「抗菌薬原薬、作るのは我々だ」使命感が結束を生み、チーム一丸となって国内安定供給を目指す

2025年4月11日公開
抗菌薬は、手術時を含めた感染症治療に欠かせない医薬品です。しかし現在、日本では、抗菌薬の活性成分である「原薬(抗菌薬原薬)」の原料を中国からの輸入に依存している一面があります。国内の安定供給のために国産化が急務とされる中、岩手県にあるシオノギファーマ金ケ崎工場では、抗菌薬の原薬製造に向けた取り組みが始まっています。「我々がやらなければ誰がやる」という使命感のもと、日々奮闘する現場の声を、製造を担当する及川春樹さんに聞きました。

「我々がやらなければ誰がやる」使命感を原動力に

――金ケ崎工場でのお仕事について教えてください。

金ケ崎工場では抗菌薬の製造を行っています。私はその中でもカルバペネム系の抗菌薬の製造に携わっています。抗菌薬は感染症の治療だけでなく、手術時の感染予防など様々な場面で使われる重要な薬剤です。しかし、現在の抗菌薬原薬の生産は大部分が海外に依存していて、これが国内供給の不安定さにつながっています。

 

2019年、ある抗菌薬原薬の国内供給が長期にわたって滞ったことで、複数の製薬会社の供給網に混乱が生じ、全国の病院で手術や治療の中止・延期が相次ぎ、医療現場は深刻な影響を受けました。抗菌薬は同じソースの原薬から多くの種類の医薬品が作られているため、一つの原薬が不足すると、何十という医薬品が品薄になるのです。そういった事態が二度と起きないよう、現在は抗菌薬原薬の国産化が進められており、私たち金ケ崎工場でもその取り組みを進めています。

――金ヶ崎工場での抗菌薬原薬製造が決まったとき、どう思いましたか。

突然の話だったのでやはり驚きました。しかし、金ケ崎工場の特色として、抗菌薬やがん性疼痛治療薬を長年造り続けてきた実績があります。それは私たちの強みであり、誇りでもある。ですから、次第に「自分たちがやらなければ誰がやる」という思いが湧いてきました。それは皆も同じだったようで、すぐに「シオノギファーマとして抗菌薬の国産化に名乗りを上げたなら、造るのは私たち金ケ崎工場だ。頑張ってやるしかない」という雰囲気が形成されていきました。

――製造部門としてどのような瞬間にやりがいを感じますか。

患者さまの声を直接聞く機会は少ないのですが、先日「思いを繋ぐプロジェクト」という社内の取り組みがあり、MR(医薬情報担当者)を通じて医療従事者や患者さま、その家族の方々の声を聞く機会がありました。私たちが作っている薬が世の中に貢献できていることを実感し、仕事の意義を強く感じました。

 

また、個人的な話になりますが、最近家族が手術をしたときにも、術後の感染症予防として抗菌薬が使われていました。そういった身近な人を通じても、自分たちの仕事の重要性を再認識することがありました。

厳格な管理もチームワークで完遂する

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――抗菌薬の製造には特に厳しい管理が必要だと聞きました。

抗菌薬はアレルギー反応を引き起こす可能性があり、他の医薬品にわずかでも混入すると意図しない副作用を生じるリスクがあります。そのため、クロスコンタミネーション(交叉汚染)の防止が非常に重要です。同じ敷地内で抗菌薬とそれ以外の医薬品を製造しているため、工場内での動線や設備を分離し、交わらないようにしています。環境面でも、抗菌薬が外部環境に出てしまうと耐性菌が生じる可能性があるため、AMR(薬剤耐性)対策として、抗菌薬が工場外に出ないよう厳しく管理しています。

 

また、国内の医薬品基準に準拠することはもちろん、アメリカやヨーロッパの基準にも対応できるよう世界基準をクリアしなければなりません。ですから、作業工程も非常に厳格で、作業着の着替え一つとっても、何段階ものステップがあり、細かく管理されています。

――技術的な課題はありましたか。

抗菌薬原薬の製造は技術的にハードルが高いものなので、ノウハウを持った人材が少ないという課題があります。そこで現在は富山県の高岡研究所との連携を進め、原薬のもとになる物質の生成技術を学んでいるところです。研究開発部門と製造部門で密にコミュニケーションを取り、生産体制の整備や環境構築を並行して進めています。試行錯誤の連続ですが、チーム一丸となって取り組んでいます。

――現場ではどのような工夫をしているのですか。

既存の医薬品も作り続けなければならない中での、新たな取り組みですから、マルチスキルの習得に力を入れています。金ケ崎工場の抗菌薬製造部門は5つの建物に分かれていますが、自分の所属する建屋だけでなく、他の製造建屋へ行って一緒に製造するなど、どの建屋でも動けるよう、柔軟に対応できる体制を整えています。抗菌薬製造部門は一つの「抗菌薬チーム」としてコミュニケーションを図りながら、日々生産を続けています。

――チームワークが求められますね。

全社的に風通しがよい社風のおかげで、先輩から若い人へのノウハウの継承はしっかりと行われています。どんなに機械化されたラインでも、結局は人が動かすものなので、経験やノウハウの共有は非常に重要です。最近、会場を貸し切って、大規模な忘年会を開催したんですよ。このような機会も活用しさまざまな形で、チームの結束力を高めています。

持続可能な抗菌薬生産のために

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――グローバル化が進む世界で、これからどのような強みを打ち出していきますか。

品質面には自信を持っています。また、持続的な生産のためにはコスト面での工夫も必要です。今後はAIやDXを活用した生産体制の確立や省人化に取り組んでいく予定です。また、連続生産方式も取り入れながら、より効率的な生産を目指しています。

 

ただ、抗菌薬原薬の国産化は企業努力だけでは難しい面もあります。国と二人三脚で歩み、企業努力でどうしてもカバーしきれない部分は支援いただくことも重要です。最終的には継続的に抗菌薬を供給し続け、適正な価格で患者さまに届けることが私たちの使命だと考えています。

 

私たちが製造している抗菌薬は、多くの方の命を守るために欠かせないものです。確実に届けられるよう、これからも安定供給に努めていきます。金ケ崎工場の抗菌薬製造の取り組みを通じて、少しでも社会に貢献できれば嬉しいです。

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