2023/04/05

新型コロナウイルス感染症治療薬 エンシトレルビル フマル酸の 欧州臨床微生物学感染症学会議(ECCMID)における臨床試験結果の発表について

  •  エンシトレルビル投与後のCOVID-19症状の再燃は稀であり、ウイルスリバウンドに起因しない
  •  症状が軽度のみ、あるいは無症候のSARS-CoV-2感染者でも、プラセボ比でウイルス力価が陰性になるまでの時間を大幅に短縮

 塩野義製薬株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役会長兼社長 CEO:手代木 功、以下「塩野義製薬」)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸(日本での製品名:ゾコーバ®錠125mg、開発番号:S-217622、以下「エンシトレルビル」)について、第2/3相臨床試験のPhase 3 partおよびPhase 2b/3 partより得られた最新のデータを、2023年4月15~18日にデンマーク コペンハーゲンで開催される第33回 欧州臨床微生物学感染症学会議(ECCMID)にて発表します。本日、同学会のウェブサイトに2演題の要旨および発表資料が公開されましたので、概要をお知らせいたします。
 1演題目の最新ポスター発表には、エンシトレルビル投与後のウイルスのリバウンドと症状の再燃について探索的に評価したPhase 3 partの解析結果が含まれます。エンシトレルビルによる治療開始後21日までにPCR検査でウイルスRNA量のリバウンドが観察された患者の割合は、エンシトレルビル125 mg投与群(n=590)で7.8%、プラセボ群(n=574)で4.7%でした。少数の患者でRNAのリバウンドが観察された一方で、症状の再燃が観察された患者はごく少数であり、ウイルスRNAのリバウンドとは関連していませんでした。感染性を有するSARS-CoV-2ウイルス(ウイルス力価)のリバウンドは追跡調査期間中に1例低いレベルで観察されたのみであり、感染性や伝播の懸念がないことが示唆されました。

 2演題目のポスター発表には、PCR検査陽性で無作為化割付時に無症候または軽度症状のみ有するSARS-CoV-2感染者を対象に実施中のPhase 2b/3 partにおける最新の結果が含まれます。本速報は、エンシトレルビルによる治療開始後10日間追跡調査された被験者データに基づくものです。既報の軽症/中等症患者における結果1, 2と同様に、これらの対象集団においても、エンシトレルビル125 mg投与群は、投与4日目(3回投与後)のプラセボ群との比較において、ウイルスRNA量を有意に低下させました(ベースラインからの変化量のプラセボ群との差異:1.12 log10 copies/mL、p<0.0001)。また、エンシトレルビル125 mg投与群は、ウイルス力価の陰性化が最初に確認されるまでの時間をプラセボ群と比較して有意に短縮しました(力価陰性化までの時間の中央値:本薬125 mg投与群38.3時間、プラセボ群66.7時間、p<0.0001)。本試験partは探索的な位置づけであるものの、ウイルスRNA量の減少とウイルス力価陰性までの時間の短縮は、感染期間の短縮を示唆するものであり、ウイルスの伝播リスクの減少に寄与する可能性があります。

 本試験partで登録された無症候感染者の部分集団において、エンシトレルビル125 mg投与群は、プラセボ群と比較して無症候状態から症状発現に至った被験者の割合を数値的に減少させました(本薬125 mg投与群4.3% [1/23例]、プラセボ群18.2% [4/22例])。軽度症状のみを有する感染者の部分集団では、エンシトレルビル125 mg投与群は、プラセボ群と比較して軽度症状からの悪化が認められる被験者の割合を数値的に減少させました(本薬125 mg投与群17.4% [29/167例]、プラセボ群23.9% [39/163例])。本試験partにおいても、エンシトレルビルの忍容性は良好であり、新たな安全性の懸念は確認されませんでした。

 藤田医科大学 医学部 微生物学講座・感染症科の土井 洋平教授は、「COVID-19は世界中の多くの人々に影響を与え続けています。いくつかの治療薬が存在する中、患者の症状を改善し、リバウンドの発生やウイルスの伝播を抑制することができる治療薬へのニーズは依然として残っています。それは、社会がCOVID-19による混乱から回復し、人々が安心して生活できるようになるために重要なツールとなるでしょう」と述べています。
 塩野義製薬は、取り組むべきマテリアリティ(重要課題)として「感染症の脅威からの解放」を特定し、感染症のトータルケアの実現に向けた取り組みを進めております。COVID-19が長期にわたり人々の生活に大きな影響を与える中、当社はパンデミックの早期収束による社会の安心・安全の回復に貢献するために、本治療薬の有効性、安全性に関するエビデンスの集積に引き続き注力いたします。また、海外での実用化に向けた提携先との緊密な連携ならびに生産を含むグローバルサプライチェーンの強化を図り、今後も状況に変化があり次第、皆さまにお知らせし、企業としての社会的責任を果してまいります。
以 上

【エンシトレルビル フマル酸について】

 COVID-19治療薬であるエンシトレルビル(開発番号:S-217622)は、北海道大学と塩野義製薬の共同研究から創製された3CLプロテアーゼ阻害薬です。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は3CLプロテアーゼというウイルスの増殖に必須の酵素を有しており、エンシトレルビルは3CLプロテアーゼを選択的に阻害することで、SARS-CoV-2の増殖を抑制します。オミクロン株流行期に、重症化リスク因子の有無やワクチン接種の有無にかかわらず幅広い軽症/中等症患者を対象に実施した第2/3相臨床試験のPhase 3 partにおいて、オミクロン株に特徴的なCOVID-19の5症状に対する改善効果(主要評価項目)および抗ウイルス効果(主要な副次評価項目)が確認されています1, 2。これらの結果に基づき、日本においては2022年11月に緊急承認されています。米国においては、米国食品医薬品局(FDA)より開発の促進や審査の迅速化を目的とするファストトラック指定(Fast Track designation)を受領しています。現在、無症候/軽度症状のみ有するSARS-CoV-2感染者を対象としたPhase 2b/3 partを、日本を中心にアジアで実施中であり、グローバルにおいては、入院を伴わないSARS-CoV-2感染患者を対象としたSCORPIO-HR試験3、入院患者を対象としたSTRIVE試験4が進行中です。また、感染患者の同居家族を対象とした発症予防試験(SCORPIO-PEP試験)、12歳未満の小児対象試験についても実施に向けて準備を進めています。

参考:

1.      プレスリリース:2022年9月28日:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸(S-217622)の 第2/3相臨床試験 Phase 3 partにおける良好な結果について(速報)

2.      プレスリリース:2023年2月22日:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬エンシトレルビル フマル酸によるウイルス力価の早期陰性化ならびに罹患後症状(Long COVID)の発現リスクに対する低減効果について

3.      ClinicalTrials.gov:NCT05305547

4.      ClinicalTrials.gov:NCT05605093

 

 

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