気候変動に対するSHIONOGIグループの考え方

 気候変動に伴い、これまで経験したことのない台風や豪雨による洪水、山火事などの自然災害が世界各地で発生し、サプライチェーンの寸断など事業の不確実性が高まっています。世界各国が気候変動対策を推進する中、日本においても2020年10月、政府が2050年にカーボンニュートラルを目指すことを宣言し、これを起点に脱炭素社会への移行が加速しています。

 SHIONOGIは自然資本を投入し事業を営む企業グループとして、地球環境の保全を通じた持続可能な社会の実現は私たちが果たすべき重要な責務と認識しています。

 気候変動対策を経営戦略の一環として全社のガバナンス体制を構築し、中長期的な事業環境上のリスク・機会を特定・評価したうえで、リスク低減や事業機会の創出につなげるべく、取り組みを推進しています。

TCFDへの賛同およびTCFDコンソーシアムへの加盟

 SHIONOGIグループは2022年3月にTCFD*1 提言への賛同を表明するとともに、TCFD提言へ賛同する国内企業や金融機関などが一体となって取り組みを推進するTCFDコンソーシアムに加盟しました。TCFD提言を踏まえ、気候変動に関連するリスクと機会の評価や管理を行い、適切な情報開示を推進しています。
TCFDおよびTCFDコンソーシアムのロゴ
 2022年度は、 TCFDのフレームワークを参考に、グループ内の関連組織が連携してSHIONOGIの事業における気候変動の影響について詳細な評価を実施するとともに、戦略ならびに具体的な対応策を検討しました。

 各項目末尾に括弧書きで、ご参考としてTCFDが推奨している開示事項の項番を記載しています。

Recommendations | Task Force on Climate-Related Financial Disclosures (fsb-tcfd.org)(外部リンク)

*1 気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures): G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)により、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するため設立された組織

SHIONOGIグループのガバナンス体制とリスク管理

 SHIONOGIは、経営戦略・経営基盤を支える仕組みとして、グループ全体のリスクを統括する全社リスクマネジメント(Enterprise Risk Management、以下「ERM」)体制を構築しています。気候変動を含むSHIONOGIグループの将来の事業環境に重大な影響を与える可能性のあるリスク・機会についてはERM体制の中で重要度・発生可能性などを評価し、その対応策の着実な実行を管理するとともに、それらの進捗は経営会議での審議の後に、取締役会に報告しています。
リスクマネジメント体制図

 また、SHIONOGIグループでは、環境(E:Environment)、健康(H:Health)、安全(S:Safety)に関連する諸活動を統括してマネジメントする統括EHS管理機能を整備しており、気候変動リスクへの具体的な対応策は統括EHS管理機能においてその進捗を管理しています。上席執行役員 経営支援本部長を統括EHS責任者に任命しており、統括EHS責任者が「SHIONOGIグループ中央EHS委員会*2」および「省エネ委員会*3」の委員長を務めています。これら合計して年4回以上の頻度で開催される各委員会の決定事項は代表取締役社長に報告すると共に、上位の審議に諮る必要がある事項については経営会議に上程し、より深い議論が尽くされる体制を整備しています。

EHS推進体制の図

 ERM体制に関する詳細はリスクマネジメントのページおよびガバナンスのページをご覧ください。

(ガバナンス:推奨開示a, b)

(リスク管理:推奨開示c)

*2 SHIONOGIグループ中央EHS委員会:環境に関連したポリシーや中長期目標、実績レビューや環境課題の抽出、環境リスク評価などの全社横断的な重要事項の審議承認機関。
*3 省エネ委員会:「SHIONOGIグループ中央EHS委員会」の下部委員会であり、気候変動、省エネに特化した事項の審議機関。

SHIONOGIグループの気候変動戦略

 SHIONOGIグループでは、2022年度に経営戦略および調達関連組織によって構成されるプロジェクトを立ち上げ、社会における脱炭素に向けた動向を踏まえ、1.5℃と4℃の二つの温度帯を用いたシナリオ分析を行い、気候変動のリスク・機会の評価・特定、財務影響の評価、リスク対応方針の立案などの気候変動戦略を検討しました。検討結果は統括EHS責任者ならびに経営会議に報告した後に、取締役会からの承認を得ています。

リスク・機会の評価・特定ならびに対応策の立案プロセス

 気候変動のシナリオ分析では、気候変動が事業活動に影響を与える「移行リスク」「物理リスク」「機会」を網羅的に抽出し、抽出した各項目の財務影響と事業のレジリエンスを1.5℃、4℃のシナリオに分けて評価したのちに、対応優先度の評価と対応方針および対応策の立案を行っています。これらリスクの特定から対応策の立案に至る過程および重要な事項は、経営会議および取締役会に報告し、承認を得ています。
(リスク管理:推奨開示a, b)

シナリオ分析の進め方の詳細

 将来のSHIONOGIグループの事業へのリスクと機会を把握する目的でシナリオ分析を実施しました。下記の文献を参考に、2030年段階における事業に与える影響を評価しています。

・1.5℃シナリオ:2100年に産業革命期比で平均気温が+1.5℃未満に抑制

- 参照する気候シナリオ:IEA*4-NZE、IPCC*5-1.5、IPCC AR6 SSP*61-1.9、等

- 今より厳格な対策(炭素税、環境規制等)が導入され、社会全体が積極的に気候変動対策に取組む

・4℃シナリオ:2100年に産業革命期比で平均気温が+4℃上昇

- 参照する気候シナリオ:IPCC AR6 SSP3-7.0/SSP5-8.5、等

- 厳格な対策(炭素税、環境規制等)は導入されず、自然災害が激甚化・頻発化(成り行きの世界)

*4 IEA(International Energy Agency):国際エネルギー機関
*5 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change):気候変動に関する政府間パネル
*6 SSP(Shared Socio-economic Pathway):共通社会経済経路
Table 1: 1.5℃/4℃シナリオで想定される外部環境変化

SHIONOGIグループを取り巻く外部環境

1.5℃シナリオ 4℃シナリオ
政策・規制 2050年カーボンニュートラル実現のための政策強化(炭素税導入、再エネ比率拡大、省エネ強化等) 激甚災害対策への政策強化(規制、補助金等の政策支援)
投融資機関 カーボンニュートラルに向けた、政策に比してより高度な要請 気候変動の進行による自然環境の悪化への対応圧力はあるが、投融資判断に影響を及ぼすには至らず
社会 脱炭素社会による価値観(消費性向)の変化 現状と変わらず
自然環境 緩やかな気象変化 自然災害の激甚化・頻発化、降水パターンの変化

シナリオ分析の検討対象

 日本国内および海外のSHIONOGIグループの各工場、および当社グループ主力製品に関わるサプライチェーンを対象としています。

リスク・機会の評価・特定

 1.5℃および4℃シナリオを用いたSHIONOGIグループの気候変動に関するリスク・機会の評価結果は下表(Table2)のとおりです。

 財務影響が相対的に大きい気候変動に起因するリスク・機会として、1)カーボンプライシング導入、2)局所的な異常気象・気温上昇による原材料調達への影響、3)海面上昇、の3つを特定しています。仮に特定したすべてのリスク・機会が顕在化することを想定した場合において、SHIONOGIグループの中期経営計画STS2030の最終年度である2030年に目標とするコア営業利益に与える財務的な影響は約10%程度に留まると予想しています。したがって、今後想定され得る気候変動シナリオに対する事業のレジリエンスは十分担保されていると判断しています。

(戦略:推奨開示a, b, c)
Table 2: 気候変動に関するリスク・機会の評価概要
分類 主なリスク・機会 想定されるリスク・機会の詳細 2030年度単年での財務影響*7
1.5℃シナリオ 4℃シナリオ 備考
移行リスク 政策 カーボンプライシング導入 炭素税、排出量規制、排出量取引制度などの導入・拡大等、製造行為や調達行為などに関する新たな規制ができる SHIONOGIグループのScope1-3を対象としたワーストケース想定で、約49億円*8(1.5℃シナリオの場合)
省エネ規制の強化 生産設備への省エネ規制が、現行の「地球温暖化対策の推進に関する法律」で求められるエネルギー消費原単位の年平均1%以上の低減よりも強化され、追加の設備投資が発生する  
物理リスク 急性 局所的な異常気象・気温上昇による原材料調達への影響 生物由来の原材料について、気温上昇により生育・収量、品質、価格等に影響が出て、調達が難しくなる 品質試験で用いるライセート試薬が調達できない場合を想定
風水害の激化によるサプライチェーン設備の被災 局所的な異常気象(台風、ゲリラ豪雨など)やそれに伴う災害(設備損傷、浸水、停電など)により、サプライチェーンが分断・操業停止する  
慢性 海面上昇 海面上昇により、工場等の拠点が操業不可能になる ワーストケースとして、工場等の拠点移転が発生する場合を想定
機会 市場 新規医薬品の研究開発による新市場・地域の開拓 SHIONOGIグループがこれまで培った医薬品の研究開発における技術・ノウハウ等の新たな疾病への適用 NTDs治療薬の開発および上市を想定
環境にやさしい低炭素容器包装への切り替え 環境にやさしい包装資材への切り替えに伴うコスト削減  
*7 財務影響: 大:100億円以上、中:10億円以上~100億円未満、小:10億円未満
*8 IPCC1.5℃特別報告書を参考に、炭素税を16,523円/tCO2と社内設定して試算

 財務影響が相対的に大きい1)カーボンプライシング導入、2)局所的な異常気象・気温上昇による原材料調達への影響、3)海面上昇の3項目については、SHIONOGIグループとしての対応方針を下表(Table3)のとおり定めています。

Table 3: 特定したリスクに対するSHIONOGIグループのリスク対応方針
特定されたリスク リスク対応方針の分類 リスク対応方針の設定に関する備考
カーボンプライシング導入 リスク低減 海外の一部の国ではカーボンプライシングは導入済み、かつ日本政府でも導入検討中のため、中期的に発現する可能性が比較的高い。そのため、当社GHG排出量の中長期的な削減活動を行い、リスクを低減する。
局所的な異常気象・気温上昇による原材料調達への影響 リスク保有 気候変動によりカブトガニの個体数が少なくなることで、その血液成分を原料とするライセート試薬が調達できず品質試験ができなくなり、主力医薬品の一部が出荷停止する影響をワーストケースと想定。しかし、試薬メーカー側でカブトガニ保全活動が行われている、あるいは仮にライセート試薬の調達が困難になった場合でも遺伝子組み換えタンパク質を用いたライセート試薬の代替試薬が存在している。そのため、長期的な可能性は排除できないが、2030年段階でリスク発現する確率は現時点では極めて低いと判断し、リスクを保有する。
海面上昇 リスク保有 気候変動による長期的な海面上昇のトレンドは疑う余地はなく、当社主要拠点のうち海抜が特に低い一部事業所の操業に悪影響を与える可能性をワーストケースと想定。ただし、2031-2050年平均としての日本沿岸の海面上昇は0.2m未満と予測されている。そのため、長期的な可能性は排除できないが、2030年段階でリスク発現する確率は現時点では極めて低いと判断し、リスクを保有する。

炭素税(カーボンプライシング)

 IPCC1.5℃特別報告書を参考に、炭素税の2030年想定を135USD/tCO2と社内設定しました。また、2022年3月末の為替レート122.39円/USDを参考に、炭素税は16,523円/tCO2と設定しました。この値を用いて、炭素税が関連する財務影響を試算しました。

SHIONOGIグループ気候変動対策の指標と目標

 SHIONOGIグループは中長期的な目標であるEHS行動目標の一部に、気候変動に関するリスク低減を目的とした指標として「温室効果ガス(CO2)の排出の削減」を掲げています。また、日本政府の「2050年カーボンニュートラル宣言」および世界的な温室効果ガス(CO2)排出削減への取り組みに対応するため、SHIONOGIグループとしても2050年のカーボンニュートラルを目指して2030年度温室効果ガス排出削減目標としてSBTを設定しています。この目標は2021年6月にSBTイニシアチブからの承認を取得しています。

・指標:温室効果ガス(CO2)の排出の削減(2019年度基準)

・目標:

- 温室効果ガスの排出量(スコープ1+2)を2019年度と比較し、2030年度までに46.2%削減する

- 温室効果ガスの排出量(スコープ3、カテゴリー1:購入した製品・サービス)を2019年度と比較し、2030年度までに20%削減する

 2030年度のSBT目標達成に向けてSHIONOGIグループの工場、研究所などの主要サイトを中心に再生可能エネルギー由来電力を順次導入し、CO2排出削減への取り組みを進めています。また、エネルギー効率の改善として原単位の年1%改善、エネルギー消費効率の高い設備導入についても目標としています。毎年の活動進捗に関しては、気候変動のページをご覧ください。

(指標と目標:推奨開示 a, b, c)
温室効果ガス(CO2)の排出量の中長期目標
* SBTイニシアチブの認定を取得した目標

関連プレスリリース