
「絶対に無理だ」と思った1年――台湾の子どもたちに、薬が届くまで
会社での成長や活躍において、定年を区切りにしない。塩野義製薬は今、その考えのもとで従業員の働き方を変えようとしています。2027年4月に予定されている人事制度改定では、定年を60歳から65歳へ延長した上で、65歳以降も本人と会社双方の意思が合えば働き続けられる仕組みを設けます。あわせて、退職給付制度の改定や従業員への株式付与も予定しています。
定年の壁が取り払われると、「結局、何歳まで働けばいいのか」。そう感じる人もいるかもしれません。今回の人事制度改定は、単に働く期間が長くなるということではありません。長く働くことができる選択肢が増えるからこそ、これからどのように働き、どのような人生を送りたいのかを、一人ひとりがより主体的に考えていくことが大切になります。そうした意味でも、定年延長は、従業員が自分自身のキャリアを改めて考えるきっかけになるのではないかと思います。
今回の改定で具体的に何が変わるのでしょうか。また、その背景にはどのような考え方があるのでしょうか。改定のプロジェクトメンバーの一人である髙橋直也さん(人事部国内制度・採用グループ)は、2016年入社の30代。定年を自分のこととして考えるには、まだ早く見える世代です。制度をつくる側であり、同時にこの制度の影響を受ける従業員の一人でもある髙橋さんにお話を伺いました。
――髙橋さんのこれまでの経歴と、現在の業務を教えてください。
髙橋:2016年に新卒で入社し、MR(医薬情報担当者)として、塩野義製薬での歩みをスタートしました。もともとコーポレート系の業務に興味があり、2021年に社内公募で手を挙げて広報部IRグループ(株主・投資家の窓口)に移りました。決算開示や投資家との面談など、MR時代には経験できなかった仕事を任せてもらい、経営に近い視点で物事を見る力がついたと感じています。そのような中で、SHIONOGIグループの更なる成長のために、人と組織の成長を支える仕事がしたいと、2025年に二度目の社内公募で人事部に異動しました。現在は国内制度・採用グループの国内制度チームで、国内人事制度の運用や改定の立案、会社統合に伴う制度移行などを担当しています。
塩野義製薬には、社内公募を通じて従業員自身によるキャリア形成のための挑戦を後押ししてきた歴史があります。私自身、この仕組みを使って、やりたい仕事に挑戦する機会を得た一人です。とはいえ、異動を重ねる人ばかりではありません。一つの領域で専門性を磨き続ける人もいれば、複数の仕事を経験し視野と能力を高める人もいます。会社が画一的なキャリアを示すのではなく、一人ひとりが自分らしいキャリアを考え、自ら選択していける環境を整えることが、人事部の大切な役割だと考えています。そのためには、年齢によって挑戦や活躍の機会が狭くならないことも重要です。今回の改定も、年齢に関わらず、一人ひとりが自らの意思でキャリアを考え、選択していける環境をさらに整えていくためのものです。
――今回の人事制度改定は、どのような考え方から生まれたのでしょうか。
髙橋:人事部では以前から、多様な人材が自分らしく力を発揮できる環境づくりを続けてきました。フレックスタイム制を導入し、一人ひとりが柔軟に働ける環境を整えるとともに、副業や選択週休3日制を導入するなど、働き方の選択肢を広げてきました。
処遇の面では、2023年に評価・等級制度を改定し、それにあわせて等級の再格付けも行いました。年齢や勤続年数ではなく、担う役割や発揮した力に応じて評価・処遇する仕組みとし、その結果に応じて昇グレード・降グレードを行います。単年での昇グレードも可能で、実際に、30代半ばのマネジャーも以前より誕生しやすくなりました。
今回の改定も、従業員の成長機会を制約するものを一つずつ取り除いてきた流れの延長線上にあります。そして今回、新たに取り除こうとしている制約が「年齢」です。何か課題を解決するためというより、これまで積み重ねてきた取り組みをさらに発展させていくための改定です。
――事業のグローバル化や会社統合とも関係しているのでしょうか。
はい。定年延長を単独で捉えているわけではなく、今回進めている一連の人事制度の改定は、すべて塩野義製薬を含めたSHIONOGIグループの「2030年Vision」の達成、そしてその先の持続的な成長に向けた人材・組織基盤づくりの一環です。
今後、SHIONOGIグループがさらにグローバルに事業を展開し、国内外を問わず多様な人材が活躍していくためには、年齢や所属する会社、国籍といった違いにかかわらず、一人ひとりの役割や能力を活かせる環境を整えていく必要があります。定年延長もその一つで、年齢だけを理由に活躍の機会を区切るのではなく、意欲や能力のある人がより長く力を発揮できる仕組みにしていくという考えです。
同時に、グローバルでの人材活用を進めるため、等級・評価・報酬については、各国の法律や雇用慣行を踏まえながら、グループ内で共通の考え方や尺度を持つことが重要になります。国を越えて人が移動し、適した場所で力を発揮できるような仕組みを整えていきたいと考えています。
国内では、M&A後の会社統合によって、これまで異なる制度のもとで働いてきた人たちが塩野義製薬に合流します。そのため、元々所属していた会社によって、処遇や活躍の機会に差が生じることのないよう、人事制度の統合も進めています。
定年延長、グローバル化への対応、会社統合に伴う制度統合は、それぞれ独立した取り組みではありません。多様な人材が力を発揮し、SHIONOGIグループの成長につなげていくための、一連の人事制度改革だと考えています。
――ここからは制度改定の中身を伺います。まず、定年延長と65歳以降の働き方について、現時点で決まっていることを教えてください。
髙橋:2027年4月に、現在の60歳定年を65歳へ延長します。60歳で定年を迎えたのち再雇用契約に切り替わり、処遇水準が大きく下がる仕組みを廃止し、正社員として65歳まで働き続けられるようにします。
65歳以降についても、本人と会社、双方の意思が合えば、業務成果に基づき、年齢上限を設けず就業を継続できる仕組みを設けます。65歳以降は1年ごとの更新を想定していますが、具体的な雇用条件や更新の基準、処遇は、これから詰めていく段階です。ただ、一部の限られた人だけが契約延長できるような制度にするつもりはありません。
私たちが「実質的な定年廃止」と説明しているのは、年齢だけを理由に雇用が閉ざされるという「壁」を取り除く、という意味です。一方で、65歳まで働くことをすべての従業員に求める制度ではありません。今回の制度改定はあくまで、キャリアの選択肢を増やすためのものです。
長い人生のなかでは、ある時期には家庭を優先したり、ある時期には仕事を優先したりなど、働き方を変えたりすることもあります。長い時間軸で考えると、一時的に仕事の比重を変えながらも、再び力を発揮するなど、柔軟なキャリアの描き方も可能になります。そのためには会社は「ここで働き続けたい」と思ってもらえる環境をつくる努力が必要ですし、従業員は自分の専門性や力を磨き続けることが大切です。
――60歳以降の働き方は、どのような形を想定していますか。
髙橋:60歳以降も、それ以前と同じ考え方で評価・処遇します。今回の定年延長は、これまで培ってきた経験や知見を引き続き発揮し、会社に貢献していただきたい。そのための改定です。担う役割や貢献に応じて評価・処遇する考え方は変わりません。まだ会社に貢献し続けたい、挑戦したいという意思がある人が、年齢だけを理由に成長や活躍の道を失わないようにする制度と捉えてもらいたいです。
――次に、定年延長と同時に見直される退職給付制度について伺います。 どのように変わるのでしょうか。
髙橋:現在は、会社が将来の給付額を約束する確定給付企業年金(DB)、会社が掛金を出して従業員自身が運用する確定拠出年金(DC)、そして退職一時金という三つの制度があります。改定後はDBとDCをDCへ一本化し、退職一時金を廃止します。
ここでお伝えしたいのは、これまで積み立ててきた退職給付がなくなるわけではないということです。過去に積み立ててきたDBと退職一時金の積み立て相当分は、従業員自身のDCへ移します。今後は会社がDCに掛金を拠出し、退職給付制度説明会などで学ぶ機会を設けたうえで、従業員自身が運用商品を選び、資産を形成していく仕組みになります。
――なぜ退職給付の仕組みを変えるのでしょうか。
髙橋:退職給付制度については、もともと「退職後の安定した生活を支援する」という考え方がありますが、その基本的な考え方自体は今回の改定でも変わりません。一方で、今回の定年延長に伴い、退職給付制度のあり方について一部見直しを行うこととしました。
これまでの日本の雇用慣行の中では、退職金は、定年後の生活を支えるものとして設計されてきました。今回、定年の見直しにより雇用期間が延び、働き続けることで給与が支給される期間も長くなります。そうした変化を踏まえ、退職後の生活を支えるという考え方は維持しつつ、今後は、従業員一人ひとりが自身で資産形成・運用を行うDCを中心とした制度へ見直すこととしました。
退職一時金の廃止だけを切り取れば、従業員にとって不利益な改定に見えるかもしれません。しかし、定年延長や65歳以上の処遇、キャリアの選択肢なども含め、制度全体として従業員にプラスに働くよう設計しています。従業員には、一つひとつの制度だけで捉えるのではなく、今回の改定全体を通して見てもらいたいと考えています。
――そして三つ目が、従業員への株式付与* です。働く期間や退職給付の話と、株式はどうつながるのでしょうか。
髙橋:ここまでの二つの改定は、働く期間や退職給付を「自分で選ぶ」ための制度でした。株式付与は、その選択の先にあり、会社の成長を一緒に実感してもらうための制度です。これは、単に会社の株価の日々の値動きに興味を持ってほしいということではありません。一人ひとりの仕事が会社をより良くし、その積み重ねによって企業価値が向上(=株価の上昇)していくことを、一人ひとりの仕事の成果と会社の成長がつながっていることをより身近に感じてほしいのです。
これまで会社の成長に伴った利益の還元は、投資家に向けたものと捉えられやすかったかもしれません。従業員が株式を持つことで、株主への還元が従業員への還元にもつながります。出身会社や国籍、所属する組織が異なっても、「ONE SHIONOGI」として会社の成長を喜び、自分の仕事に誇りを持てる。株式付与を、そのきっかけの一つにしたいと考えています。
* 記載内容は現在検討中のものであり、今後の審議・手続き等により変更となる可能性があります。
――制度が変わることにより、従業員にはどのような意識を持つことが求められますか。
髙橋:選択肢が増える分、自分のキャリアを自分ごととして考える責任も大きくなります。一人ひとりの事情や望む働き方は異なりますから、会社が一つのモデルケースを示し、全員がそれに沿って歩く時代ではありません。
自分は今後どのように働きたいのか。会社の中で何に挑戦し、どのような成果を出したいのか。一人ひとりが自身のキャリアについて考え、納得感のある選択につなげていただきたいと思います。
人事部としても、キャリアを考える研修や人事制度説明会・退職給付制度説明会の機会を設けます。また、1 on 1の場などでも相談できるよう、マネジャー層への研修も行いながら、従業員の選択を支えていきます。
自ら挑戦したいことを考え、それを実現することは、仕事のやりがいだけでなく、人生全体の充実にもつながると思います。私自身、二度の社内公募を通じて、やりたい仕事に挑戦する機会を得ました。だからこそ、従業員一人ひとりが自分なりのキャリアを描き、それに挑戦できる。そして、それぞれの場所で力を発揮できる環境をつくりたいと考えています。
――大きな制度改定を進める中で、髙橋さんが大切にしてきたことを教えてください。
髙橋:制度を考えるうえでは、まず従業員の立場に立って、制度が一人ひとりの働き方や人生にどのような影響を与えるのか、その点をまず考えることを大切にしています。一方で、従業員側の視点だけに偏るのではなく、制度全体として持続可能なものにしていくという視点も持ちながら、今回の制度を考えてきました。
今回の人事制度の改定で、改革が終わるわけではありません。人事制度のグローバル化や会社統合に伴う制度移行も含め、従業員の挑戦と活躍を後押しし、SHIONOGIグループが成長し続けるための基盤を整えていきます。
一人ひとりが自分のキャリアを考え、それぞれの場所で力を発揮することが、SHIONOGIの成長につながると考えています。人事部としても、対話を大切にしながら、一人ひとりのキャリア選択の機会を支えていきます。