があると考えられていますが12、これまでのところ、エビデンスを明確に示した薬剤はありません。

 

 

参考:

 

1.       Fukushi A, et al. Effect of Ensitrelvir on Long COVID in Patients with Mild-to-Moderate COVID-19: A Post-Hoc Analysis of Phase 3 (SCORPIO-SR). Poster presented at 9th ESWI Conference 2023.

2.       プレスリリース:2022年9月28日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸(S-217622)の 第2/3相臨床試験 Phase 3 partにおける良好な結果について(速報)

3.       プレスリリース:2023年2月22日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 エンシトレルビル フマル酸によるウイルス力価の 早期陰性化ならびに罹患後症状(Long COVID)の発現リスクに対する低減効果について―国際学会CROI 2023において新規データを発表―

4.       プレスリリース:2022年11月22日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬「ゾコーバ®錠125mg」の緊急承認制度に基づく製造販売承認取得について

5.       プレスリリース:2023年4月4日
新型コロナウイルス感染症治療薬 エンシトレルビル フマル酸(日本での製品名:ゾコーバ®錠125mg)について米国FDAよりファストトラック指定を受領

6.       プレスリリース:2023年6月29日
塩新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸の 国内第3相臨床試験開始について‐ 6歳以上12歳未満の小児を対象とした臨床試験を開始 ‐

7.       プレスリリース:2022年3月16日
塩野義製薬とACTGによる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 S-217622のグローバル第3相臨床試験の実施について

8.       プレスリリース:2023年2月16日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 エンシトレルビル フマル酸の グローバル第3相臨床試験(STRIVE)開始について

9.       プレスリリース:2023年6月9日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸のグローバル第3相臨床試験開始について‐ COVID-19の発症抑制効果の検証を目的とした発症予防試験を開始 ‐

10.    World Health Organization. Coronavirus disease (COVID-19): Post COVID-19 condition. Accessed August 29, 2023. Available at https://www.who.int/news-room/questions-and-answers/item/coronavirus-disease-(covid-19)-post-covid-19-condition.

11.    Davis HE, McCorkell L, Vogel JM, Topol EJ. Long COVID: major findings, mechanisms and recommendations. Nature Reviews Microbiology. 2023 Mar;21(3):133-46.

12.    Lenharo M. COVID pill is first to cut short positive-test time after infection. Nature. March 3, 2023. Available at: https://doi.org/10.1038/d41586-023-00548-6.

[お問合せ先]

塩野義製薬ウェブサイト お問い合わせフォーム:

https://www.shionogi.com/jp/ja/quest.html#3.