「資源循環プロジェクト」にSHIONOGIがチャレンジする意義 ~ラベル台紙の水平リサイクルを全産業に広げたい~

2024年4月9日公開
ラベル台紙の水平リサイクル実現に向けた「資源循環プロジェクト」に参画し、2022年4月より実証実験に取り組んできたシオノギファーマ。2023年3月より、アンプル注射剤用のラベル9品目を水平リサイクルが可能なラベル台紙を商用生産として初めて適用し、使用済みラベル台紙の回収を開始しました。初期からプロジェクトに携わりサステイナブルな社会の実現を目指すシオノギファーマの古島健太郎さんに、プロジェクト参画への思いや今後の展開についてお話を伺いました。
シオノギファーマの古島健太郎さん

上流から下流までプロジェクト内でリサイクル。だからこそ責任と価値ある取り組みに

──ラベル台紙の水平リサイクルプロジェクトについてお聞かせいただけますか。

今回のプロジェクトでリサイクルするのは、ラベルではなくラベルの台紙(剥離紙)です。ラベルの製造・使用には台紙がセットで必要となります。医薬品業界でも医薬品用ラベルは重要な表示材料ですが、その台紙の多くは資源として回収・リサイクルされず、廃棄・焼却されています。すなわち、製造したラベルと同じ量だけ廃棄される台紙が発生するわけです。商品にラベルを貼り付ける製造工程で剥がされて廃棄されているラベル台紙の使用量は、国内の製造業全体で年間13.9 億㎡(東京ドーム約3万個分)にもなると言われています。

▲プロジェクトリーダーの古島健太郎さん(左)、ディレクターの福島厚志さん(右)
▲プロジェクトリーダーの古島健太郎さん(左)、ディレクターの福島厚志さん(右)
台紙がこれまでリサイクルされていなかった理由は、一般的な台紙は紙からできているものの、ラベルの糊面と剥がしやすくするために、台紙の表面にプラスチックやシリコンなどがコーティングされているためです。このため、回収しても異物が混ざってしまうことでリサイクルが難しいとされています。
▲従来のラベル台紙とリサイクル専用台紙の違い
▲従来のラベル台紙とリサイクル専用台紙の違い
「資源循環プロジェクト」は、これまで廃棄されていたラベル台紙を再生PET原料を25%以上使用したプラスチック製のフィルム「リサイクル専用台紙」に切り替えることで、ペットボトルと同じように回収・再利用して資源として循環させ、なおかつ工場で発生するラベル台紙の廃棄をゼロにする新しい取り組みです。

──水平リサイクルとは?

水平リサイクルというのは、使用した製品をもう一度原料に戻し、同じ用途で使うためにリサイクルして循環する方法です。例えば、ペットボトルも最近はペットボトルからペットボトルをつくる水平リサイクルが進んできていますね。「資源循環プロジェクト」における水平リサイクルとは、現在工場で回収している使用済みの「リサイクル専用台紙」を新しい台紙の原材料として100%すべてリサイクルし、もう一度台紙として生まれ変わらせること、これによって資源が循環していきます。

──資源循環プロジェクトのスキームについて教えてください。

資源循環プロジェクトでは、製品を生み出す“上流”の機能と、その廃棄物を回収してリサイクルを行う“下流”の機能の両方がすでに確立されています。上流側では、まず「リサイクル専用台紙」の元となるフィルムを製造し、そのフィルムに粘着剤を塗ってラベルの表面基材と貼り合わせます。そして、そのラベル表面に印刷を施したり、ラベルの形状にカットしたりして、ラベルとその台紙がシオノギファーマなどのラベルユーザーに届きます。

 

ラベルを貼り付けた製品は皆さんの手元に届ける一方で、下流では工場で剥がされた「リサイクル専用台紙」を専用の回収ボックスに回収していきます。一定量貯まったら、ヤマトグループの物流網を活用し全国からリサイクル工場へと運び、マテリアルリサイクルを行います。マテリアルリサイクルの工程では、異物などを取り除きながら細かくカットしたフレーク状の「リサイクル専用台紙」を高熱で溶かした後、ペレット(小さな樹脂のかたまり)にしていきます。このペレットを原材料の一部として再びフィルムを製造する、このループが繰り返されることがプロジェクトスキームの全容です。

最初にこのプロジェクトのお話を聞いたときには、上流と下流とも自分たちのプロジェクトで責任を持って推進していく姿勢に、大きな感銘を受けました。「使用された製品を新たな資源と捉え新たな製品を生み出す流れ」、これを自分たちで構築し、循環させていくことができるということは、サステイナビリティを考える上でもとても価値があることだと思っています。
▲資源循環プロジェクト水平リサイクルの概念図
▲資源循環プロジェクト水平リサイクルの概念図

他のチームの協力や言葉が推進力に

──ラベル台紙の水平リサイクル実証化プロジェクトに関わることとなった経緯についてお聞かせください。

2021年6月、大阪で開催された「第1回 関西サステナブルマテリアル展」に調査に行ったとき、環境関連事業などについて出展していた日榮新化さんにこのお話を伺い、目から鱗が落ちました。これまで私が所属する部門では、医薬品容器や包装材料の設計開発を担っていましたが、工場で排出されていた廃棄物に目を向けることもなく、全く新しい視点に感じました。その後、プロジェクト代表の日榮新化/本池さんからプロジェクト体制の詳細を伺い、「ぜひサプライチェーンを担う各社で協力して共同開発しましょう」と意気投合、プロジェクトの連携体制構築のスタート段階から携わることとなりました。 
パートナーシップの構築については、共同開発契約の締結段階で各社の意見が折り合わず、議論がストップしたことも。ただ、各社異なる文化・背景があれど「環境にいいことをやろう」という信念は常に同じ方向を向いていたので、最終的には一丸となって社内外の障壁を一つひとつ乗り越え、2022年4月から実証実験をスタートするに至りました。
▲「資源循環プロジェクト」参画団体メンバー
▲「資源循環プロジェクト」参画団体メンバー

──古島さんご自身も、プロジェクトへの強い関心をお持ちだったのでしょうか。

私は修士課程のときに人工血管の研究をしていたこともあり、「ヘルスケアに関わるような仕事がしたい」と思って塩野義製薬に入社しました。大学では高分子化学を専攻していたので、プラスチック(高分子)を循環させていく今回のプロジェクトにおいて、私自身のバックグラウンドとも一致していました。そのため、実証実験において様々な技術開発を進める中でこれらの知識にたくさん助けられました。

──本プロジェクトの最大の課題は何でしたか。また、どのように乗り越えましたか?

2022年4月から実証実験をスタートし、実用化するまでに実に1年かかりました。この理由の一つとして、ラベル台紙の材質を紙からプラスチック製の「リサイクル専用台紙」に変えるため、工場の生産設備の最適化にかなり時間がかかりましたね。材質が変わることでフィルム物性(伸びや滑り具合)、光の透過率が変わるので、ラベルを貼るためのラベラーに設置されているセンサーの調整やその他に生産するために必要な設定値をすべて見直すことが必要でした。

 

もう一つの理由としては、実際の生産ラインを使って実験するので、当たり前ですが製品の安定供給が第一優先です。実験したい思いに駆られながら、生産の都合で2カ月ぐらい実験ができない時期もありました。

実証実験では、主に摂津工場 製造第二のチームメンバーが通常生産の合間を縫ってテストに協力してくれました。何か新しいことにチャレンジするときには、やはりリスクが伴いますので「そのままでいいのでは」という空気感が生まれることも多々あると思います。ただ、このプロジェクトを進める中では、むしろ製造現場の責任者である西村さんや現場のメンバーから、この変更に対して積極的に「変えよう!」と好意的な言葉をもらいました。チーム全員が信念をもって様々な課題に前向きに取り組んだことも「推進力」になってこの実証実験をやり抜くことができました。

▲摂津工場 製造第二チーム責任者の西村さん(アンプルラベル貼付装置(ラベラー)の前での写真)
▲摂津工場 製造第二チーム責任者の西村さん(アンプルラベル貼付装置(ラベラー)の前での写真)

──プロジェクトを通して印象的なエピソードはありますか。

去年、SHIONOGIグループの中で賞をいただいたのですが、廃棄物の担当をしているEHS(環境・衛生・安全)のチームメンバーの受賞コメントが今でも印象に残っています。「これまでお金を払って廃棄していたものが、プロジェクトによって有価物で回収してもらえるなんて、本当に夢のようなことです。」

 

工場では日ごろからたくさんの廃棄物が発生しています。このプロジェクトで減らせる廃棄物は決して多くはないですが、廃棄物が価値のある有価物になったということはシオノギファーマとしても大きな意味になります。

▲ラベル台紙の回収BOX
▲ラベル台紙の回収BOX

全産業で資源循環を回していくために、リーダー企業として

──アンプル注射剤用のラベルに循環型の水平リサイクルスキームを適用したことでどのような貢献をされたのでしょうか。

SHIONOGIグループの廃棄物発生量の削減が約0.5㌧/年(500mlペットボトル1万8千本に相当:PETボトルリサイクル推進協議会、2022年度)、CO₂排出量の削減も約0.5㌧/年(年間で吸収する杉の木約57本に相当:林野庁)を見込んでおり、SHIONOGIグループのマテリアリティ「環境への配慮」に対して継続的に貢献していきます。 
▲従来のラベル台紙と新ラベル台紙の比較
▲従来のラベル台紙と新ラベル台紙の比較
CO₂排出量の削減を評価する上では、ライフサイクルアセスメントと呼ばれる手法を用いて計算しています。今回の「リサイクル専用台紙」のケースであれば、製品を生み出すときにリサイクルした原料を使用すること、つまり新たに石油を使わない分が、CO₂排出量の削減に繋がっています。 
製品・サービスのライフサイクル全体(原料の調達から製造、流通、使用、廃棄・リサイクル:「製品のゆりかごから墓場まで」といわれている)における投入資源、環境負荷、それらによる地球や生態系への環境影響を定量的に評価する方法。三井物産が運営する脱炭素プラットフォーム「LCA Plus」を用いて算出した。

──資源循環プロジェクトに関わるシオノギファーマの意義は?

医薬品業界は、医薬品の品質を保つためにリサイクルがしにくい素材が組み合わさった複合材料が使用されていたり、承認申請書で材質が決められていたりすることもあり、なかなか取り組みが進んでいない背景がありました。そのような中でシオノギファーマが最初にプロジェクトに参画したことには大きな意義があると思っています。
さまざまなモノにラベルが貼り付けられていることから分かるように、どんな業界でもラベルは使われています。廃棄物やCO2の排出は、シオノギファーマ1社で大きく減らすことは難しいです。そのため、資源循環プロジェクトのリサイクルの輪を全産業に拡大し、みんなでこれらを減らしていくことが重要です。仮にラベルを使う全ての企業がこのエコシステムに参画すれば、廃棄されている台紙およそ年14億㎡の廃棄をゼロにできますので、非常に波及性が高い取り組みだと思っています。

最終ビジョンは「ラベル台紙はリサイクルするのが当たり前の世界」になること

──他のラベル用途に「資源循環プロジェクト」スキームを展開するご予定はありますか。

アンプルラベル以外への展開については、出荷用の梱包箱ラベルに対して資源循環プロジェクト対応品に適用するラベルに変更することが決まりまして、2024年度から展開する予定です。

 

他には、例えば工程管理用ラベルにも展開することを考えています。どういったものかというと、製造工程を進めるにあたって、原料や資材などを倉庫に入れますが、その管理のために工場内でラベルを印刷して使用します。このように製品に使用されないところでも、ラベルがたくさん使用されており、同時に台紙が廃棄されています。

──今後達成したい長期的な目標やビジョンについてお聞かせください。

「ラベル台紙はリサイクルするのが当たり前」という社会を実現するのが、このプロジェクトの最終のビジョンですね。

SHIONOGIグループとしては、2023年にエコファースト企業に認定されましたが、その理由の一つとして「資源循環プロジェクト」の取り組みを挙げていただきました。一つひとつの地道な取り組みが、グループ全体の「環境配慮に取り組む」という積極的な姿勢につながり、それが医薬品業界全体、ひいては製造業全体にもっと広がればうれしいです。

 

当プロジェクトには、さまざまな業界が参画表明し、広がりを見せています。また、2024年4月にマテリアルリサイクル工程が稼働し、本格的な資源循環がスタートしました。

廃棄物やCO2排出量などの課題は、日々の積み重ねの結果であり、今できる取り組みが数十年先の地球環境に影響してきます。サステイナブルな社会の実現を目指し、これからも行動し続けます。(参画企業・団体数は28:2024年3月時点)

※本記事掲載の情報は、取材当時のものです。
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