~希少鳥種を鳥インフルエンザから守る~治療薬の適正使用に向けた研究者の挑戦

2023年12月25日 公開
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 塩野義製薬の創薬疾患研究所で感染症の主幹研究員として活躍する宍戸貴雄さん。抗インフルエンザウイルス薬をはじめとする感染症治療薬の研究開発に多大な貢献をしてきた。

彼が、なぜ感染症治療薬を用いた希少種の保全にも力を注いでいるのか。一見、違うフィールドに思えるこの二つが交差する瞬間について、宍戸さん自らが語ります。

希少種の保全に取り組み始めた理由

 「私の想いと会社の目指す方向性がピッタリと一致したこと、それが希少種の保全に取り組むきっかけとなりました。」宍戸さんは情熱を込めて語ります。

 

 2022年秋から翌春にかけて、日本国内で高病原性鳥インフルエンザが猛威を振るいました。この流行は多羽数飼育される養鶏場だけでなく、自然界の希少な野鳥や絶滅危惧種の存続をも脅かしました。その典型例が、鹿児島県で発見された約1500羽の病んだナベヅルやマナヅルです

 

 「確かに、"鳥にヒト用の薬を使うべきか"という葛藤はあります」と宍戸さんが言います。「しかし、鳥かヒトか、そんな選択はせず、私たちの強みを活かして命を救うことに挑戦しようと決めました。これは単なる選択ではなく、鳥もヒトも救うか、両方とも失うかの重大な決断です。」

 

 この取り組みのきっかけはそれだけではなく、絶滅危惧種を守るために人生をかける研究者や獣医師たちに対する深いリスペクトが背景にあると言います。

 

「日本には、絶滅危惧種を救おうと全力で取り組む研究者がいます。彼らは、ヒトの活動により絶滅のふちに追いやられている種を、ヒトの責任として救いたいという想いを持っています。彼らの活動を支援したい。それが、私がこのプロジェクトに情熱を注ぐもう一つの理由です。」

 

 そう語る宍戸さんは、自らの信念と専門性を活かし、会社と共に希少種の保護プロジェクトを立ち上げました。

希少鳥種が直面する鳥インフルエンザの脅威と治療の難しさ

 「高病原性鳥インフルエンザは家禽だけの病気ではありません。」実際、この病気はニワトリ以外の鳥類でも高い致死率を示すことがあり、希少種の生態系にも深刻な影響を与えることがわかっています。そのため、積極的な対策の必要性を語ってくれました。

 

 「藁をもつかむような思いで抗インフルエンザ薬の使用を試みる獣医師さんを何人も見てきましたが、そこには用法用量などの使い方がわからないという切実な問題がありました。」と宍戸さん。抗ウイルス薬は適切な用法用量で使用されてはじめて期待する効果を発揮します。さらに不適切な使用は薬への感受性が低下したウイルスを生み出すリスクがあるため、適切な啓発も必要です。

 

 「希少種の感染症対策に取り組む場合、薬だけでは不十分です。適切な施設と体制、マニュアルがあってはじめて治療薬を有効に使えます。動物園などでも、高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染が確認され、拡大を防ぐために動物を泣く泣く殺処分したケースも存在します。このような現状を何とか変えたい」と宍戸さんは力説します。

産官学が力を合わせて取り組む感染症対策とは

One Healthに向けて取り組む研究者たち
研究者たち

 感染症対策は決して単独の組織や研究者によって解決できる問題ではありません。

 

 希少種の感染症対策は複雑で、抗インフルエンザウイルス薬の適切な用量や用法を確定するには、薬物動態薬力学理論に基づいて血中薬物濃度を測定する必要があります。しかし、この測定にはコストと特殊なスキルが必要となるため、多くの研究者や施設が手を出せずにいました。

 

 このボトルネックを解消するため、宍戸さんは社内のプロジェクトメンバーとともに北海道大学のOne Health Research Centerと連携。北海道大学獣医学研究院の迫田 義博教授と共に血中薬物濃度の測定を、アカデミア主導で、かつ低コストで実施できる体制を築きました。

 

 宍戸さんはこう語ります。「生物多様性や絶滅危惧種の問題解決に、製薬企業がやらなければならないことがあることを知って欲しい。大きな課題が目の前に存在しているが、産官学の人々が力を合わせて解決に向けて一生懸命取り組んでいる。この連携が生み出すシナジーによって、希少種を守りながら、より広い範囲での感染症対策にも貢献していける。」

One Healthに向けた研究者 宍戸さんのVision

 「自分自身のやりたいことと、会社のミッションが重なる瞬間って、すごく興奮するんですよ。それが、この『希少種に対する感染症対策』でした。スタートした時は小さなプロジェクトでしたが、今は仲間も増え、ベクトルが太くなってきています。」と宍戸さん。

 

 このプロジェクトの目標は明確であり、「生物多様性を脅かす感染症に対して、関連薬の適正使用体制を確立すること」です。

 

 希少種を含む動物の感染症は、単に動物保護の問題に留まりません。徐々に増加、あるいは突如出現する動物由来感染症(人獣共通感染症)は、人間社会全体に影響を及ぼす可能性があります。その解決には産官学の多角的な協力が欠かせません。

 

 「私たちの最終目標はOne Healthです。人々だけでなく動物や生態系の健康、それらに影響を与える環境問題などを含めた地球全体の健康に配慮することが必要です。その実現のためには、希少種を思いやり生物多様性を保全していくことが不可欠です。その重要なミッションに自分が関与できること、それが最大の喜びです。」

 

 宍戸さんとSHIONOGIは、これからもOne Healthの観点から「感染症」と向き合い続けます。

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