2020/07/09

抗インフルエンザウイルス薬ゾフルーザ®(バロキサビル マルボキシル)の 第III相臨床試験(国内予防投与試験)結果の
The New England Journal of Medicine誌掲載について

塩野義製薬株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:手代木 功、以下「塩野義製薬」)は、抗インフルエンザウイルス薬バロキサビル マルボキシル(日本での製品名:ゾフルーザ®)の、家族内のインフルエンザ感染予防効果検証を目的とした、第III相臨床試験(BLOCKSTONE)1の良好な結果が、「The New England Journal of Medicine」2020年7月8日号に掲載されたことをお知らせいたします。

 

インフルエンザウイルス感染症患者のいる家族または共同生活者(以下、被験者)に被検薬を投与したときの投与後10日の間にインフルエンザウイルスに感染し、発熱かつ呼吸器症状を発現した被験者の割合を主要評価項目としたBLOCKSTONEにおいて、バロキサビル マルボキシル投与群は、プラセボ投与群と比較して、有意にインフルエンザウイルス感染症の発症割合を低下させました。本薬の予防効果は、重症化およびインフルエンザ関連合併症を併発するリスクの高い被験者(糖尿病、喘息または慢性肺疾患、心疾患などの基礎疾患を有する患者、5歳以下の小児、65歳以上の高齢者など)2、12歳未満の小児被験者、被験者のワクチン接種の有無に関わらず確認されました。安全性に関しては、本薬は良好な忍容性を示し、安全性上の新たな懸念はありませんでした。

 

本論文の筆頭著者である株式会社リチェルカクリニカ代表であり臨床内科医会インフルエンザサーベイランスの試験責任者である池松秀之先生は、「BLOCKSTONEは、インフルエンザ感染拡大の中心となる家族内感染において強力にインフルエンザ感染を抑制することを明確に示しました。バロキサビル マルボキシルの強いウイルス増殖抑制効果が、感染および自覚症状がない感染者での発症抑制に反映されていると考えられます。予防が必要とされるハイリスク因子の保有者や、医療従事者など感染による大きな影響が懸念される人々にとって、バロキサビル マルボキシルは1つの選択肢として大きな福音となると思われます。」と述べられています。

 

ゾフルーザ®は、12歳以上の健常のインフルエンザウイルス感染症患者を対象としたグローバル第III相臨床試験(CAPSTONE-1)3、インフルエンザ関連合併症を発症するリスクが高い患者を対象としたグローバル第III相臨床試験(CAPSTONE-2)4において良好な結果を示しており、患者のリスク要因の有無によらず、インフルエンザウイルス感染症の治療に貢献しています。BLOCKSTONEの結果は、本薬がインフルエンザウイルス感染症の治療だけでなく、予防においても効果を発揮することを示すものです。

 

本薬の開発および販売は、現在Rocheグループとの提携下で進めており、日本と台湾における販売は塩野義製薬が、それ以外の国ではRocheグループが行います。ゾフルーザは、日本、米国含む複数の国々でインフルエンザウイルス感染症の治療薬として承認されており、インフルエンザウイルス感染症の治療に貢献しています。現在、日本、台湾では、インフルエンザウイルス感染症の予防に関して適応追加の申請中です5, 6。米国では、経口懸濁用顆粒剤の製造販売承認申請と「1歳以上12歳未満の合併症のない急性のインフルエンザウイルス感染症治療」および「1歳以上のインフルエンザウイルス感染曝露後予防」を適応とした新薬承認追加申請を実施し、FDAから受理されており、FDAの審査終了目標日(PDUFA date)は2020年11月23日です7

 

塩野義製薬は、取り組むべき重要課題(マテリアリティ)として「感染症の脅威からの解放」を特定し、治療薬の研究・開発だけにとどまらず、啓発・予防・診断ならびに重症化抑制といった感染症のトータルケアに対する取り組みを進めております。引き続き本薬の有効性、安全性に関するデータの収集と解析に鋭意取り組み、適正使用に向けた情報提供活動に努めてまいります。

 

なお、本件が2021年3月期連結業績に与える影響は軽微です。

 

 

【BLOCKSTONE1試験について】

BLOCKSTONE試験は、インフルエンザ初発患者の同居家族または共同生活者(被験者)を対象に実施した、多施設共同、無作為化、プラセボ対照二重盲検比較の試験です。本試験の主要評価項目は投与後10日間における、インフルエンザウイルスに感染し、発熱かつ呼吸器症状を有する被験者の割合です。インフルエンザを発症した患者の割合は、ゾフルーザ投与患者で1.9% (7/374)、プラセボ投与患者では13.6% (51/375)であり、ゾフルーザは同一世帯内感染を有意に減少させることが示されました(プラセボに対して86%減少、p<0.0001)。

 

また、サブグループ解析により、下記の結果が得られました。

・      重症化およびインフルエンザ合併症を起こしやすいリスク要因をもつ被験者において、ゾフルーザはプラセボに対し発症抑制効果を示しました(2.2%[1/46例] vs 15.4%[8/52例])。

・      12歳未満の小児において、ゾフルーザはプラセボに対し発症抑制効果を示しました(4.2% [3/71例] vs 15.5%[21/124例])。

・      インフルエンザウイルスの亜型別に解析した結果、A/H1N1pdm型及びA/H3型の両方において、ゾフルーザはプラセボに対し発症抑制効果を示しました(A/HIN1pdm型:1.1%[2/176例] vs 10.6%[19/180例]、A/H3型:2.8%[5/181例]vs 17.5%[32/183例])。

・      ワクチン接種の有無に関わらず、ゾフルーザはプラセボに対し発症抑制効果を示しました(ワクチン接種有り:2.3%[3/131例]vs 16.9%[21/124例]、ワクチン接種無し:1.6%[4/243例]vs 12.0%[30/251例])。

 

主な副次評価項目について、下記の結果が得られました。

・      インフルエンザウイルスに感染し、発熱または呼吸器症状を発現した被験者の割合は、ゾフルーザ投与群で5.3%(20/374例)、プラセボ投与群で22.4%(84/375例)であり、ゾフルーザの投与により、インフルエンザウイルス感染症の発症割合はプラセボ群に対し76%減少しました。

・      有害事象の発現率は、ゾフルーザ投与群とプラセボ投与群でそれぞれ22.2%と20.5%でした。また、ゾフルーザ投与群において重篤な有害事象の発現は認められませんでした。

・      本薬に対し感受性が低下したアミノ酸変異株に関する情報は以下の通りです。
ゾフルーザ投与群では、本薬投与後にPA/I38アミノ酸変異株が10/374例(2.7%)、PA/E23アミノ酸変異株が5/374例(1.3%)検出されました。

また、PA/I38アミノ酸変異株が検出された10例のうち医師の判断で4例にノイラミニダーゼ阻害薬(NAI)が投与され、PA/E23アミノ酸変異株が検出された5例のうち医師の判断で2例にNAI、1例にゾフルーザが投与されています。発熱などの症状が確認された全ての被験者は、抗インフルエンザウイルス薬投与の有無に関わらず問題なく回復しました。

 

【ゾフルーザ®について】

塩野義製薬が創製したゾフルーザは、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害作用によりインフルエンザウイルスの増殖を抑制します。本薬は1回の経口投与で治療が完結します。ゾフルーザは非臨床試験において、オセルタミビルに耐性を示すウイルスおよび、鳥インフルエンザウイルス(H7N9, H5N1)を含むインフルエンザウイルスに抗ウイルス効果を示しました8, 9

本薬は、臨床試験にて確認された本薬に対し感受性が低下したPA/I38アミノ酸変異株についてのデータも含め、各国規制当局による審査を受け、日米を含め複数の国で承認されております。米国における詳細はXOFLUZAホームページを、PA/I38アミノ酸変異株についてはこれまでのリリース(リリース①リリース②)をご覧ください10, 11。塩野義製薬はRocheグループと連携し、引き続きあらゆる面から同変異株に関するデータを集積し、当局にデータを提供すると共に、学会や科学論文等を通じて最新の知見を医療関係者の皆様に提供してまいります

Rocheグループは、1歳未満の小児またはインフルエンザ症状が重篤化した入院患者を対象としたグローバル第III相臨床試験、また本薬のインフルエンザウイルス伝播抑制効果について検証するためのグローバル第III相臨床試験を実施中です。

 

参考:

1.      Hideyuki Ikematsu, MD et al. Baloxavir Marboxil for Prophylaxis against Influenza in Household Contacts. N Engl J Med 2020 Jul 8 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1915341

2.      米国疾病予防管理センター(CDC)インフルエンザ合併症のハイリスク患者の定義
CDC website, People at High Risk For Flu Complications

3.      プレスリリース: 2018年9月6日

抗インフルエンザウイルス薬バロキサビル マルボキシル 第II相、第III相臨床試験結果のNew England Journal of Medicine誌掲載について

4.      プレスリリース: 2020年6月9日

抗インフルエンザウイルス薬ゾフルーザ®(バロキサビル マルボキシル)ハイリスク患者を対象とした第III相臨床試験結果のThe Lancet Infectious Diseases誌掲載について

5.      プレスリリース: 2019年10月16日
抗インフルエンザウイルス薬ゾフルーザ®のインフルエンザウイルス感染症予防に関する日本における効能・効果追加申請について

6.      プレスリリース: 2020年3月31日
抗インフルエンザウイルス薬「紓伏效®(ゾフルーザ®)」のインフルエンザウイルス感染症予防に関する台湾における新薬承認追加申請について

7.      プレスリリース: 2020年3月27日
抗インフルエンザウイルス薬XOFLUZA®の米国における顆粒剤の製造販売承認申請受理および2つの新薬承認追加申請受理について

8.      T. Noshi et al. In vitro Characterization of Baloxavir Acid, a First-in-Class Cap-dependent Endonuclease Inhibitor of the Influenza Virus Polymerase PA Subunit. Antiviral Research 2018;160:109-117

9.      K. Taniguchi et al. Inhibition of avian-origin influenza A(H7N9) virus by the novel cap-dependent endonuclease inhibitor baloxavir marboxil. Scientific Reports volume 9, Article number: 3466 (2019)

10.    プレスリリース: 2019年9月2日
抗インフルエンザウイルス薬ゾフルーザ®のPA/I38アミノ酸変異株に関する学会発表について

11.    プレスリリース: 2019年9月2日
抗インフルエンザウイルス薬ゾフルーザ®のPA/I38アミノ酸変異株検出に関する特定使用成績調査の学会発表について